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俺はどうしても無双がしたい~勝ち組要素しかないのに何故か全く活躍できません~  作者: 久米鱈 鯛子


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第14話 盗賊



 ────その日は、やけに風が強かった。



 空には暗雲が立ち込め、陽の光を遮っている。

 妙に湿り気を帯びた空気が肌を撫でて回り、今後の天候の悪化を予見させた。


 ……もうすぐ、雨が降るのかもしれない。


 ******


「……えっ? 今日リリアン来られないのっ!?」


 朝。

 朝食を済ませた後のお屋敷の中庭にて、俺はそう叫んだ。

 今から、ここでは体術の授業が行われる。これは、その為に俺が準備運動をしていた最中に、ルドルフ先生から聞かされた事であった。


「はい。当初の予定では、本日もレオンハルト様と一緒に授業を受けられることになっていたのですが……急遽、変更になったそうです」


 そう言うルドルフ先生は、何やら事情を知っているような様子だった。……ちなみに、ルドルフ先生からは普段剣術を教わっているのだが、同時に体術の授業も受け持ってもらっていた。流石は元騎士団というだけあって、この人はその辺りの武術においては大体精通しているらしい。


「えーっ、どうしていきなり……折角、昨日学んだことを実践してみようと思ってたのになぁ……」


 いつからか、リリアンは三日に一度くらいのペースでうちに訪問し、俺と一緒に朝から授業を受けるのが当たり前となっていた。そして、前回来たのが三日前だったことを考えると、恐らく今日は遊びに来てくれるだろうと思っていたのだ。

 ……しかし、どうやら本日は俺一人での勉学となるらしい。昨日ジーク兄様の授業を見て学んだことを、早速彼女に試せると今日を楽しみにしていたのだが……。


「先生、どうしてリリアンは来れなくなったんですか? 理由を知ってます?」


 それを残念がった俺は、思わず聞いてしまった。

 しかし実際、彼女が初めは来る予定だったにもかかわらずそれを変更したことなど、今までに一度も無かったのだ。


「そうですねぇ……。……実は、この付近の街道で”盗賊”が出没したとの報告が上がっているそうです。ですので安全確保の為に、本日の訪問は止めにするようにとヴァルター様が仰られたそうですよ」


「ッ!」


 先生の言葉を聞いて、俺は目を見開いた。

 盗賊……それは言葉通り、人々から金品を奪う連中のことだ。しかもこの世界での盗賊はかなり凶悪性が高く、盗むためなら簡単に人を殺してしまったり、人を攫って人身売買に関わることもあるんだとか。

 ──そんな連中が、このあたりに出没しているというのか。


「え……盗賊って……。ッ!! 待って、それってもしかして王都がある西側の街道ですかっ!?」


 その話を聞き、俺が最初に抱いた危機感──それは、昨晩ここを発ったエルナたちのことだった。

 このアイゼンリッター領から見て、領都【リートブルク】は南側に位置している。そして、リリアンの住むルミナーレ領と王都【アストレイン】は、ここから西側の街道の先にあるのだ。しかも、彼女の家はそこから枝分かれするので一、二時間ほど馬車を走らせれば辿り着くのだが、王都となると山道等を含めかなりの距離がある。


 そして現在、そんな道中で盗賊が出没しているという話を聞いてしまった。となれば、俺がエルナたちの身を案じるのは当然過ぎることだ。……そう言えば昨日、父様も最近危ない噂を聞くって言ってたっけ……。


「おや、レオンハルト様も知っておられたのですか? はい、どうやらその通りでございます。ですので本日は、アイゼンリッター家でもルミナーレ家でも敷地外への外出を禁止しているそうですよ。……聞いたところによると、リリアン様は相当ご不満そうだったとのことですが」


 リリアンのことはともかく、エルナの件を知らないルドルフ先生は、そう言って苦笑していた。確かに、やっとうちに遊びに来れるとなっていたところに、突然家から出るなと言われたら文句たらたらで暴れる彼女の姿が容易に想像できるが……。

 いや、そんなことよりもエルナやロルフさんたちのことだ。大丈夫なのだろうか……昨日聞いた話では、護衛もたくさん雇ったらしいけど……心配だ。


「……大丈夫、でしょうか……」


 彼女たちに対する不安が積もった俺は、無意識にそれを溢してしまった。

 すると、それを察してかルドルフ先生が柔らかい顔をしながら、


「……そこまで怖がる必要はありませんよ。今ヴァルター様が近辺調査のための人員を集めているそうですので、近いうちに解決するはずです」


 と言った。

 ……どうやら、先生は俺がその盗賊たちを怖がっていると思っているらしい。そりゃ、神授の件の時もそういう連中についてはかなり聞かされたし、気を付けるように釘も刺されたけど……それでも、今はそれ以上に気にすることがあるんだ。


