EP 11
完璧な設計図。最強ポンコツクラン『ホープ・クローバー』の結成と初受注!
冒険者ギルドの片隅にある、薄暗い酒場の円卓。
そこに、俺がタローマンの食品コーナーで買い集め、自前の調味料で『リフォーム』を施した大盛りの肉野菜炒めと、山盛りの白飯がドンッと置かれた。
「はぐっ、むぐっ、あふっ……! 美味しい! お肉が、野菜が、生きてる味がしますのぉぉっ!」
「う、ううっ……あったけえ飯なんて、何日ぶりだろう……! 美味え、美味えよぉ……!」
極貧お賽銭アイドルのリーザと、借金まみれの勇者ユートが、涙と鼻水を流しながら凄まじい勢いで飯を掻き込んでいる。
その横では、ヤンデレ月兎族のキャルルが、俺の作った人参スティックをポリポリとかじりながら、品定めをするような目で俺を見つめていた。
「ねえ、トリス君って言ったっけ? 料理上手いね。それに、なんだかすごく……『芯』が太くてブレない感じがする。私、そういう頑丈な人、嫌いじゃないかも」
キャルルが長いウサギ耳をピクピクと動かし、頬杖をついてニヤリと笑う。
彼女の瞳の奥に、獲物をロックオンした肉食獣のような、ねっとりとした光が宿っているのを感じた。俺の『悪知恵S』が「こいつのパーソナルスペースには安易に立ち入るな。重いぞ」と警告を発している。
「味の再設計には自信があるからな。……さて、腹が膨れたなら本題に入ろうか」
俺はテーブルの中央に、白紙のクラン登録用紙を広げた。
そして、前世の現場で職人たちに工程表を説明する時のように、よく通る声でプレゼンを開始する。
「お前ら三人の素材は、個々で見れば社会不適合の不良建材だ。だが、俺の引いた設計図の上で組み合わせれば、世界最強の城が建つ」
俺はまず、皿を舐め回しているリーザを指差した。
「リーザ。お前は観客とスパチャ(金)を求めているが、路上で歌っても鳩しか寄ってこない。それは『舞台』と『演出』が欠如しているからだ。お前のユニークスキル【貧乏神】は、相手の魔力やバフを根こそぎ没収する凶悪な広域デバフ能力だ。俺が【建築工房】で安全な『ライブステージ』を作ってやるから、お前はそこで歌って、敵のヘイト(注目)を集めながら能力を吸い尽くせ」
「私専用のステージ……! やりますの! 歌って踊って、魔物から全財産巻き上げますの!」
「魔物は金持ってねえよ。だが素材は金になるからそれでいい」
次に、飯を喉に詰まらせて咽せているユートに視線を向ける。
「ユート。お前はルチアナの詐欺に引っかかった可哀想な奴だが……お前のユニークスキル【ブレイブ】の仕様を勘違いしている」
「えっ? ただの『勇者登録記念品』じゃないんですか?」
「違う。あれは『民衆の支持(応援)』が高ければ高いほど、自身のステータスに強力なバフがかかる能力だ。普段のお前が弱いのは、誰にも応援されていないからに過ぎない」
俺はテーブルの上に、コップと塩入れを並べて図解した。
「いいか? 俺が作ったステージで、リーザが歌う。リーザの歌で熱狂した観客の前に、魔物の群れが迫る。そこでユート、お前が『アイドルと観客を守る勇者』として飛び出せばどうなる?」
「あっ……!」
「観客は熱狂し、お前を全力で応援する。その瞬間、お前の【ブレイブ】は最大出力を叩き出し、神にも匹敵するステータスを得る。お前は一人で戦う必要はない。歓声を背に受けて、敵のボスをワンパンする『メインディッシュ』になればいいんだ」
ユートの目が、これまでにないほど大きく見開かれた。
常に借金とマグローザ漁船の影に怯え、孤独に震えていた農村の少年の瞳に、一筋の確かな光が宿る。
「俺が……アイドルを守る、本物の勇者に……? そんなこと、本当に……」
「俺がそのための段取り(工程)を全て組む。お前はただ、守るために剣を振れ」
俺の力強い断言に、ユートはポロポロと涙をこぼし、「やります……! 俺、やります!」と何度も頷いた。
最後に、俺はキャルルに向き直った。
「キャルル。お前は圧倒的な物理破壊力を持っているが、制御が効かない。お前の役割は『遊撃』と『ボディーガード』だ。ステージに群がる雑魚や、ユートの攻撃から漏れた敵を、その特注の安全靴で粉砕しろ。俺たちの現場を邪魔するクレーマーを排除する、最強の警備員だ」
「ふーん……悪くないね。で? 私がトリス君の言うことを聞いたら、何をしてくれるの?」
キャルルが身を乗り出し、俺の顔を覗き込んでくる。
俺は全く動じず、真っ直ぐに彼女の目を見返した。
