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水没世界より 〜棺の竜 花の咲くらむ〜  作者: 世鷹イチゾウ
最終章 その地竜愚鈍につき
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その地竜愚鈍につき

「アリーシャ、俺はまた君のことを待たせてしまう。


 君は待っていてくれるだろうか。


 ダメな従者ですまない。


 だけど、俺はこの世界でもう少し頑張ってみようと思うんだ。


 大切な仲間ができたんだ」


 ロマとロエルガシズナが呑気に会話をしている間も、ベルはただひた走っていた。プロメテウスからの攻撃を弾き飛ばす合間合間に愛の言葉を添えて。

 けれど、ただやられているだけのプロメテウスではなかった。

 ただでさえ、方舟からの度重なる船首突撃──ラムアタックで弱点が露出してしまっている。

 早急にケリをつけなければならないとプロメテウスが判断するのは当然のことだった。

 そして、何より現状一番の脅威は──……。

 土の原初の光を与えられた刀、それを携えた男。

 プロメテウスは天を仰ぎ見て、ガパリとその大きな口を開ける。

 その口元に火山から吸収し蓄えた魔力を凝縮していく。

 プロメテウスの悪意が、ベルただ一人にへと向けられようとしていた。

 

「大技が来る!」

「ベル!」


 トリスやシャスカの焦る声が続いて、


「あれは僕の翼じゃ吸収が間に合わない!」


 二人を守っていたフロワの悲痛な声が上がる。

 みんながみんな、起こり得る惨劇を予期していた。

 たった一人、それを覆せる人物を除いては。


「────ああもう! ここで私だけ原初の光使わずにいたら、私だけ悪者じゃあないですか!」


 ここで見捨てたとあれば一生の批難は免れ得ないと、ロマは堪らず聖杯を握りつぶした。

 その手の中で黄金の杯は、砕け散り砂となって散っていく。

 聖杯に秘められた魔力を余すことなくその身に纏ったロマは自身の魔力に上乗せして、一度に放出した。


「これで火の原初の光は相殺できるはずです! 行きなさい、馬鹿男!」


 発破をかけるロマの魔力が、世界を青で染めあげる。

 いまこの時だけはこの場に放出されている全ての魔力がその力を失った。

 プロメテウスの口元に集まっていた魔力が霧散していく。

 プロメテウスが遠隔操作する宙に浮かぶ悪意ある目玉たちさえも、水の力によって完全に封じ込められてことごとくが墜落した。

広域魔法封印ジャミング】ロマの十八番だ。

 この世界において魔法を封じられて、戦うことがまともにできるものは少ない。

 ()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()──。

 ベルは、シャスカやトリスたちの創り上げた水の回廊がその力を失う寸前、力強く跳躍しプロメテウスの頭上を取っていた。そして、刀を振り上げる。

 白刃が一際一層強く光り輝いた。

 プロメテウスはせめてもの抵抗として拳を振り上げた。遠隔攻撃手段、光弾の物量攻撃が完全に消え失せようともその質量だけで叩き潰そうとその巨腕を振るう。

 けれど、男は止まらない。刀身を盾にし、ふりかぶられた巨腕を受け流して、そしてクルリと身を翻すとその巨腕を最後の足場とした。

 それは愛する女性の元へと向かう男の執念が為せる神業だった。

 後方へと通り過ぎていく前腕を思い切り踏み締めて、向かうはただ一つ。

 求める女性が待つ、胸元のコア部分。そこに座する彼女がもう息絶えていようとも男にはもう関係がなかった。


「やっちまえ、地竜の!」「全てを終わらせてください!」


 火竜族の兄弟が声援を飛ばす。

 それにみんなが続いた。


「やるんじゃ! ベル!」「私にここまでさせたんですから、勝たなきゃ許しませんよ!」


 風竜族の族長はその拳を振り上げて。水竜族の族長は素直じゃない声援を口にした。


「ベルさん、そのまま行ってください!!」

「ベル、いっけぇえええええええええええええ!!」


 共に旅をしてきた仲間たちは勿論。

 他にもその場にいる皆が皆、たった一人恋のためにひた走る男のために声を掛けていく。

 中でも、白い法衣を身につけた勝ち気な水の巫女の少女──シャスカの声は一際大きくベルの耳に届いていて、こんな時でもベルはなぜだか目を閉じてフッと笑えた。温かな気持ちで胸が満たされていた。


「みんな、ありがとう」


 そして、カッと目を見開いて告げる。


「────プロメテウス、アリーシャは返してもらう!」


 跳躍の勢いそのまま愛用する刀を振りかぶった。


「これで最後だ」


 白刃が一閃し、剥き出しだったオレンジ色の宝石のコアに一太刀を浴びせた。

 胸元のオレンジ色のコアの部分がバキバキと砕け散り、プロメテウスは最期の断末魔をあげた。そして、プロメテウスのその巨体がぐらりと傾いた。

 プロメテウスの巨体が背中から地に引かれるように山嶺の谷間へと倒れ込む。

 ズズンという地響きと、土煙がたちまちに立ち昇った。

 シャスカたちは様子を伺おうと、土煙の際の際まで飛んでいって近寄って山下を見下ろした。

 みながみな固唾を呑んで見守る中、やがて土煙から一人の男が愛する人をその両腕に抱えて出てきた時には、この場にいる全ての者が歓声を上げた。

 どうやら世界の危機は完全に去ったようだ。


 一件落着ムードで歓声に湧く中。

 翼がなく、飛ぶことのできないロマは、ロエルガシズナにしがみついたまま遠巻きにみなを眺めながら呆れ声で独りごちた。


「────はぁ、まったく。世界の危機がたった一人の男の恋の話になっちゃいましたよ。本当、人騒がせな」

「愛は世界も救うのじゃよ」


 立派な翼をはためかせ、ロマを首に掴まらせているロエルガシズナはのほほんと言う。

 ロマは付き合ってられないとでも言いたげに、再度大きなため息を吐いた。

 とは言え、どことなくスッキリとした面持ちだった。

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