EP 15
借金契約の『瑕疵担保責任』!? 悪徳女神を論破し、最強のマイホームを建築する!
辺境の開拓村を襲った死蟲機の大群と、合成死蟲将軍機の完全討伐。
その報告を持ち帰った俺たち『ホープ・クローバー』を、王都の冒険者ギルドはパニックに近い騒ぎで出迎えた。
当然だろう。結成したばかりのEランク(訓練生)パーティーが、防衛拠点ごと魔物を消し飛ばし、村人に怪我人ゼロという奇跡的な戦果を叩き出したのだ。
ギルドマスター直々に特例の昇級打診と、目玉が飛び出るほどの莫大な報酬(金貨の山)が俺たちに手渡された。
「や、やったぁぁぁっ! 俺、借金返せる! これでマグローザ漁船(ケツ拭きのK)に行かなくて済むんだぁぁっ!」
分配された報酬を抱きしめ、ユートがギルドの中心で男泣きしている。
リーザは「これで毎日タローマン弁当が食べられますの!」と小銭の山にダイブし、キャルルは「トリス君、このお金で美味しいメロンソーダのプール作ろうよ」と物騒な提案をしてきている。
「落ち着け、お前ら。……ユート、お前は今からその金で借金を返しに行くんだよな?」
「はい! ルナミス帝国のアンテナショップに行って、あのコタツの女神様に全額叩き返してやります!」
「ちょっと待て。そのローン契約書、俺に見せてみろ」
俺はユートから、彼が涙と汗でシワシワにした契約書を受け取った。
前世で、元請けやクレーマー施主が持ってくる『不利な特約まみれのクソ契約書』を嫌というほど読まされてきた俺の目が、瞬時に書類の違法性をスキャンする。
(……なるほど。タローマン製の鉄鎧一式(実勢価格一万円)を、『伝説の武具』と偽って百万円で売りつけている。さらに、法定金利を完全に無視した複利計算。支払えない場合は強制労働(マグローザ漁船行き)……完全に違法だ)
俺はニヤリと笑い、ユートの肩を叩いた。
この『悪知恵S』のステータスに任せておけ。
「行くぞユート。借金は『返す』んじゃない。――契約そのものを『叩き潰す(解体する)』んだよ」
▽ ▽ ▽
王都の裏路地にある、怪しげな『女神ルチアナのアンテナショップ』。
俺はユートたちを引き連れて店内に入り、無人のカウンターに置かれた『神界直通・魔導通信石』のスイッチを強引にオンにした。
『あー、はいはい。毎度おなじみルチアナショップ……って、げっ!? お前、私が適当に転生させた土方スキルの……!?』
空中に投影されたホログラムモニターに、芋ジャージ姿でビール片手の駄女神・ルチアナの顔が映し出される。
「久しぶりだな、コタツ女神。今日はうちのクランの身内が背負わされた、クソみたいな借金契約の件で連絡した」
『は、はぁ!? あんたユート君の知り合いなの!? ていうか、あれは彼が納得してサインした正当なビジネスで――』
「正当? 笑わせるな」
俺は契約書をモニターに突きつけ、一級建築士(社会人)としての冷徹なロジックで追い詰める。
「第一に『錯誤無効および詐欺』だ。一万円のタローマン製武具を『伝説の武具』と騙して販売した時点で、明らかな詐欺罪が成立する。第二に『瑕疵担保責任』。伝説の防具として売っておきながら、ゴブリンの棍棒で凹むような品質の欠陥品を押し付けたな? これは民法上の重大な契約違反だ」
『なっ……い、いや、それはアナステシア世界の仕様であって……!』
「第三に『未成年者契約の取り消し』だ! ユートは十六歳。親権者(保護者)の同意のない借金契約は無条件で白紙に戻せる。……さて、この真っ黒な違法契約書の件、天使長のヴァルキュリアや、ゴッドチューブの運営に報告してもいいんだぜ?」
俺がニッコリと笑ってトドメを刺すと、モニターの向こうでルチアナが「ひぎぃっ!?」とカエルが潰れたような悲鳴を上げた。
『ま、待って! ヴァルキュリアにバレたら、また五時間正座からの青汁一気飲みコースになっちゃう! 月人君のライブチケット代も没収されるぅぅっ!』
「なら、どうするべきか分かるよな?」
『……わ、分かりました……借金は全額チャラ(無効)にしますぅぅ……。だから告発だけは勘弁してぇぇ……!』
ホログラムがプツンと切れ、ユートの手元にあった借金契約書が光となって消滅した。
