4-3-1/3 22 RNT02
「これは……、どういうことですか?」
「来てくれれば分かる。そうメールしたわよね」
輪奈は舞の目を見ずに答えた。
ここに至るまでの、輪奈の勿体ぶるような態度にも納得がいった。
もし先日のメールにて、輪太がいるから来てくれなどと書かれていても、舞は信じることなど出来なかっただろう。
しかし、舞の目の前には輪太がいる。見てしまったのだから事実を受け入れるしかない。
分からないのはその理由であり、それを問うているのだ。
6年前、棺に収められた輪太の姿は見るに堪えないものだった。
エンバーミングが施されているとは言え、事故の凄惨さを隠しきれるものでは無かった。
舞も火葬場に同行し、お骨上げにも立ち会った。今では輪奈の自宅近くの寺の納骨堂に遺灰が納められているはずだ。
生前、ましてや事故前を思わせるほど綺麗な輪太の体が、ここに存在する訳がない。
「これは輪太ではないわ」
輪奈の言葉にほっとしてしまう舞がいた。
てっきり死者との婚儀のため、黄泉の国にでも連れて来られたのではないかとさえ思ってしまっていた。
輪奈の貫禄とミステリアスさ、そして柳織研という異質な空間には、そう思わせるだけの魔力がある。
「私の仕事について、少しは知って下さっているのよね?」
伏し目がちではあるが、ようやく輪奈が舞の目を見る。
「ええ……、確か3Dプリンタで臓器を作っているのだとか……」
これから輪奈の義娘になろうというのに、社会的一般知識しか答えることが出来なかった。
文系の舞には詳しいことは分からないが、朽ちていく体の機能を復活させる技術であると理解している。
「この子はその3Dプリンタで印刷したものよ」
「……え?」
舞はぽかんと口を開き、絶句する。
「開発コード『アールエヌティーゼロツー』、私はRNT02と呼んでいるわ」
「りんた……、つー……」
まるでロボットを思わせるような、冷たい響きだと思った。
一方でRNT02をこの子とも呼んでいる。
それは我が子に対する温もりなのか、丹精込めて組み上げたロボットに対する愛着なのか。
また舞もどのような目でRNT02に接すればいいのか、まだ判断がつかなかった。
「遺伝子情報も見た目の特徴も、輪太のものを再現してある。脳みそまで含めて、持てる技術を総動員してね」
「……クローン、ということですか?」
数少ない舞の知識から言葉を絞り出した。
「ええ、広い意味ではクローンと呼べるわね」
クローンと言えばSF映画でも取り扱われる題材であるが、現実においても羊や猫での作製例を耳にしたことがある。
しかし、それは人類においては禁断の技術だという認識だ。禁忌とされる理由の説明は難しいと思っていたが、こうして輪太のクローンを目の当たりにすると、良くないことであると感覚的にも理解出来る。
「クローンとは、遺伝的に全く同一の固体のことね。だから挿し木で殖やした植物もクローンに該当するわ」
「そうなん、ですか……」
植物のように単純な生物であるからそれも可能なのであろう。
RNT02が輪太を模したものだと言うのなら、そんなに単純なものではないはずだ。
一方でベッドの上で微動だにしない様は、植物状態というものなのだろう。いくら姿形が恋人に似通っていようと、自分達人間から疎外された異形さを感じてしまった。
「動物でのクローンと言えば、羊のドリーが有名ね。成体の体細胞の核を、核を取り除いた別個体の卵細胞に移植。さらに別の雌個体の子宮でこの細胞を発生させる。この方法では染色体末端のテロメアが短く……。やめときましょうか、このお話は……」
科学者としての性なのか、輪奈は早口になっていた。隣で眉を顰めていた舞に、はっとした様子で輪奈は口を噤む。




