表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
13/19

EP 13

 絶対無敵スパチャアイドルと、支持率爆上がり勇者!

 突如として平原に錬成された、巨大なドーム型ライブ会場キルゾーン

 まばゆい魔導スポットライトがステージの中央を照らし出すと、タローマン製の赤ジャージに手作りの王冠ティアラを乗せた少女――リーザが、マイクスタンドを力強く握りしめた。

「皆さまぁぁっ! 本日は辺境開拓村特設ドームへようこそですの! 私、愛と奇跡とスパチャで世界を救う絶対無敵のスーパーアイドル、リーザ・シーラン・リヴァイアサンですの! 最後まで、盛り上がっていくのですわよーーッ!!」

 防弾ガラスの向こう側に隔離された百人の村人たちは、あまりの超展開にポカンと口を開けている。

 だが、リーザはそんなことお構いなしに、息を大きく吸い込んだ。腐っても人魚姫。彼女の喉から放たれた歌声は、圧倒的な声量と魔力バフを伴ってドーム全域に響き渡った。

『愛! アイ! 愛! アイ! ラ〜ブラブ!』

『マネー! マネ! ローン! ダーリン! グ! Yeah!!』

 謎のハイテンションなイントロと共に、リーザの背後に巨大な幻影が浮かび上がる。

 それは、彼女のユニークスキル【貧乏神】の具現化――『超巨大・お賽銭箱型掃除機』だった。

「さあ、お前たちの全財産(魔力と装甲)、一つ残らず没収いただきますですの!」

 リーザがウインク(キラッ☆)を放った瞬間、お賽銭箱型掃除機が凄まじい吸引力を発揮した。

 ターゲットは、ステージの下で群がる五百匹の『死蟲機ネクロバグ』たち。

 機械蟲たちの強固な装甲に宿っていた魔力コーティングが、そして体内に蓄積されていた強酸や毒のエネルギーが、光の粒子となってお賽銭箱へと猛烈な勢いで吸い込まれていく。

『カチ、カチチチチッ!?』

『ギィィィィッ!?』

 突如として己のステータスとバフを全没収されたネクロバグたちは、パニックに陥った。

 鋼鉄のように硬かった甲殻はサビだらけのブリキのように脆くなり、吐き出そうとした強酸はただの水鉄砲と化す。凶悪な魔物の群れが、一瞬にして『ただのデカくて脆い虫』へと弱体化デバフされたのだ。

「す、すげえ……! あんなに恐ろしかった魔物たちが、ボロボロになってるぞ!」

「あの青い髪のお嬢ちゃんが、俺たちを助けるために魔法の歌を……!」

 防弾ガラスの向こう側で、村人たちがどよめき始めた。

 リーザの歌声には、人魚姫特有の『魅了チャーム』効果も含まれている。恐怖から解放された村人たちの心に、圧倒的なパフォーマンスを見せるアイドルへの『熱狂』が急速に伝播していく。

「いけえええっ! リーザちゃーーん!」

「俺たちの村を守ってくれえええっ!」

 誰かが松明をペンライト代わりに振り始めたのを皮切りに、百人の村人たちが一斉にガラスを叩き、大歓声を上げ始めた。

「――キタキタキタァッ! 俺の、俺の時代がキタァァァァッ!!」

 その『民衆の支持(歓声)』を全身に浴びて、ステージの最前列で鉄の盾を構えていた勇者ユートが、歓喜の雄叫びを上げた。

 彼のユニークスキル【ブレイブ】が、村人たちからの応援(支持率)を吸い上げ、限界突破の稼働を始める。

 ブォォォォォォォッ!!

 タローマンで買った一万円の安物鉄鎧が、黄金色のオーラを放って眩く輝き始めた。

 筋肉の密度が跳ね上がり、神経伝達速度がいかずちの領域へと到達する。

 借金に怯える気弱な農民の少年は今、神にも匹敵するステータスを持った『無敵の勇者』へと昇華したのだ。

「いくぜぇぇぇっ! アイドルと、俺の借金返済(未来)を守るために! ――『ライトニング・ブレイク』!!」

 ユートが、闘気と雷魔法を鉄の剣に極限まで纏わせ、ステージからネクロバグの群れへと飛び込んだ。

 速い。いや、もはや『落雷』そのものだった。

 ジグザグの閃光が群れのど真ん中を駆け抜けた瞬間、リーザのデバフで装甲が紙切れのように脆くなっていた数十匹のネクロバグが、一瞬にして真っ二つに両断され、爆散した。

「うおおおおっ! すげえええっ! 勇者様だああああっ!」

 村人たちのボルテージがさらに跳ね上がる。

 支持率(歓声)が上がれば上がるほど、ユートの力は無限に増幅していく。まさに最凶のマッチポンプ戦術だ。

「ハァァァァッ! 『ドリル・トルネード』!!」

 ユートが剣を突き出すと、高密度の風の竜巻がドリル状になって放たれ、後続の死蟻機ネクロアントたちをまとめてミンチに変えていく。安い鉄の剣が折れないのは、ユートの凄まじい闘気オーラが刃の構造強度を無理やり補強しているからだ。

「うおおお! 勇者様! 勇者様!」

「リーザちゃん! リーザちゃん!」

 ドーム内は完全に、狂乱のライブフェス会場と化していた。

 だが、敵は五百。ユートの雷撃をすり抜け、ステージの側面や上空からリーザに襲いかかろうとする死蝿機ネクロフライ死蜂機ネクロワスプの姿があった。

「チッ、害虫がステージに上がろうとすんじゃねえよ」

 ステージの袖(安全地帯)。

 ルナキンのメロンソーダを飲み干したキャルルが、不機嫌そうに目を細めた。

 彼女はタローマン特注の安全靴の踵を、トントン、とステージの床で鳴らす。

「トリス君が作ってくれた、この最高に可愛いおステージ。汚す奴は出禁ミンチだよ。――『月影流・乱れ鐘打ち』!」

 パパパパパンッ!!