「えっ……? う、嘘だろ……? 百万円の借金が、トリスの一言でゼロに……!?」
「マグローザ漁船に行かなくていいんですの!? トリス様、神ですの! あ、さっきのは駄女神でしたの!」
「だから言ったろ? 力任せの解体より、法と書面で外堀を埋めたほうが、よっぽど確実で早いんだよ」
俺は呆然とするユートから、彼が返済のために用意していた金貨の山をひょいっと回収した。
「てことで、借金返済用に用意してたこの金と、討伐報酬。これだけあれば、王都郊外の土地くらい余裕で買えるな」
俺の言葉に、キャルルがウサギ耳をピンと立てた。
「土地……? もしかしてトリス君、ついにあれを建てるの!?」
「ああ。ずっと約束してただろ。俺たちの『最強のマイホーム』を建てるってな」
▽ ▽ ▽
翌日。
俺たちは王都の郊外、見晴らしの良い小高い丘の上にある広大な開拓地を購入していた。
「資材は山ほどある。いくぞお前ら」
俺は丘の中心に立ち、腰の魔法ポーチから大量の素材を展開した。
ネクロバグから剥ぎ取った超強固な甲殻、アイアン・ボアの鉄骨、大量の魔石、そして王都で買い付けた最新の魔導ガラスとセメント材。
「【建築工房】フル・アクティベート。……脳内CAD、出力!!」
俺の両手から凄まじい魔力が大地に注ぎ込まれる。
ズゴゴゴゴォォォォッ!!
大地が鳴動し、基礎工事が一瞬で完了する。
鉄の骨組みが空に向かって伸び、ネクロバグの装甲を加工した漆黒の外壁がパズルのように組み合わさっていく。
俺の百馬力の魔力と、一流の構造計算が織りなす究極の建築魔法。たった数分で、丘の上に巨大な『城』が完成した。
「す……すげえええええっ!! なんだこのカッコいい城は!?」
「ピカピカですの! 王宮みたいですのぉぉっ!」
歓声を上げるユートとリーザをよそに、俺は満足げに頷いた。
「ただデカいだけじゃない。外壁はネクロバグの甲殻とゲロ・コンクリートを混ぜ合わせた最強の魔導防弾仕様。大砲撃たれても傷一つ付かない」
俺は玄関の扉を開け、内部の設備を三人に披露する。
「リーザの部屋は、完全防音の『ライブスタジオ仕様』だ。思いっきり歌の練習をしていいぞ。ユートには、地下に魔導トラップ完備の『修業用闘技場』を用意した。そしてキャルル、お前の部屋は日当たり最高の角部屋で、人参畑つきのバルコニーがある」
さらに、俺は廊下や階段の至る所を指差した。
「そして一番のこだわりはここだ。全館バリアフリー、段差ゼロ。そして……階段には絶対に外れない『超頑丈な手すり』を完全完備している!!」
「……トリス、なんで手すりばっかりそんなに熱く語ってんの?」
「俺のトラウマ(死因)なんだよ、言わせんな!」
手すりのない階段の恐ろしさは、俺が一番よく知っている。この家では絶対に転落事故は起こさせない。
「すごい……本当に、私だけの居場所ができた……」
キャルルが、ピカピカのフローリングを撫でながら、目に薄っすらと涙を浮かべていた。
借金に怯えていた勇者も、鳩とパンの耳を取り合っていたアイドルも、皆が最高の笑顔で新しい家を見上げている。
「よし。これでようやく、俺たち『ホープ・クローバー』の拠点が完成だ」
俺はタローマンジャージのポケットに手を突っ込み、抜けるような青空を見上げた。
実家のクソ物件から追放され、規格外のポンコツ仲間たちと共に立ち上げたフリーランスの建築士ライフ。
だが、これはまだ『基礎工事』が完了したに過ぎない。
俺の圧倒的な悪知恵と、こいつらの無駄に高いスペックがあれば、この世界の理不尽な魔物も、神々の思惑すらも、全て俺の設計図通りにリフォームしてやれる。
「さあ、次の現場の準備をするぞ、お前ら! 俺たちの手で、この世界に最高のインフラをぶっ建ててやろうぜ!」
「おおおおおっ!!」
元一級建築士トリスと、不良建材(最強ポンコツ)たちの波乱万丈な異世界施工ライフ。
俺たちの設計図(物語)は、まだ線を引き始めたばかりだ。
読んでいただきありがとうございます。
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