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俺はどうしても無双がしたい~勝ち組要素しかないのに何故か全く活躍できません~  作者: 久米鱈 鯛子


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第18話 訪れた現場にて


 ──お屋敷の外に出ると、弱い雨が降っておりました。

 そんな中、私とラグーナ様は雨避けとしての外套を羽織り、出立の準備をします。


「──良い毛並みですね。とても健康そうな馬です」


 私は、ヴァルター様にお借りした二頭の馬の内、茶色い毛並みの方の首元を優しく撫でました。その皮膚の下からは確かな脈動を感じ、降雨中の悪路にも負けない力強さを物語っています。


「ウチの自慢の愛馬たちだ。今用意できる中じゃどの馬よりも速く走れる。……それでは、頼んだぞ。ラグーナ、ルドルフ」


「はい。お任せください、ヴァルター様」


「……言うまでもないが、場所は西の街道近くの森だ。ルミナーレ領への分かれ道を過ぎてから、少し行った所らしい」


 伯爵様に見送られつつ、私は馬に跨りました。

 そして、同じく襲撃現場に向かうラグーナ様も、もう一頭の馬に足を掛けます。


「ああ。黙って吉報を心待ちにしてな! ……それと、ヴァルター。一つだけ言い忘れてたことがあるぜ」


 慣れた足取りで跨り、馬との具合を確かめ合うラグーナ様。……すると、出発に際しそんなことを言い出されました。


「なんだ?」


「私が今日この屋敷に来る途中、西の街道近くで雑魚だが数匹の”魔物”に遭遇した。それ自体は珍しいことでもないが、少し妙な動きをしてたンでな……分かってると思うが、私らが戻るまで誰も屋敷から出すなよ。──特に、あの言いつけを聞かなそうなガキ共二人」


 彼女のその言い草を聞いて、ヴァルター様は苦笑しておられました。……けれど、普段街道沿いに現れることの少ない魔物との遭遇。確かに、気になることではありますね……。


「そうか、分かった。……念のため、此度の騒動が解決した暁には調査隊を手配しよう」


「そうした方が良いだろうな。……ンじゃ、とっとと行ってくるぜ!」


「……そうだ。最後に、私からも一つ良いか? ──ロルフ夫妻の娘、エルナ嬢についてだ。彼女はレオンハルトほどの年頃で、長く薄い紫色の髪をしている。……もし現場に着いて余裕が出来れば、是非彼女も()()()()()()()()()


 『探して欲しい』。……そう言った伯爵様の口調は重く、神妙な面持ちを浮かべておられました。

 既に複数人の遺体が見つかっているその現場から、幼い娘一人を”探す”──その真の意味を、理解なされて。


「──勿論です。レオンハルト様とも、彼女について何か分かったことがあれば報告すると約束しましたからね。……それでは、行ってまいります」


 私は伯爵様にそう言い残し、手綱を強く握りました。そして、それを大きく跳ねらせると馬がいななきを上げ、駆けだします。


 ──まだ、雨は止みそうにありませんね。


 ******


 ……大粒の雨が降りしきる中、私とラグーナ様は馬を飛ばします。

 街道自体は普段から人の往来も多く、目印も多い為見失うことはありませんが……現状ではかなり視界が悪く、一瞬の油断が命取りになりかねません。


「霧が出てきましたね……ラグーナ様! ランタンを焚きましょう、互いの位置を見失わないように」


 私は出来るだけ声を張ってそう言うと、持ち出した携帯灯に火を付けました。それにはガラス製の外装があり、この悪天候の中でも明かりを灯します。


「あぁ、そうしたほうが良さそうだ。……くそっ、”この天気”は厄介だな」


 馬を走らせながら、ラグーナ様は一瞬空を見上げます。……しかし、その空も含め周囲は徐々に真っ白く染まっていき、少し先を見るのがやっとになってまいりました。


「……確か、ラグーナ様の得意魔法は火属性の魔法でしたね」


「あぁ、そうだ。威力半減だぜ。……それに、お前の方もこの視界の悪さだ。油断ならねぇな?」


 空気中に多分に水分が含まれる、この状況。火属性魔法の使い手にとっては、少々戦いづらい状況にあります。……しかし、それはラグーナ様の仰る通り、剣を振るう私にとっても同じことが言えます。

