第6話 超回復
────俺が前世の記憶を取り戻してから、早一年。
俺はその間に、目まぐるしくも充実した日々を送っていた。
お父様の言いつけにより本格的な一般教養の勉強が始まり、字の読み書きや計算、国の簡単な歴史や道徳、貴族として必要な礼儀作法について学び始めた。
当然、前世の高校二年生までの記憶がある俺にとっては、それらについてはあまりにも楽勝で無双しまくっていた……というわけでは無く、そもそも子供であっても感覚的に持っているはずの数字や文字の読み書きが赤子レベルだったこともあり、言語習得にものすごく苦労させられた。
また、その他にも多くの時間を”武術”に関する訓練の時間に充てられていた。
アイゼンリッター家は元々武勲で成り上がった家系であり、それに倣って俺もまたそれ関連の先生を多く付けられたのだ。
体術、剣術、槍術、弓術など……それらは基本的なことと共に、身体が成長していくにつれ得意なものを伸ばしてく方針であるらしい。ちなみに、俺は当初想定していたよりも武器を扱った戦闘が得意ではないらしく、結果無難な剣術とあって腐らない体術を主に練習していた。
次に、魔法についてだが────残念ながら、この実技に関してだけは全く進展がなかった。
というのも、ここアルヴェリア王国では七歳未満の子供が意図的に魔法を行使することが禁止されている。その仕組みや起源の勉強に関しては問題無いが、事と威力によっては人を殺めることもできるそれをこの国では安全面を考慮し規制しているらしいのだ。
よって、今のところは基礎的な知識等の習得のみを行っていた。
……そして、最後に最も重要な神授について。
俺はその力がこの身に宿っているかもしれないと分かったあの日以降、父様たちにも内緒で一人色々な検証を行った。
まず、この力が本当に傷を癒すものなのか。そしてもしそうだとすれば、それはどの程度の怪我にまで対応できてどんな風に治って行くのか、など。大袈裟なことは出来ないにしても、子供の身体ながらに大人たちに隠れて俺は実験をしたのだ。
その結果、幾つか分かったことがある────第一に、俺の予想通りこの力は自身の意思に関係なく、恒常的発動するもののようだ。
試しにナイフで軽く指の先を切ってみると、その傷は「治れ!」と思っていようが、「治るな!」と思っていようが関係なく、ものの数秒であっという間に塞がってしまう。また、出来る限り何度も何度も同じ指先を切ってみたのだが、こちらも変わらず毎度ご丁寧に綺麗に傷が治ってしまった。どうやら、今のところこの”回復”に関して制限等は無いようだ。
……まあ、取り返しのつかないような大怪我は、流石に怖くてまだ試せてないけど……。
神授発動後も特に身体等に異常は無いし、回数制限も今のところは無い。つまり、その気になれば俺は無限に怪我をして、そしてそれを治せる力を持っているという事。まさに、”チート能力”と呼ぶにふさわしい力であった。
俺は、この偉大なる我が神授をこう名付けた。──【超回復】、と。
少々子供じみた名前であるが、まあ誰かに言って聞かせるわけでも無いので一先ず自分の中ではわかりやすくそう呼ぶことにする。どんな傷でも恐らく治し、例えいくら怪我をしようと跡形もなく完治する。まさに超すごい回復力ってわけだ。
……ただ、まあ……そうして超回復について調べていく過程で、一つ発覚した事実があった。それは、この神授唯一の欠点とも言える、致命的な発動条件。
そう、俺がこの力を発動する時は、必ず────。
「──レオン? どうしたの、ボーっとしちゃって」
突然耳元で鳴ったその可愛らしい声に、俺はハッとした。
「え? ……あ、あぁ、ごめん。ちょっと考え事してた」
「考えごと? あー、もしかしてさっきの歴史の授業のやつ? あれむずかしかったよねー、わたし先生がなに言ってるのかさっぱりだった!」
アイゼンリッター家のお屋敷の中庭。芝の上に座り込み、長らく考え事をしてしまっていた俺にリリアンがそう声を掛けた。
彼女もまた、俺と同じように貴族家の息女として一年ほど前から一般教養を勉強している。そして、七日に一度くらいの割合で同じ先生の下で同じ授業を受けていたのだ。
ちなみに、彼女の来訪自体は三日に一度くらいの割合で行われていたりする。ルミナーレ領からここまで速くても数時間はかかるのに、物凄く頻繁に遊びに来ているのだ。
「え……あ、あぁ、そうだったんだ……あ。なら、後でもう一回僕と勉強する?」
「えー、いや! お勉強嫌いっ! ……それよりもレオン、後でまた新しいお遊びを教えてっ」
先程受けた授業の内容が分からないと自分で言っておきながら、その復習すらリリアンは拒んでいた。どうやら彼女は勉強があまり好きではないようだ。
彼女と遊ぶ際には鬼ごっこや的当てゲームなどそれらしい遊びを提案していたのだが、今後はしりとりやなぞなぞなどそれっぽく勉強に取り入れられそうな遊びを教えてあげたほうがいいかな?
「────リリアン様、レオンハルト様。楽しい遊びの話もいいですが、そろそろ剣の稽古の時間ですよ」
突如、後ろから「ゴッホン」という咳払いと共に、先生のそんな声が響いた。そうして俺たちは、もう間もなく次の授業が始まろうとしていたことを思い出す。
やべ、少し話過ぎた。
「「は、はい! ごめんなさい!」」
俺たちは跳び上がって、すぐさまお尻に着いた土を払った。
そして、そのまま駆け足にメイドであるイルゼの下まで行き、彼女が用意してくれた訓練用の木剣を受け取りに行った。
「イルゼ! いつもありがとう」
「いえ、気にしないでくださいレオン坊ちゃま。訓練、頑張ってくださいね」
「うん!」
中庭の端、お屋敷に近いところで彼女は立っていた。その手には二本の木造の剣が持たれており、それは普段から俺やリリアンが練習で使っているものだった。
彼女はこうして、いつも俺の身の回りの世話をしてくれている。
「ちょっとレオン、急いで! 先生にまた怒られるよっ」
「あ、うん、わかってるって!」
木剣を奪い取る様に受け取った俺たちは、そのまま再び先生の方へと走って行った。