 キャルルの姿がブレたかと思うと、空中に残像がいくつも発生した。

 上空からリーザに迫っていた数十匹の飛行型ネクロバグの顎、羽、胴体のジョイント部分(急所)を、マッハの速度で放たれる回し蹴りが正確に粉砕していく。

 ガガガガガッ! ドシャァァァァッ!

 蹴り抜かれた機械蟲たちは、まるでプレス機にかけられた空き缶のようにひしゃげ、ステージの下へとボトボトと落下していった。

 キャルルは空中でくるりと一回転して着地すると、前髪を払いながらにっこりと微笑んだ。

「はい、害虫駆除完了♡ リーザちゃん、安心して歌っていいよ!」

「ありがとうですの! キャルル様、イケメンすぎますのぉぉっ!」

     ▽ ▽ ▽

「……よし。応力分散、完璧。構造システムは完全に機能しているな」

 ステージ横のコントロールブース。

 俺は魔導照明のスイッチを切り替えながら、戦場(現場)の被害状況データを確認していた。

 防弾ガラスの向こうの観客(村人)に被害ゼロ。

 ステージ上のアイドル(デバフ役)に被害ゼロ。

 アタッカーの勇者ユートは、歓声という無尽蔵のリソースを燃料にして、無補給で暴れ回り続けている。

「おいユート! 右翼の壁際に敵が固まってる! そっちに落としピットを空けるから、まとめて吹っ飛ばせ!」

「了解ッス、現場監督トリス!」

 俺が【建築工房】で床の形状をリアルタイムに操作し、ネクロバグたちを一箇所に誘導する。

 密集した敵の群れに向けて、ユートが極大の雷撃を叩き込む。その間にも、リーザの『Love & Money』のサビが響き渡り、魔物たちの装甲はどんどん脆くなっていく。

 全てが俺の『設計図プロデュース』通りだ。

 圧倒的な火力を誇る不良建材たちを、適材適所に配置し、彼らのモチベーション(利益)と能力を最大化する。

 どんな無茶苦茶な素材だろうと、大黒柱となる『現場監督』が完璧な動線を引いてやれば、これほどまでに強固な戦線が構築できるのだ。

「いいぞお前ら! その調子で残りのゴミを片付け――」

 俺がマイクでハッパをかけようとした、その時だった。

 ズズズズズズズッ……!!

 突然、ドーム全体を揺るがすような、局地的な『大地震』が発生した。

 俺が錬成した強固な岩盤の床が、内側から凄まじい力で突き上げられ、蜘蛛の巣状に亀裂が走る。

「な、なんだ!? 地震か!?」

「キャッ……! 歌えませんの!」

 ユートが体勢を崩し、リーザがマイクスタンドにしがみつく。

 俺の脳内CADに、足元深くから急浮上してくる『規格外の巨大な質量』のデータが警告音と共に表示された。

(……この荷重、雑魚の比じゃない。地下から……来る!)

 ドガァァァァァァァァンッ!!!

 ステージと防弾ガラスの中間地点の床が、火山のように爆発して吹き飛んだ。

 舞い上がる土砂の中から姿を現したのは、全長十メートルを超える巨大な黒い影。

 カマキリの鎌、蜘蛛の脚、蟻の装甲、そして無数の複眼をモザイクのように繋ぎ合わせた、おぞましき合成魔獣。

 死蟲王サルバロスの最高傑作の一つ――『合成死蟲将軍機ネクロキメラ・ジェネラル』だった。

『ギギギギギ……ッ!! 人間共メェェェェッ!!』

 将軍機が、耳をつんざくような機械の咆哮を上げる。

 その圧倒的なプレッシャーと、邪悪な魔力の奔流に、防弾ガラスの向こう側にいた村人たちが悲鳴を上げて後ずさった。

「ひ、ひぃぃぃっ! バケモノだぁぁっ!」

「もう駄目だ! あんなの勝てるわけがない!」

 村人たちの目に『絶望』が宿る。

 ペンライト代わりに振られていた松明が次々と下ろされ、歓声が悲鳴と絶望の沈黙へと変わっていく。

「……まずい」

 俺は舌打ちをした。

 民衆の支持(応援)が消えた瞬間。

 ユートの身体を包んでいた黄金のオーラが、プツンと、コンセントを抜かれたように消失したのだ。

「えっ……? あ、あれ? 力が……抜けて……」

 突然のバフ消失に、ユートがガクンと膝をつく。

 無敵の勇者から、タローマンの鉄鎧を着ただけの『借金に怯える気弱な農民の少年』へと、ステータスが急降下ロールバックしてしまった。

『ギシャァァァァァッ!!』

 将軍機は、弱り切ったユートには目もくれず、巨大なカマキリの鎌を振り上げた。

 その狙いは、デバフを撒き散らしていた忌々しいアイドル(リーザ)と、ガラスの向こう側にいる『百人のエサ』たちだ。

「リーザちゃん、危ないッ!」

 キャルルが飛び出そうとするが、将軍機が放った粘着性の蜘蛛の糸が彼女の退路を塞ぐ。

「ヒッ……!? だ、誰か、助けてですのぉぉっ!」

 リーザが腰を抜かし、迫り来る死の凶刃を見上げて悲鳴を上げた。

 歓声は消え、バフは失われ、完璧だった陣形(構造)が崩壊の危機に瀕している。

 現場ライブは今、最悪のイレギュラーによって、絶望のどん底へと叩き落とされようとしていた。

読んでいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけましたら、★評価やブックマークで応援していただけると励みになります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