表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虚空に刷る  作者: ベンゼン環P
第一章 B3P
4/11

1-2-1/3 4 人の意識

 北窓の授業の後、喜歩は友人の天貴(てんき)と向き合い昼食をとっていた。

 

 喜歩の手元には、2段式の弁当箱をばらした細長い箱が2つ置かれている。

 その内の1つには唐揚げがメインを飾り、その横にレタスの緑、トマトの赤、卵焼きの黄色が彩りをもたらしている。

 もう1つの箱の中では米が窮屈そうに詰められていたのだが、既に半分ほど食べ進められている。その上に散りばめられたのりたまは、別添えのふりかけの袋からかけたものだった。

 いずれも食べ盛りの喜歩を思う母の気持ちが伝わるものである。

 

喜歩(きほ)のおばあさんがB3Pを作ったんだよね?」

「そうだよ。まあ作ったと言うか、実用化に成功したと言うのが正確なんだけど……。B3Pで印刷した心臓の移植を、世界で初めて成功させたことが注目を浴びたんじゃ無かったっけ……」

 喜歩は食べる手を止め、天貴の顔を見る。

「さっきの授業、教科書におばあちゃんの名前が出て来てちょっと照れくさかった……」

 箸を持つ右手の指で、そっと自身の頬をかく。

 

 久世(くせ)輪奈(りんな)、喜歩の祖母の名前だ。

 喜歩がB3Pについて少し詳しかったのは、これまでにも知識として触れる機会が多かったからである。

 

「でも伝田(でんた)さんもすごかったな、B3Pについて真剣に考えようとしてて、まるで自分のことみたいに嬉しくなっちゃった」

 喜歩は首を振り、教室の伝田の背中に視線を送る。声が聞こえたのか、伝田はこほんと咳払いした。


「俺、B3Pのことまだまだ分かってないんだなって思った」

「北窓先生、原理的なところは詳しく話してなかったよね。喜歩がたまに口にするたのーせーかんさいぼー? の話とか無かったし」

「それはちょっと思ったかな。保健の授業だから、理科的な内容とは趣旨が違うんだろうけど。でもおかげで新しい視点を得られた気がする」

「喜歩もすごいよ!」

 天貴は机をばんと叩き、立ち上がる。


「え?」

 無邪気に眼を輝かせる天貴を見て、喜歩は困惑を隠せない。

「喜歩は本当はもっとB3Pについて詳しいはずなのに、それをひけらかすでもなく、知らないことは知らないって言えるんだもん」

「あ、あー……、ありがとう……」

 再び恥ずかしくなってくる。

 喜歩はあくまでも自然に振舞っただけであり、褒められる心構えなどしていなかった。


 ――そんな風に人を褒められる天貴も十分すごいよ。

 心の中でそう思ったものの、余計に恥ずかしくなりそうだったので口には出さないでいた。


「ねえ、喜歩。実は僕の心臓、B3Pで印刷された物なんだ」

「え? そうだったの!?」

 またしても知らないことを突きつけられた。


「うん。と言っても僕が小さい頃の話だから良く分からないんだけど……、生まれつき心臓に問題があったんだよね。……あれ?」

「どうしたの?」

「伝田さんは障害が個性なんじゃないかって言って無かったっけ? もしかして僕も個性を奪われちゃった?」

「ああそういうこと、それは――」


「そういうことじゃないよ保院(ほいん)くん」

 (たま)り兼ねた様子で伝田が席から立ち上がり、喜歩と天貴の元へと歩いてくる。

 

「私が読んだ本の人って、手足が無くても割と普通に生活してたようなんだよね。もちろん周囲からの手助けは必要だったとは思うけど。それさえあれば私達と同じように生きていけたってこと。でももし、保院くんが小さい頃に心臓を取り替えていなければ……」

 伝田の声が次第に小さくなっていく。そして節目がちに天貴の顔色を伺う。確かに天貴の禁忌に触れかねない発言ではある。

「そうだね。今頃生きてなかったかも!」

 しかし天貴は楽しそうだった。


「個性云々の前に生きて無ければ意味が無いだろう?」

 話の輪から外され無いように喜歩も切り出す。

「だから天貴のお父さんお母さんも、B3Pの力を借りて天貴を助けたいと思ったんだよ」

 天貴に教えを説くような口調になってしまったが、内心では彼が生きていて良かったと感じていた。


「ところで伝田さん。伝田さんはB3Pに興味あるの?」

 喜歩は饒舌になっていた。日頃から伝田と会話することは無かったが、密かに可愛らしい子だと思っていた。この機会を活かさない手は無い。

「うん。B3Pと言うか、将来医者になりたいと思ってて……」

「すごい!」

 はにかみながら語る伝田に対して、天貴は相変わらず無邪気そうである。


「いや、そんな……。なりたいって思ってるだけで、まだ何とも……。勉強の成績もそこまでだし……」

「僕は伝田さんみたいな人や、喜歩のおばあさんみたいな人に助けてもらってたんだね! ちゃんと感謝しなくちゃ!」

 満面の笑みを浮かべる天貴を見て、喜歩と伝田は絶句する。

 同い年であるはずの天貴が、ここまで無垢を保てることが信じられなかった。

 

「せ、せいぜい和戸くんのおばあさんみたいになれるように頑張るよ……」

 伝田の笑顔は引きつっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