「それに、念には念を押して本日は私もこちらに泊まらせていただき、警護にあたる予定です。……ですので、レオンハルト様が心配されることは何もありません」


 俺を安心させる為か、先生は優しい声音でそう続けた。

 確かに、騎士団の元副団長様が留まってくれるなら心強いんだろうけど……。


「……まあ、でも……取り敢えずは、エルナたちが無事でいてくれることを祈るしかないか……」


 色々と考え、悩んだ挙句……結局、今自分に出来ることは無いという結論に至る。

 ロルフさんも細心の注意を払ってるみたいなこと言ってたし、俺が気にしたところでどうにかできる話じゃないよね。


「……ご心配かけてすみません、先生。でも、僕は大丈夫です。……それより、そろそろ授業をお願いします!」


「ハハ、レオンハルト様は勇敢でいらっしゃいますね。……はい、是非とも。本日もよろしくお願いします」


 気を取り直した俺は、授業開始を願い出つつ、両手を胸の前で構えた。

 それぞれの手を九割ほど開き、利き手を奥、その逆手を手前にして大体水平に上げる。そして両足を肩幅より更に広げて立ち、軽く膝を曲げ次の行動に備えた。……これは、この国の体術・近接格闘術として最も普及している『制統術(せいとうじゅつ)』と呼ばれるものの、基本的な構えだ。


「リリアンと一緒に授業が出来ないのは、正直残念ですが……逆に、この機にこっそり彼女に勝つための秘策を考えることにします。先生! ご教授ください!」


「えぇ、良い心掛けですね。──そうだ。折角ですし、昨日ジークリット様の授業でも教えたことを、体術での攻防に落とし込んだ練習をしてみましょうか。……レオンハルト様は、きちんと授業内容を覚えていますか?」


 そう言いつつ、先生も俺と同じ構えを取った。

 昨日の授業と言えば、確か相手の攻撃や反撃に気を付けろってことと、相手が見せた隙が罠ではないか気を付けることと、あとは────そうだ!ここぞとばかりの相手の攻撃程、大きな隙になるって話だ。


「はい! 勿論です!」


「よろしい。そして、あれらは剣術以外においても似たようなことが言えます。……今回は私からも軽く攻撃を仕掛けますので、是非リリアン様に勝つための解決の糸口を探ってくださいませ」


「わかりました。──ではっ、行きます!」


 基本の型を忘れぬまま、俺は思いっきり地面を蹴り出し、相手の懐へと飛び込んだ。

 先生との距離が一気に縮まり、次の瞬間にも拳の打ち合いが起こり得る。




 ────しかし、その後突き出した拳が先生に届くよりも先に……俺が小石に躓き転んでしまった事は、もはや慣れ親しんだ光景であった。


 ******



 ……妙な胸騒ぎがする。


 今朝方、ルミナーレ家に遣いを出し本日のリリアン嬢の訪問を止めさせた。しかもその際に、フィリップには子供たちや使用人を外出させないよう伝言したが──。


「……はぁ……くそっ。やはり、ロルフのやつを行かせたのはマズかったな。あの時、無理矢理にでも止めておくべきだったか……」


 いつもの仕事部屋。いつもの机の前で、私は頭を抱えていた。

 先日よりこの近辺で目撃情報があったという盗賊について、今朝その確かな情報が届いたのだ。……やはり、連中は街道付近に潜伏しているらしい。


「……一先ず、今は吉報を待つしかない。早朝に早馬を行かせたから、何も無ければもうじき帰ってくるはずだが……」


 誰に聞かせるでもない心労が、思わず零れ出た。

 ……すると、丁度その時部屋の扉を叩く音が鳴り響く。


「 ヴァルター様っ! ハインでございます! 」


 その声は、私の側近である【ハイン】の声であった。

 しかし、彼のその慌てたような声音に、無意識に緊張が高まったのを感じる。


「……入れ」


 バクバクと動きを速める心の臓を制しつつ、私は返事を返す。そして、そのまま勢いよく開けられた扉と共に、彼は声を荒げて────



「大変です、ヴァルター様っ! ──ロルフ商会の馬車が、街道で()()()()に襲われていたとの報告が……!!」



 と、考えうる限り最悪の報告を持ってきたのだった。


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