表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水没世界より 〜棺の竜 花の咲くらむ〜  作者: 世鷹イチゾウ
第四章 全ての憎悪の行き先
37/57

最強の竜

 ベルとロエルガシズナの二人は、火竜族が住まう火山地帯の麓までやってきていた。


「ベルや、テレポート酔いは大丈夫かの?」


 ロエルガシズナは後ろを歩くベルへと振り向いた。

 しきりに、ベルは頭をブルブルと振っている。


「……っ。少し、酔ってはいるが、平気だ」

「無理はせんようにの」

「シャスカが危ない。休んでる暇なんかない」


 ロエルガシズナの心配は他所に、フラつきながらもベルは先を急いだ。

 少しの体調不良など、いまは気にしてる場合ではない。


「あまり焦らんようにの」


 自分を追い越して行ったベルをのほほんとした調子で嗜めながら、ロエルガシズナはベルの後に続いた。


 少しだけ時間は遡る。


 シャスカを二人で助けに行くと決めた二人は、早速表に出た。

 ロエルガシズナは方舟の甲板に出ると目を閉じ、手印を組み風を纏い始めた。

 黄緑色の魔力感応光を帯びた風がロエルガシズナを取り巻くと、やがて凪いだ。


「うむ、巫女様の居場所は分かったぞい」


 側で固唾を飲んで見守っていたベルに微笑みかける。


「コレが風竜族の風詠みか」


 感心すると同時に、ベルはコクリと意気込むように頷いた。

 無事にシャスカの居場所を割り出せたのなら、あとはそこに向かうだけ。


「では、行くとするかの」


 ロエルガシズナは微笑んだままベルの手を取ると、風竜族としての本領を発揮した。

 と言うのも、風詠み以外にも風竜族にはある力がある。

 テレポート。

 短距離間で連続使用することで、風竜族は単純な速さ以上の高速移動を可能にする術を心得ている。

 故に、風竜族は世界各地どこへでも自由に行くことができる。

 風竜族の特権だった。

 ただ一つ、問題がある。


「……ぐっ」


 テレポートの瞬間ごとに目まぐるしく視界が切り替わるので、運ばれているベルからすれば溜まったものではなかった。

 パッパッパッと脈絡のない光景が、連続して視界から脳に叩き込まれる。

 それはある種の閃光弾のような効果をベルにもたらした。


「コレコレ、目を閉じておりなさい。心眼が使えないものには辛かろうて」

「分かった。ここは任せる」


 ロエルガシズナの忠告通り、ベルは運ばれている間じっと目を閉じることで対応した。

 それからの道中は、それほど時間はかからなかった。

 無事、二人は火竜族が住まう村の入り口前までやってきたのだった。


 山肌の岩影に隠れながら、二人は辺りの様子を伺っていた。


「ここが火竜族の村じゃの」


 村の出入り口に門番がこれまた二人立っている。

 彼らは若い。まだ大人になったばかりではないのかと思われる年頃だ。

 装備を身に着けているというよりは、着られている。

 そんな者が村の警備に駆り出されている。

 それだけならばまだ血気盛んな若者が村の警備を買って出たのかもしれないとも言えるのだが……。

 けれど、二人ともどことなくやつれている。

 それだけじゃない。

 門番二人の後ろに覗く村の様子も全体的に寂れている。

 目につくどの家屋にも、打ち付けられた板で補修された跡がよく目立っていた。

 ロエルガシズナは、ポツリと呟いた。


「火の結界で水没を免れておるが、年々その土地は縮まり続けておる。結界を維持する魔力も民も、もう足りんのじゃろうて」


 火竜族の窮状を憐んでいるようだ。

 だが、ベルにいたっては火竜族の現状など、どうでもいい。

 シャスカを救うことの方が先決だ。

 ベルが岩陰から様子を伺ってみたところ、警備はそこまで厳重には見えない。

 左右に分かれて挟撃するカタチで不意打ちなりをすれば、すぐ済むだろう。

 打ち合わせをしようとベルはロエルガシズナに声を掛けた。


「どうする?」

「もちろん、正面突破じゃよ?」

「え」


 まさかの答えに、ベルは固まる。

 その間に、ロエルガシズナは悠然と歩いて行ってしまう。

 呼び止める間もなかった。

 当然、村の入り口を守っていた火竜族の戦士たちはすぐに気づく。

 すかさず武器を構えて、ロエルガシズナに向けた。

 片方は長剣で、もう片方は槍だ。

 剣士の火竜族の門番が血相を変えて、声を上げた。


「止まれ!! 火竜族の村に風竜族がなんの用だ!!


