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俺はどうしても無双がしたい~勝ち組要素しかないのに何故か全く活躍できません~  作者: 久米鱈 鯛子


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幕間 【リリアン・ディ・ルミナーレ】


 わたしがレオンと出会って、はじめに思ったことは……”笑顔がすてきな人”ということだった。


 お父さまとお母さまに連れられて、わたしはお呼ばれされたお父さまの昔からのお友だちのお家にあそびに行った。今までは、わたしがまだ小さかったこともあってあまり外には出かけられなかったけれど、わたしが五才の誕生日を迎えてからはお父さまたちがたくさん外に連れ出してくれるようになった。


 お父さまはお呼ばれされたそのお家にいくとき、「リリアンと同い年の男の子がいるから、きっと仲良くなれるだろう」と言っていた。わたしの家の周りには同い年くらいの子供が少なかったので、それを聞いたわたしはうれしくなった。


 ……でも、お父さまのお友だちの家についたとき、わたしは少し緊張してこわくなってしまった。はじめての場所、うちにも負けないくらい大きなお屋敷、そして知らない人たちがたくさんいる空間。お母さまに手を引かれるままに歩くわたしは、ただひたすらにお母さまの背中にくっついてた。


 そのお屋敷のメイドさんに案内された部屋に入ると、そこにはとてもこわい顔をしたおじさんが立っていた。

 その人は、「おや、もしかしてリリアンかい? 大きくなったなぁ」と言ってこちらに近づいてくる。でも、今までに見たことがないくらい大きな男の人にいきなり近づかれるのは、本当にこわかった。


「ヴァルター、あんまりうちの子を怖がらせないでくれ」


「なっ!? ……べ、別にそんなつもりはなかったのだが……ただ、ウチには男児しかおらんから新鮮で……」


 そう言って、お父さまは笑っていた。けれど、それでもやっぱりわたしはこわくて、不安で、はやくお家に帰りたいとさえ思ってしまった。

 ────でも、そんなときだった。部屋の扉が大きく開かれて、わたしが”その子”に出会ったのは。


「はじめまして、ルミナーレ家の皆様! わたしはアイゼンリッター家の次男、レオンハルト・ディ・アイゼンリッターで──」


 突然開かれた扉に、わたしはびっくりして身体がビクっと跳ねた。

 でも、もっとおどろいたのはわたしと同い年くらいの男の子が、とても大きな声で部屋に入ってきたこと。明るい茶色っぽい髪をしたその子は、ピンと伸びた背筋のまま胸をはってこちらに歩いてくる。


「……ぎゃふっ!?」


 ──がしかし、その直後男の子はおもいっきり転んでいた。

 それを見たわたしは(痛そう……)と思いながら目をつぶり、その後どうなったのかを確かめるべくまたゆっくりと目を開ける。すると、その男の子はさっき転んだ場所に寝ころんだまま、「うぅ…」と唸っていた。


 それを見たわたしは、咄嗟に彼のところに近づいた。きっとその子は、次の瞬間にでも泣き出してしまうだろう。わたしなら、あんな痛そうな転び方をしたらきっと泣いてしまうから。

 ……でも、結果はわたしの想像とは違っていた。


「……あ、あのっ……だ、大丈夫……?」


 わたしは恐る恐る、その子に声をかける。すると、彼は案の定鼻から血を流していて────なぜか、にこやかに笑っていた。


「っッ……う、うん、だいじょうぶだいじょうぶ、ぼく生まれつき丈夫だから──え?」


 それを見て、わたしはまたびっくりした。

 きっと、本当はものすごく痛いだろうに。それなのに、彼は泣くどころか痛がる素振りすらほとんど見せずに笑っている。──どうして、そんなことが出来るのだろう。


「きみ、は……?」


「わたし? ……わたしは、リリアン。血、すっごく出てるけど本当にだいじょうぶ……?」


 その子は、変わらずわたしに名前を聞いてくる。自分の痛みをぜんぶ無視して、目の前のわたしを見ている……見てくれている。

 もしかしたら、不安そうにしていたわたしを心配してそう振舞ってくれていたのかもしれない。自分が泣き出すと、わたしがより怖がってしまうかもしれないと気遣ってくれたのかもしれない。……もし、そうだとすると────なんて、かっこいい人なのだろう。



 ────これがわたしと、レオンとの出会いだった。


 ******



「……っお父さま! たいへん、たいへんなのっ……レオンがわたしを庇って、いっぱい血が出てて……!!」



 鼻水をたらし、泣きじゃくりながらわたしはお父さまにそう言った。

 ──今日は、お昼すぎからレオンのお家にあそびに来ていた。お父さまとお母さまはいつもどおりレオンのご両親とお話をしていたから、わたしはレオンと二人で森に出かけていた。前にこの森の近くを通ったときにきれいなお花畑があったのを見つけたので、それをレオンにも見せたいと思ったのだ。


 お花畑に着くと、レオンも喜んでくれたみたいだった。「……ありがとうリリィ、僕をここにつれてきてくれて」って笑ってくれたときは、わたしもすごくうれしくなった。


 ……でも、しばらくしてレオンが、「そろそろ帰らないと」って言い出した。わたしは本当はもっともっとレオンと遊んでいたかったけれど、でも遅くなってお父さまに怒られるのがこわかったから諦めて帰ることにした。

