第4話 転生特典
「お坊ちゃま……! よくぞ、ご無事で……」
俺が意識を取り戻してから、少しして。イルゼが急ぎ早に部屋に飛び込んで来た。
父様の話によると、この頭の包帯は彼女が巻いてくれたものらしい。……俺が重傷を負って運び込まれたとなった時は、イルゼも相当心配してくれていたとのことだった。
「──ヴァルター! レオンハルトの意識が戻ったと……!」
また、同時に二人の人物が部屋に入ってくる。
先程、父様を呼び捨てで呼んだ眼鏡を掛けた知的な男性は、フィリップ・ディ・ルミナーレ伯爵……つまり、リリアンの父親だ。
そして、もう一人は彼女と同じ髪色をした夫人。
「レオン君、よかった……娘から話を聞いた時は、心配で気が気じゃなかったんですよ」
そう言って、リリアンの父親母親がこちらに駆け寄ってくる。どうやらイルゼは、俺が目を覚ましたと知って早急に二人を呼びに行っていたようだ。
……しかし、そんなルミナーレ夫妻は、こちらの様子を見た途端困惑した表情を浮かべた。
「……? レオンハルト。君、身体はもう大丈夫なのかい? 普通に起き上がっているようだけど……確かに私達が駆けつけた時は、かなりの重傷だったはずなのに……」
「あぁ、フィリップ……実は、そのことなんだがな……」
重症どころか、包帯すら巻かず普通に上体を起こしてベッドに座る俺を見て、フィリップ様は訝しむ。まあ、口ぶり的にこの人も俺の当時の状態を見たらしいし、なればそれは当然の疑問だ。
──そして、それに対し父様は手短に、先程発覚した事実を伝えた。目を覚ました俺が、早々に痛みを感じないと訴えたこと。また確認の為頭の包帯を取るとあれだけの傷にもかかわらず既に血が止まっており、さらに傷口すら綺麗さっぱり無くなってしまっていたことを。
「「「……!!」」」
その話を聞いて、イルゼやルミナーレ夫妻が俺たちの時と同じように強い驚きを抱いているようであった。
「そんな……一体、どういうことですのっ? ……まさか、こんな短時間で傷が完全に回復したと……?」
「……レオンお坊ちゃま……」
──俺が目を覚ましてから、イルゼたちがこの部屋に来るまでの間、俺は父様たちと共に自分の身に起きた出来事について情報を整理していた。
まず、コトの始りは俺がリリアンを庇おうと下敷きになった事。その際頭を強く打ってしまい、さらに当たり所も悪くぱっくりと切れてしまった傷口から大量に出血をしていたらしい。
その現場には助けを呼びに行ってくれたリリアンのお陰で、父様と彼女の父親が駆けつけてくれたようだ。……そして、元々お国の軍部にも関わっている父様が当時の俺の状態を見た時は、強面な顔面を蒼白とさせたらしい。
「……正直、助かる可能性は低いと思った。元々頭の傷は血を吹き出しやすいが、それ以上に頭部への強い衝撃は致命傷になりやすい。……本当は、私は今この瞬間にでもレオンハルトが再び意識を失うんじゃないかと気が気じゃないんだ」
そう言う父様は、言葉の通り変わらず額に汗を浮かべていた。恐らく、そういうことにまったく詳しくない母様やリリアン以上に、俺の身体について色々と考えを巡らせ心労していたのだろう。
……実際、俺も前世に保険の授業かなんかでそう言う話を聞いたことがある気がする。確か、頭をぶつけた時は外傷以上に、内出血が危なくてなんとかかんとか……その為、先程父様に軽い意識確認のテストをされたくらいだ。
──ただし、それらすべてを踏まえた上で、あくまで素人目ではあるものの、俺の身体には何の異常も無いという結論に至ったのだった。
「しかし、今のところレオンハルトの意識ははっきりしているようだ。それに、そもそも私もこの目で見たはずのあれだけの傷が綺麗さっぱりに消えている……一体何が起きているのか」
父様のその言葉を最後に、部屋の中は静まり返った。
……当然、俺も父様たちと同じで、この理解の及ばぬ現象に頭を悩ませていた。正直な話、俺はリリアンを庇ったあの時一度ならず”二度目の死”すら覚悟したくらいだったのだ。──それくらい、あの時の痛みが酷かったことを覚えている。
「────ヴァルター、思うのだが……ひょっとして、これは”アレ”じゃないのか?」
皆が黙り込んでしまった中で、唐突にフィリップ様がそう口にした。
「っ! ……フィリップ、やはりそう思うか? ──実は、私も同じ結論に至っていたところだ」
そして、それを受けた父様はフィリップ様のその言葉に同意する。なんだ、その意味深な『アレ』って。……うーん、なんか悪いものじゃないといいけど……。
「────おめでとう、レオンハルト。お前は女神さまに愛されたのだ」
「……え?」
突然、父様がそんなことを言い出した。
無論、その言葉の意味が分からなかった俺は困惑し、硬直する。女神さまって……あの『──あなたに女神の祝福を授けます』でおなじみの?
俺をこの世界に転生させてくれたらしい……あの、女神さま?
「あ、あの……お父様、それはどういう……」
「……レオンハルト、よく聞いて。この世界にはごく稀に、君のような”特殊な力”を持った者が現れることがあるんだよ。今回の場合で言えば、異常な早さで傷を治す力か或いはそれに準じたもの……ともかく、それらは数百万人に一人の割合で顕在し、それを世間では”女神に愛された”というんだ」
俺の質問にそう丁寧に答えてくれたのは、フィリップ様であった。
女神に、愛される……?──っ!!待って。もしかして、女神の言っていた”祝福”ってこれのこと……!?
俺はてっきり、転生させてくれたこと自体を指してるんだと思ってたけど……。
「……俗に、『神授』と呼んだりもするな。神から貰ったもの、という意味だ。……なるほど、通りでレオンハルトは生まれつき丈夫だと思ったよ」
「あぁ、なるほど、言われてみれば確かに……思い当たる節が無いわけじゃないわね。この子が生まれた時のこともありますから……」
「そういえば、レオン君の出産のときは難産でしたね。一時はどちらの命も危なかったと聞きましたが……奇跡的に、赤子が息を吹き返したとヘレンは言っていました。とすれば、やはりフィリップたちの言う通りこれは本当に神授なのでしょうか……?」
「うーん、私も絶対そうだとは言い切れないけれど……そもそも、神授を持つ人間自体少ないからね。この国にだって正式に認められた者は一人しかいない訳だし──ただ、レオンハルトの身に起きたそれは正しく神のような所業だ」
各親たちが、次々に自身の考えや心当たりを口にする。
どうやら、俺がレオンハルトとして生まれた時は色々と苦労したらしい。それこそ俺も母様もどちらも死んでしまったかもしれないという……だが、それも父様たちの言う『女神の祝福』によるものだとしたら、その奇跡的な所業にも納得がいく。そして、実際に自分の身に起きた、僅かな時間で大きな傷が完全に完治したことにも理解が及ぶのだ。
全ては、その【神授】のお陰だと。
……そして、俺はこう結論付ける。
不可能を可能とする不思議な能力。死の危険すらあったあの怪我から、無傷に治るこの力。その、正体について……。
────ずばり、俺は女神さまから転生特典として、”チート能力”を手に入れたのだと……!!