「三食の美味い飯と、好きなだけのメロンソーダ。そして、誰にもお前の自由を縛らせない『絶対安全な居場所』を提供してやる」
「…………」
キャルルのウサギ耳が、ピンッと真っ直ぐに立った。
彼女は一瞬ぽかんとした後、頬をほんのりと赤く染め、口元を隠すように笑った。
「あはっ。トリス君って、本当に『私だけの家』を作ってくれそうだね。……いいよ、契約成立。私、あなたのこと結構本気で気に入っちゃったかも」
「それはどうも。だが、俺はあくまで現場監督だ。色恋沙汰で工期を遅らせる気はないからな」
俺はキャルルの重たい視線をサラリと受け流し、クラン登録用紙の中央に、ペンで力強く名前を書き込んだ。
「クラン名は『ホープ・クローバー』。俺たち四人の欠陥が集まって、最高の希望を組み上げる。……異論はないな?」
三人は顔を見合わせ、力強く頷いた。
こうして、元一級建築士をリーダーとする、ルナミス帝国史上最もカオスで最強のクランが誕生したのである。
▽ ▽ ▽
「さて、クラン結成の初仕事(着工)と行こうか」
登録を済ませた俺たちは、ギルドの依頼掲示板の前に立っていた。
ユートが「Eランクの薬草採取からですよね……!」と震え声で言ったが、俺は初心者用の掲示板を完全にスルーし、ギルドの奥にある『緊急・高難易度クエストボード』の前に立った。
そして、一枚の羊皮紙を剥がし取る。
「受付のお姉さん、これを受注する」
俺が差し出した依頼書を見た瞬間、受付嬢の顔からサァッと血の気が引いた。
「と、トリス様!? そ、それはCランクの緊急防衛クエストです! 結成したばかりのEランクパーティーが受けるような依頼ではありません! それに、相手はあの『死蟲機』の大群ですよ!?」
「ネクロバグ……?」
ユートが首を傾げると、横からベテラン冒険者が青ざめた顔で口を挟んだ。
「おいおい坊主、やめとけ! ネクロバグってのは、死蟲王サルバロスの眷属の機械蟲だ! 強固な装甲に、強力な酸や毒針を持ってる。しかも今回は、辺境の開拓村を狙って大群が押し寄せてるって話だ。並のパーティーじゃ一瞬で骨も残らず食い殺されるぞ!」
ギルド中が「死に急ぐ馬鹿どもだ」という視線を俺たちに向けてくる。
ユートがガチガチと歯を鳴らして震え始め、リーザも「虫は嫌いですの……!」と俺の後ろに隠れた。
だが、俺の脳内CADは、すでに完璧な『勝利の設計図』を描き出していた。
(ネクロバグの大群。……素晴らしい。あいつらの強固な甲殻は防弾・防魔の最高の『建材』になるし、酸や毒の分泌腺はトラップの素材になる。しかも、今回は『逃げ遅れた村人たち』という、最高の【観客】が揃っているじゃないか)
俺は怯えるユートの肩をポンと叩き、不敵な笑みを浮かべた。
「ユート、リーザ。ビビる必要はない。これは俺たちのクランにとって、完璧なデビュー戦(こけら落とし)になる」
「け、けど、大群なんですよ!? 俺のタローマンの鉄鎧じゃ、一瞬で穴空けられちゃいますよぉ!」
「お前には装甲なんて必要ない。お前はただ、俺の作ったステージの真ん中で、一番カッコよく剣を振るだけでいいんだ」
俺は受付嬢に向き直り、魔導通信石(身分証)をカウンターに叩きつけた。
「受注条件は『自己責任』だったはずだ。俺たちが死んでもギルドに責任は問わない。手続きを頼む」
俺の揺るぎない態度と、背後でキャルルが「早くしないとギルドごと蹴り飛ばすよ?」と物騒なことを呟いたため、受付嬢は震える手で受注印を押した。
「……じゅ、受理しました。場所は王都から馬車で半日の、辺境のポポロ村近郊の開拓地です。どうか、ご無事で……」
「ああ。最高のライブ(現場)にしてくるよ」
ギルドの重い扉を開け、外に出る。
太陽が高く昇り、俺たちの新たな門出を照らしていた。
「よし、資材と機材の確認は済んでいるな? 行くぞお前ら。俺たちの『ライブ会場』の設営だ!」
俺の号令に、三人がそれぞれの思惑を胸に頷く。
「大群の魔物……! スパチャ……いっぱい落ちてますの!? 稼ぎますのぉぉっ!」
「こ、殺される……いや、借金返すためにもやるしかない……! うおおおおっ!」
「トリス君の邪魔をする奴は、私が全部ミンチにしてあげるね♡」
強欲アイドル、借金勇者、ヤンデレ姫。
規格外の不良建材たちを束ねた元一級建築士の、常識外れの防衛戦が、今まさに幕を開けようとしていた。
読んでいただきありがとうございます。
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