1-2-2/3 5 人の意識
「そういえば、伝田さんがさっき北窓先生にしてた質問、答えは見つかった?」
「あ、ああ、そうだね保院くん。先生、授業終わりに人の意識について言いかけてたから、それがヒントになるのかなと思って考えてみた」
なぜB3Pで人を作ってはならないか。その理由に意識が関係しているであろうことは、喜歩も身をもって感じていた。
言いたいことはあるが、ひとまずは伝田が何を考えたか興味があった。
「まず考えたのはB3Pで生み出された人間って意識はあるのかなってこと。意識がどこから生まれるのかは分からないけど、人1人印刷してみたところで意識はないって可能性は十分あると思う」
「そう、なのかな?」
天貴は首を傾げる。
「実験してみなきゃ分からないっていうのが正確なんだと思う。でも、じゃあやってみましょうってなるかな?」
「うーん……。えらい人たちならやってみようって思うんじゃないかな? 実験が成功するまで。意識を持った人間を印刷できるまで」
天貴の答えが予想外だったのか、伝田は眉を顰め始める。
「えっと……、保院くん? それって実験が成功するまでにいくつもの失敗作が積み上げられるってことだよね?」
「うん。実験なんて失敗の繰り返しでしょ?」
――サイコパス。いや、無垢の極みなのかな。
喜歩は冷や冷やしながら天貴の様子を見ていた。
伝田も呆れたようにぽかんと口を開けている。
「あのね、保院くん。実験を私たちの授業のものと同じように思ってるのかもしれないけど、違うからね? B3Pの失敗作って、言ってしまえば死体の山だからね?」
「あそっか! それは簡単に作っちゃまずいよね!」
ほっと、喜歩から安堵のため息が漏れる。
「どうしたの喜歩?」
「いや、『倫理』の意味が今やっと理解できた気がするなと思って……」
死体の山を作ってでも実験を継続する。
それは人として許されないこと、即ち倫理に反することであることは容易に理解出来た。
「で、ここまででも人を作っちゃいけないって理由には十分だとは思うの」
気を取り直したように、伝田はさらに切り込んでくる。
「でもね。じゃあB3Pで意識まで印刷できるのなら、人は作っていいのかっていう問題が生まれる――」
「それは、違うと思う」
伝田が言い終えるのを待たず、喜歩は踏み込んだ。
「和戸……、くん?」
伝田が眼を丸くして見返して来る。
少し語調が強かったなと、喜歩は反省した。
「ご、ごめんね。でも俺、そこには思うところがあってさ」
「そうなの?」
「うん。俺の父さん、俺が生まれる前に事故に遭っちゃってさ。今もずっと意識がない状態で寝たきりなんだ」
重い話題が重くなり過ぎないように、喜歩はさらっと言ってのけた。
「ごめんなさい! そうとは知らず私、無神経なこと言っちゃったかも!」
しかし伝田は深刻な表情を浮かべ、地に頭をぶつけようかという勢いで頭を垂れた。
「いやいや気にしないで。さっきも言ったけど、伝田さんがB3Pに興味持ってくれてるのが嬉しいんだよ」
喜歩は慌てて手を振り、首を振り、伝田を制した。
伝田は恐る恐る顔を上げる。
「俺は父さんの顔を見たことはあるけど、父さんは俺の顔を見たことが無いんだよね。それに父さんと話をしたことも無い」
「だったら普通、話をしてみたいって思うよね? それなら意識はあった方がいいんじゃないの?」
伝田とは対照的に、天貴はずけずけと問うてくる。
むしろ話がしやすくて助かるなと喜歩は思った。
「それが父さんの意識だったらね。でももしそれがB3Pで印刷された意識だとしたら? それは本当に父さんの意識なのかな?」
「そう! そういうこと、私が言いたかったのは!」
伝田が手を叩いて、声を張り上げる。




