再生する大地
私とトリスが全てを終わらせたベルの元へと駆け寄ると、異変は起こった。
プロメテウスの体、プロメテウスに突撃した方舟の残骸、ロマが魔力で青に染め上げた空間、そしてベルが地面に突き刺した刀、四竜族のそれぞれの至宝の力を宿したものから光が空へと舞い上がっていく。
それは原初の光がこの世界から役目を終えたとでも告げるようで。
「全ての原初の光が散っていく……」
それは地上に降りてきた星々が地上から天へと戻っていくような光景で。
「綺麗」
幻想的な光景に私たちは頬を綻ばせていた。
それはまるで世界自体が、危機を切り抜けたことを祝福してくれているかのようで。
けれど、異変はそれだけで済まなかった。
「な、何。地面が揺れて──」
私は立っていられなくて、崩れ落ちそうになるのをトリスが支えてくれる。
それは、博物館の時と同じ。何かが終わる時に支えてた全てが崩れ落ちるかのように。
けど、崩落とは真逆のことが起きていた。
火の神殿。火山の頂上。そこから谷間に降りてきたとは言えまだ高地で。
だから、山々の間から遠くまで俯瞰することができた。
「水が引いていく?」
水の氾濫で滅んだはずのこの世界。
この地域だって火の結界でなんとか水没するのを防いでいるとフロワさんは言っていた。その世界からどんどんと水が引いて、その下の陸地がどんどんと浮かび上がってくる。
それは、大地が、この世界が、再生していくかのようで。
「原初の光を相殺しあって、世界の均衡が戻りつつあるのじゃよ」
私たちが、なにが起こっているのかと目を白黒させていると、ロエルガ様がいつの間にか側にやってきていた。
「これよりこの世界は神の加護を失う。原初の光は灯火となり、生きとし生けるもの皆に宿るのじゃ」
どうやら、そういうことなのらしい。
けれど、私は心配になってしまう。
神の加護を失う。
それでこれから私たちは大丈夫なんだろうか。
顔に出てしまっていたのか、ロエルガ様は私を安心させるようにニコリと微笑んだ。
「なに皆がそれぞれに小さな光を抱くというだけじゃよ。原初の光と比べれば格段に小さい、灯火のような光。境界は曖昧になり、混じり合い、原初のような輝きはなくなる。けれども輝きがどこかに偏ってしまうということもなくなろう」
そっか。
じゃあ、原初の光を求めて、昔の人たちのように殺し合うみたいなこともなくなるんだ。
ロエルガ様の言葉で、私たちはやっと全てが終わったことを呑み込めたのだった。
けれど。
「世界が救われたからなんだって言うんだ! 失ったものは何も帰ってはこない! 死んだ者たちに取り返しなんてつかない!」
ジェイドだった。
翼をはためかせ宙に浮いているジェイドは、声を荒げてキッとこちらを睨みつけている。
そうだ。ジェイドの言う通り、全てがなかったことにはならないのだ。
「俺たち火竜族はお前たちを憎み続ける」
ジェイドはそれだけ言い残すと、言いたいことは言い切ったのか飛び去っていく。それに他の火竜族の戦士たちも続いて。
きっと、ジェイドの言葉は火竜族の総意なんだと思う。
けど、このまま彼らを行かせるわけにはいかなかった。
「待って! 私、まだ貴方たちに何もできてない!」
飛び去っていく火竜族たちの背中に声をかけた。
プロメテウスを止めて、大地が復活して世界が救われても、なにも終わってなんかいないのだ。
これから始まるんだから。
なのに、火竜族のみんながいなくなってしまったら、なにも返せない。
だけど、みんな私の声なんて耳を貸さずに次々と飛び去っていってしまう。ただ、その中で一人だけ。私の声で空中で止まって振り返ってくれた竜がいた。
フロワさんだ。
お兄さんのジェイドと共に飛び去って行こうとしたはずの、フロワさんは私の声に応じて戻ってきてくれる。
ゆっくりと地面に着地して、フロワさんは私の前にまで来ると口を開いた。
「──巫女様。僕は巫女様が謝ってくれて罪を背負うって言ってくれて嬉しかったですよ。貴方に何ができるかは僕にも分かりません。でも、頑張ってください」
そして、フロワさんは私の手を取った。
この旅で私はたくさんの人と手を繋いだ。
手を繋ぐことで、心も繋げてこれたんだろうか。
それは、わからないけれど。
「たくさんたくさん考えて、貴方なりの答えを出してください。色んなことを知って、学んで、真剣に向き合った貴方が考えたことなら、それはきっと間違っていないはずです」
そして、フロワさんは私の手をギュッと握ってくれて、私はそれに応えて頷いた。
「では、僕たちはこれで失礼します」
最後に、そっとフロワさんは微笑んで私に背を向けると「待って兄様」そう声を掛けてジェイドの元まで飛んでいって、兄弟並んで飛び去っていく。
原初の灯火が舞い散る夜明けの空に、火竜族たちは新たな天地を求めて飛び去っていく。
その姿を、私たちは並んで見送った。




