5-1-2/2 28 反抗
問題は残りの半分だ。
予想に反し、喜歩の生物学上の父親はRNT02であるらしい。これまでRNT02の体を見せられ、父親であると教え込まれてきたことは真実であったということなのだが、それがかえってわだかまりの元である。
「俺が生まれたのは輪太との繋がりのためだったの?」
いっそ喜歩も、RNT02同様に刷られた存在であった方が受け入れられたかもしれない。
喜歩という存在が、輪太との繋がりの結果に過ぎないのだとしたら納得いく訳がない。
「そ、それは違うわ喜歩。おばあちゃん、喜歩と会うのがすごく楽しみだったんだから!」
輪奈は慌てて首を振る。
喜歩が生まれる前から、輪奈は経済的支援というエゴを以て孫を抱きしめたいと言っていた。
故に輪奈には喜歩に会いたかったと主張する根拠と権利がある。
一方で舞は痛いところを突かれた気がしていた。
今でこそ喜歩と過ごせる時間そのものが大事だと感じている。時々輪太に対して罪悪感を覚えてしまうぐらいには。
しかしながら輪奈の懇願を受け入れる決断を下したのは、輪太と繋がりたいという思いからだった。
「喜歩!」
舞は罪の意識に耐え切れず、喜歩を抱きしめようと両腕を伸ばす。
しかし喜歩はとっさに後ろへと身をよじった。そしてその勢いでテーブルをどんと叩いて立ち上がる。だんだん気が大きくなっているようだ。
「アンチの人が魂なき怪物って言葉を使ってたよね! RNT02が怪物ってこと?」
「それは……」
今度は言葉を詰まらせてしまう輪奈だった。
前提としてアンチB3Pの集団は、RNT02の存在自体を知るはずはないのだ。よってRNT02を特定して怪物などと主張している訳ではない。
しかしながら、B3Pで人1人印刷するという発想に至るのはごく自然なことなのかもしれない。
専門家の輪奈もその発想があったからRNT02を具現化することが出来たのだし、素人の喜歩でさえ仮説から真相を導いたのだ。
ましてや人一倍生命倫理に敏感なアンチB3P集団である。B3Pが本来存在するはずのない人間を生み出す可能性を見出しても不思議ではない。
それがほぼ信仰的な思想に基づいていたとしても、輪奈としては腹を読まれたような気分である。
先日喜歩に対して、正しく理解した上でB3Pについて批判する人もいると説いた。
それはアンチB3Pの主張の一部を痛感していたためだった。
神に与えられたとでも言うべき命を、人の手で取り戻そうとした結果、RNT02という生ける屍を生み出したと感じることがある。
それを魂無き怪物と呼ばれても、釈然としてしまうのだった。
「喜歩、RNT02が怪物なんてことはないわ。意識はなくても、きっと喜歩の誕生を喜んでいるはず。優しい輪太ならそうしたように……」
呆然としている輪奈に、舞が助け舟を出す。
しかし根拠などない、薄っぺらい言葉だった。
額から冷汗が滲むの感じ、ごまかすように震える手をティーカップへと伸ばす。
「じゃあ母さんは、そんな優しいRNT02とえっちして楽しんでたの?」
「ぶっ……!!!」
舞は紅茶を噴き出した。
「き、喜歩! 私、RNT02とそんなことしてないからね! 体外受精って言って……」
「ほらその反応! RNT02を人間だと思ってないからそんな言い方なんだ!!」
「うぅ……」
何も言い返すことが出来なかった。
喜歩が指摘する通り、RNT02への認識について口を滑らせてしまっていたのだ。
「怪物から生まれた俺はなんなんだろうね?」
自虐めいた口調だ。
それを言って喜歩にどんな利があるというのか。
もはや引っ込みがつかなくなっている。
「喜歩は喜歩よ。おばあちゃんの大事な孫よ!」
誰が何と言おうと、それだけは譲れない。
何よりも喜歩自身にもっと自分を大事にして欲しい。
「本当におばあちゃんと呼べるのかな、輪奈さん?」
しかし喜歩は非情であった。
その瞬間、輪奈は目頭が熱くなるのを感じた。
「喜歩! いい加減にしなさい! いくら何でも言っていいことと悪いことがあるわ! おばあちゃんに謝りなさい!」
喜歩の頬を引っ叩きたくなる気持ちをぐっと抑え、舞は怒りを声に乗せる。
「舞さん! 喜歩を怒らないであげて! 悪いのは、全部……、私だから……」
輪奈の声に嗚咽が混じる。
喜歩の言葉に悲しくなったのは間違いない。しかしそれ以上に、ここまで孫を追い詰めてしまったのだと、胸が押しつぶされそうになっていた。
「ごめんね……。喜歩……」
輪奈は喜歩の目を見る。
自身の涙なのか、喜歩の涙なのか。
潤んだ視界では喜歩の表情が掴めない。
やがて喜歩はくるりと背を向け、ドタバタと大きな音をたててリビングから消えていく。
「喜歩!」
舞の悲痛な叫びだけが部屋に響いていた。




