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俺はどうしても無双がしたい~勝ち組要素しかないのに何故か全く活躍できません~  作者: 久米鱈 鯛子


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第1話 幼馴染


「……奥様、旦那様、生まれました! 元気な男の子ですっ!」


 目が覚めると、そこにはきれいな大人の女性の姿があった。


「ッはぁ……ほん、とうに……っ?」


「はい、おめでとうございます奥様! 一時はどうなるかと思いましたが、赤子は無事ですよ……!」


 その人はブロンド色の長い髪で、俺のすぐ隣で横になっていた。……少し顔がやつれてるみたいだけど、大丈夫か?


「おぉ…! 可愛い我が息子よ。よくぞこの家に生まれてきてくれた。……お前も良く頑張ってくれたな、ありがとうヘレン」


「はぁ、はぁ……あなた……良かった、この子が無事に生まれてきてくれて……」


 美人なその人を眺めていると、横からガタイの良い如何にも怖そうな男が割り込んできた。髭を蓄えた強面で、しかしその眼には見た目には不釣り合いな涙が溜まっている。……よく見れば、綺麗なこの人も泣いてるな。


「あなた……この子の名前、もう決めた?」


「ああ、勿論だとも。──この子の名前は、レオンハルト・ディ・アイゼンリッター。獅子の様にたくましく、強い子に育って欲しい」


「レオンハルト……素敵な名前、この子にぴったりだわ……」


 美しく綺麗な女性と、強面なその男はそう言って互いの額を擦り合わせた。その光景を見ていれば、誰だってこの二人が()()()()()のそれだということは分かる。

 ……しかし、この二人は一体誰なんだろう。見るからに日本人じゃ無さそうだし、そもそもここは何処なんだ。俺そろそろ家に帰らないといけないし、明日も平日で普通に学校があるんだけど……あれ、待って。俺、確か……下校途中に、トラックに轢かれそうな女の子を見て、それから────。



「……ばぁ…ぶ」


 ******


『────あなたに女神の祝福を授けます』


 その言葉を最後に、俺は異世界への転生を果たした。

 俺の日本での名前は山本翔太、どこにでもいる普通の高校生だった。これと言った趣味は無く部活にも所属していなかったが、強いて言えば運動が好きでよく運動部の助っ人に行っていた。

 成績は中の上。彼女はまあ……居たことはある。学校以外ではアルバイトをしたり、あとは友達とゲームをしたりと至って平凡な毎日を送っていた。


 しかし、ある日の放課後事件は起こった。

 下校途中の寄り道の後、友達と別れ帰路についていた時。青信号になった横断歩道を渡ろうとしていると、何やら周囲の人々が騒ぎ出した。それがふと気になって顔を上げると、右側の車道から突然トラックが減速無しに突っ込んできたのだ。……しかも、その進路は自分の少し前を歩く同い年くらいの女の子に向かって。


 その時、俺は深く考えてはいなかった。とにかく、彼女に避けて!と声をかけ、助けなければと。

 ……そうして、気が付けば俺はその子を前方に突き飛ばし身代わりとなっていた。最後に見た光景は彼女の後ろ姿と、視界の右端から迫ってくる大きな鉄の塊だけ。物凄く痛かったような気がするし、一瞬で死んでしまったような気もする。


 ……だが、俺は生きていた。

 否、その顔すらも覚えていない女神とやらの思し召しで、この世界に転生したのだ。

 ────アルヴェリア王国の伯爵家。次男の【レオンハルト・ディ・アイゼンリッター】として。


「……レオンお坊ちゃま。そろそろお客様が来られますよ」


「──はーい!」


 俺がこれらのことを思い出したのは、割とつい最近のこと。五歳の誕生日を迎えた翌日に高熱を出し、その際夢の中でいわゆる前世の記憶がよみがえった。ついでに物心つく前の、父さんと母さんを……いや、()()()()()()を初めて見た時の光景も思い出したっけ。