 ただし、ただ帰るだけなのはつまらないと思った。だからわたしは、レオンにお屋敷まで競争しようと提案したのだ。


 ──けど、私はその途中で手を滑らせてしまって、崖から落ちてしまった。

 普段なら崖を上ることも、これくらいの高さにも慣れていて怖いことなど全く無かった。でも、手が壁から離れて宙を浮いた状態になったときは、流石のわたしもすごくこわくなった。


「レオ──」


 だからわたしは、無意識にレオンの名前を叫んだ。わたしにとって大切な友だちで、そして笑いながら助けてくれるだろう彼の名前を。


 ……案の定、レオンは私を助けてくれた。

 でも、代わりにレオンはわたしを庇って、後ろに思いっきりたおれてしまった。頭からはたくさんの血が出て、気を失ってしまったのかぐったりとしている。どうしよう、どうしよう、どうすればいいの……わたしがお屋敷まで競争しようだなんて言い出さなければこんなことにはならなかったのに、わたしのわがままのせいでレオンにまた痛い思いをさせてしまった。

 どうしよう、このままじゃ────レオンが死んじゃう……。


 そう思った私は、居ても立っても居られなくなって、とにかくすぐにお父さまたちを呼びに行った。幸い、お父さまたちも森の奥まで行ってしまったわたしたちを探していたようで、すぐに見つけることが出来た。


「お父さまっ! 見て、あそこにレオンが……!!」


「なんてことだ……! レオンハルト! しっかりしろっ!!」


「これは大変だっ! すぐに屋敷に運ばないと……いそげ!」


 お父さまたちがレオンの姿を見て、すぐにお屋敷まで彼を運んでいった。

 お母さまも、レオンのお母さまも、レオンのお家のメイドさんも、みんな顔を真っ青にしながら彼を手当てしベッドに寝かせていた。


 ……しばらく待っても、レオンは目を覚まさなかった。

 あんまりたくさん人が居るのはよくないと言って、わたしとレオンのお父さまとお母さまだけが部屋に残っていた。意識の無いレオンはぶつけてしまった頭に包帯を巻かれて、そこから少しずつ染み込む真っ赤な血が見ていてとてもつらかった。

 ──でも、そこから更に少しして、突然パッとレオンが目を開けたのだ。


「───おとお、さま……お母様、リリィ……」


 目を覚ましたレオンは、わたしの名前をよんでくれた。それが本当にうれしくて。助けてくれたことも、生きていてくれたことも、とにかく全部まとめてどうしようもないくらいにうれしかった。起きたばかりのレオンに抱きついて、泣きわめいて、彼がここに居るんだってことを体で実感した。


 ……でも、そのときのレオンはなんだか変だった。

 いきなり頭の包帯を取り出すし、と思ったら確かにあったはずの傷が無くなって、血も止まってしまっていた。後からお部屋に来たお父さまやお母さまもそのことにおどろいていて、みんなが何だかむずかしい顔をしていた。


 すると、お父さまが言った。──それは、『女神さまに愛された』のだと。


 それが何なのか、わたしにはわからなかった。

 でも、それはきっとレオンがすごい人なんだってことなんだと思う。だってレオンはこんなにもやさしくて、勇敢で、わたしを助けてくれた。すっごくすっごくかっこよくて、一緒にいるとたのしくて、レオンが笑うたびにこっちまで笑いたくなるのだ。


 ……だから、わたしは。

 わたしは、そんなレオンのことを────。


 ******


「──あっ……そうだ!」


 わたしのお父さまとお母さま、そしてレオンのお父さまとお母さまが四人でなにやら話をしていた頃。わたしも一通り泣きやんで、ベッドの真ん中に座るレオンの横に座っていた。

 すると、レオンが突然ハッと手を叩いた。


「どうしたの、レオン?」


「あぁ、いや……ごめん。いきなりこんなことになっちゃったし、僕も父様たちに神授だのなんだの言われて少し混乱しちゃっててさ……そのせいで、一番大事な確認をリリィにしてなかったなと思って」


 そう言って、レオンはわたしの方を向いた。いつも通りのやさしくて、それでもどこかキリっとした目がこちらに向けられている。

 ……そのことを意識してしまったわたしは、なんだかドキッとしてしまった。


「────リリィ、君は大丈夫だった? どこも怪我してない?」


 その言葉を聞いて、わたしは大きく目を見開いた。

 なぜならそれは、レオンがあまりにも驚かせるようなことを言ったからで──。


「ほら、僕は見ての通り何ともないみたいだけど、リリィはあの高さから落ちたわけだしさ……正直、身体を張って助けようとしたにも関わらず、肝心のリリィが怪我しちゃってたら元も子もないし……」


 でも、そんなわたしに、レオンはまるで何でもないふうにそう言っていた。そう言って、わたしを心配してくれていた。自分の方がずっと酷い目にあったはずなのに、しかもその原因は私にあったのに。それでも彼は、真っ先に私を気に掛けてくれた。

 本当に、レオンは不思議だ。不思議で、少し変だけど────すごく、やさしい人。


「────うんっ! レオンが助けてくれたから、わたしどこも怪我してないよっ!」


「ホントにっ? よかった~……ぶっちゃけ、あれだけ痛い思いしたのに、その上女の子も完全に守れてなかったってなったらカッコ悪いと思ってたからさ……。──でも、君が無事なら良かった!」


 そう言って、レオンはまたニコッと笑った。見ているこっちを安心させてくれる、とってもかっこよくてやさしい、わたしたちが初めて出会ったあの時と変わらない、その表情で──。


 ────やっぱり、彼は笑顔がすてきな人だった。


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