 おまけに、今回は必ずしも相手が盗賊だけとは限りません。常に周囲への警戒は怠らないようにしなければ。


「──そろそろ、現場に着いてもいい頃合いか? ヴァルターの話じゃ、西の街道沿いの森ッてことだったが……」


 屋敷を出て、既にかなりの道のりを進んでまいりました。少し前にルミナーレ領へと続く分かれ道を素通りしてきたので、もう間もなく目的地に着くと思われますが……。


「──ッ! おいルドルフ、アレを見ろ!」


 辺りを見回していたラグーナ様が突然声を上げ、私は咄嗟に手綱を強く引きました。すると駆けていた馬が急激に速度を緩めて、その場に停止します。


「……!!」


 ────ラグーナ様が見ていた先。そこには無残に破壊された、馬車のものと思われる木片が散らばっておりました。


「これは……」


「──どうやら、ここがその現場らしいな」


 元々荷台であったと思われる大型の箱が、崩壊し横たわっています。切れたロープ、割れた窓、砕かれた車輪……。辺りには荷物が散らばって、雨や土に塗れ汚れています。

 ──そして、その傍らには商会の護衛と思われる”遺体”が、いくつも転がっていました。


「……チッ。いつ見ても気持ちのいいもンじゃねーな……流石に、こんなところガキ共には見せらんねぇ……」


「……えぇ、全くです。……しかし、思っていたより荒れ果てているようですね」


 ……現場には、雨の匂いに混ざり不快な鉄の臭いが充満しておりました。おまけに、数度の魔物らの往来があったのか、護衛たちの遺体が少々──”荒れて”います。

 革の鎧や一部鉄の装備をしておりますが、それらはひん曲がったり、破けたりしてその意味を失っています。

 けれど、彼らの傍らには血の付いた剣や槍が転がっていることから、恐らくその襲撃してきた『何者か』と最後まで戦ったであろうことが窺えます。


「随分と荒れてやがんな……まあ、こんな天気の中、森の中にずっと放置ならまあこんなもんか────ッ! ……おい、ルドルフ……あれって──」


 周囲警戒の為に、私たちは馬に乗ったまま辺りを捜索しておりました。……しかし、ラグーナ様が何かを発見したようで、突然馬から降りていきます。

 ──そして、そんな彼女の視線の先には、他と比べ()()()()()()()()男の遺体が倒れておりました。


「──こいつだな。ヴァルターの言ってた、ロルフとかって商会の会頭は」


「っ……えぇ、どうやら……そのようですね」


 その……ロルフ様と思われる方は、大木にもたれ掛るように眠っておられました。身体の()()が削れ、それでもなお腕や足に切り傷のようなものが残っています。その様子を見るに──この方も、最後まで抵抗なされたことが窺えました。


「ロルフ様──良き、商会の長であったと伺っております。どうか、安らかにお眠りください」


 私はそう言って、ロルフ様に手を合わせました。雨の降る中、自身の衣服が汚れることさえ厭わず、地面に片膝を付きこの方の冥福を祈ります。


「……。……ッつーことは……あっちの方か?」


 私がそうしていると、ラグーナ様がロルフ様の背後にある茂みに目をやりました。……その方向には、何かが通ったような大きな跡があります。草や木が潰されて、そのまま森の奥の方へと続いておりました。


「こっちも確かめねーとな。……ルドルフ、馬を頼む。適当に繋いどいてくれ!」


「えっ……ちょ、ちょっとラグーナ様っ!」


 彼女はそう言うが早いか、その奥の茂みの方に走って行ってしまいました。それを見て、私も急いで馬たちの手綱を近くの木に結び付け、後を追います。……道がだいぶぬかるんでいて、気を付けなければ転倒してしまいそうです。


「……ふぅ……ラグーナ様、一体何を確かめねばと……」


 馬を繋いだ私は、ラグーナ様の後を追い山道を進みました。

 途中、何か”大きなモノ”がぶつかったように木々がひしゃげていて、それが現場の異常さを物語っています。──この跡は……本当に、盗賊の仕業なのでしょうか。


「ルドルフか……居たぞ、こいつがあの会頭の嫁だな?」


「ッ! ──あぁ……なんという……」


 ラグーナ様は、一つの遺体の前に佇んでおられました。──否、正確には人の遺体かどうかも分からない、血と泥で塗れた”ソレ”の前に。

 ……辛うじて、薄紫色の髪のようなものと、びりびりに破けた衣服のようなものから、あのロルフ様の奥様であろうと予想は出来ますが……。


「……旦那より、こいつの方が状態がひでぇな──だが、これで確信が持てたぞ」


 こういった現場に慣れているであろうラグーナ様でさえ、少しばかり言葉を失っているご様子でした。……しかし、同時に彼女の瞳には小さな火が灯り、ラグーナ様の中で何かがハッキリとした形になったような気がします。


「ラグーナ様。もしかして、これは……」


 そして、その確信は私の中でも起こりました。此度のロルフ商会への襲撃事件、その真の犯人像について────。


「……まあ、取り敢えずもう少し現場を探るぞ。――私らも、早めに屋敷に戻った方が良さそうだ」


 ******


 ……止まぬ雨、濃霧に包まれる中、私たちは帰路を急いでおりました。

 そして、そんな私たちの胸の中には、現場を見た上で新たに判明した確たる情報が握られています。ラグーナ様の言及された、此度の事件が盗賊の仕業では無いかもしれないという、可能性────”この事実”を、一刻も早くヴァルター様達にお伝えせねば。


「……クソッ、相変わらず視界がわりぃ────ッ!」


 馬を駆け、我々は街道を辿っておりました。

 ……すると、突然ラグーナ様が声を上げます。


「おいッ! ルドルフ、止まれッ!!」


 彼女のその声に反応し、私は握っていた手綱を引き馬を止めました。


「ど……どうなさいました、ラグーナ様──」


「シッ! ……誰か、居やがるな……」


 ラグーナ様に警戒を促され、私は静かに口を閉じます。

 ……彼女が見ていたのは、私たちが進もうとしていた道の先でした。暗く霧のかかった街道の方を、ラグーナ様は凝視しております。 




 ────ユラッ。




「「ッ!!」」


 突然、視界の中に黒い影が現れました。

 それは不規則に揺れており、小さく、ゆっくりと、こちらに近づいてきます。


「──構えろ。相手が誰だか分かンねぇ」


「……えぇ、分かっております」


 馬に跨ったまま、私たちはそれぞれ戦闘態勢に入りました。私は腰元の剣を抜き、ラグーナ様は右手を構え薄っすらと大気を揺らします。


 ……そして、私たちの前に現れたその影は、静かに正体を晒して────。



「……、……。」



「「──!」」


 ──すると、そこには”薄い紫色の髪”をした、雨に濡れた少女が立っておりました。


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