「お坊ちゃま、これからお会いするのはあなたのお父様と同じ伯爵家の方です。同い年のお嬢様もいらっしゃいますので、失礼の無いようにしなければいけませんよ」


 部屋を出て、廊下を歩きながら隣に立つ使用人のイルゼがそう言った。

 ここはヴァルター伯爵邸、つまりこの世界での父親の所有するお屋敷だ。伯爵という名にふさわしく、どこを見ても豪勢で煌びやか。家の中で迷子になってしまうだろうというほど、大きな屋敷であった。


「イルゼ、今日はなんて方が来てるの?」


「昔からアイゼンリッター家と懇意にしている、ルミナーレ家の方です」


 アイゼンリッター家は元々武勲で鳴らした家系らしく、何代か前の当主が戦で大きな戦果を挙げたことから伯爵位を賜ったらしい。そして、彼女の言うルミナーレ家もまた()()に秀でた人材を輩出してきた家系なのだとか。


 ──そう、魔法。

 この世界には、聞くだけでもワクワクするような魔法という概念が当たり前のように根付いているのだ。


「レオンお坊ちゃま、お部屋に着きましたよ。旦那様が中でお待ちです、再三申し上げました通り失礼の無いようにお願いします」


「もう、わかったって。イルゼは心配性だなぁ!」


 純真無垢な齢五つの貴族の子供。しかし、その中身は日本で十七年間生きてきた高校生。なれば今更、誰が来ようと大きくは動じまい。確かに貴族としての雰囲気や空気感にはまだ慣れていないが、例えそうだとしても人様の前で恥をかかないよう立派な男児として務めてみせる。


「────はじめまして、ルミナーレ家の皆様。わたしはアイゼンリッター家の次男、レオンハルト・ディ・アイゼンリッターで──」


 お客様が来たという応接室の扉を開け放ち、同時に俺は貴族に相応しい言葉遣いと態度で入室する。堂々とした足並み、ピンと伸ばした背筋、そしてはっきりと聞こえるような大きな声で。


「──あっ」


 ……その結果、慣れない足取りのせいで盛大につまずいた。


「ぎゃふっ!?」


 もつれた足に引っかかり、そして思いっきり顔面を地面に打ち付ける。床は大理石か、はたまたそれに準じたもので出来ており、当然真っ先にぶつけた鼻からは血が流れた。


「お坊ちゃまっ!!」


 背後からイルゼが近寄ってきたのが分かったが、生憎それどころではなかった。ドクドクと血が流れる鼻が痛いのなんのって。


「────あっ、あの! ……だ、大丈夫……?」


 すると、今度は自身の背後からではなく、入った部屋の正面の方から声が聞こえてきた。それは聞くからに幼げな、小さな女の子の声。


「っッ……う、うん、だいじょうぶだいじょうぶ、僕生まれつき丈夫だから──」


 そんな声につられて、俺は出来るだけ笑顔を心掛けながら顔を上げた。それは、盛大に転んだところをその子に見られた挙句に、これ以上は恥ずかしいところは見せられないという小さな見栄があってのこと。……勿論、今自分の顔面は鼻血を垂らし涙目になっていてとても格好つけられたものではないが。



「────え。」



 けれど、そう思い顔を上げた俺は、本当の意味で痛みを忘れてしまった。

 ……当然、そんな趣味があったわけでは無い。少なからず、このレオンハルトという少年の心に影響を受けていたはずだし、そもそも痛みで気が動転していただけかもしれない。

 ──しかし、見上げた痛みのその先には、息をのむ程に可愛らしい美少女が居たのだ。


「……きみ、は……」


「わたし? ……わたしは、リリアン。血、すっごく出てるけど本当にだいじょうぶ……?」


 至極こちらを心配してくれたように、その少女は座り込みながらそう言った。この世界の母親に負けないほど綺麗でふわふわとした金髪に、子供らしいモチモチとしていそうな頬っぺたをして。


 ────これが俺と、幼馴染【リリアン・ディ・ルミナーレ】との出会いである。

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