 けれど、ロエルガシズナは気にする様子はない。


「なんじゃ、せっかく来たのに。そんな怒らんどくれ」


 まるで用はないけど散歩に来た爺様のように、ロエルガシズナは口を尖らせてみせる。

 自然体だ。

 その堂々たる様、そして、長老めいた容姿に槍使いの火竜族の門番が気づいた。


「コイツ……っ! ロエルガシズナだ! 襲撃のお礼参りに来やがったんだ! 警鐘を鳴らすぞ!」


 片割れの言葉に、剣士の火竜族の門番は思わず二度見をする。

 普段糸のように閉じている目をわざわざ開けて、ロエルガシズナはウインクしてみせた。


「────へ?」


 一瞬、剣士の火竜族は固まったが、すぐに我に返った。


「な!? 敵襲! 敵襲だ!」


 大慌てで、二人は門に備え付けられた釣鐘の紐を引く。

 すると、伝達する仕組みでもあるのか、村の奥、中心部の方からも大きな鐘の音が鳴った。

 村の家々から武器を持った火竜族が飛び出す。

 続々と警戒を高めた火竜族の戦士たちが集まってくる。


「マズい……」


 大事になってしまった。というか、ロエルガシズナが大事にした。

 どうしたものか……。

 ベルは岩陰から出れずにいた。

 風竜族の族長だから、何か考えがあるのだろうが……。

 堂々と姿を表したロエルガシズナの行動は、突拍子もつかなすぎる。

 真意を測ろうにも、ベルには理解が及ばなかった。


「フォッフォッフォ、たまには本気を出さないと腕が鈍ろうて鈍ろうて」


 相変わらずロエルガシズナは楽しそうだ。

 それがどうにもおちょくっているように見えたのらしい。

 剣士の火竜族の門番は、激昂して切り掛かった。


「こんのクソジジイ!」

「元気が良くてよろしいのぅ」


 勢いよく振り下ろされた剣を、ロエルガシズナは微笑んだまま人差し指と中指の二本で挟んで受け止める。


「はぁ!?」


 無造作に行われた白刃取りに、剣を振り下ろした火竜族の門番はポカンと顎を外したように驚いている。

 ロエルガシズナはその見るからに唖然とした様子が愉快なのか、クククと喉を鳴らした。

 そして、悪戯っ子のように微笑む。


「じゃがまあ、その程度の太刀筋では簡単に剣を取って投げ飛ばせてしまうの?」


 ロエルガシズナが、そう言うや否や。


「なぁ──?!」


 火竜族の剣士の視界は、急にぐるりと反転したことだろう。

 握った剣を軸にしてクルッと体が回った。

 そして。

 背中から魔力を乗せた風と共に地面に叩きつけられて、ゴシャッという音を立てた。


「──ガハッ」


 剣士の火竜族は一撃で気絶した。

 基本的に投げというのは、床材になにかしらクッションがなければ危険極まるもの。

 屋外で繰り出され更には魔力で強化されたのだから、ひとたまりもない。


「てめぇ!」


 同僚を戦闘不能にさせられて、槍使いの火竜族も同僚の仇を取ろうと果敢に槍を突き出した。

 けれど、その槍の穂先が憎き相手を捉えることはなかった。

 ロエルガシズナは槍の一突きをコマのように回りながら受け流し、火竜族の背中側に回り込むと、トン! と背中に触れるように裏拳を当てる。それだけで槍を持った火竜族の体は猛烈な勢いで吹き飛んで顔面から地面に勢いよく叩きつけられる。

 門番は二人とも意識を失った。

 攻防合わせた無駄のない最小限の動きで、ロエルガシズナは火竜族の戦士二人を倒してしまった。

 続々と駆けつけつつあった火竜族の戦士たちの歩みも鈍くなっていく。

 あからさまな規格外の特記戦力を前にしてざわめき立つ火竜族の戦士たちを尻目に、ロエルガシズナはチョイチョイと手のひらを動かした。

 それはまるでかかってきなさいとでも言うようで。

 けれど、火竜族の戦士たちは動き出せなかった。

 誰が自分から動いて二人の二の前になりたいと言うのか。


「来ないのか、つまらんのぅ……」


 では、こちらから出向こうとロエルガシズナは悠然と歩いていく。

 そんな中、集まってきていた火竜族の戦士の一人が叫び声を上げた。

 

「うぁああああああああああ!!」


 叫び声を上げながらも魔力を練り上げ、火球を手に灯すとそれを投げつける。

 狂乱による行動だったためか、ロエルガシズナがなにもしなくとも明後日の方向へと飛んでいってしまったが、それを見た火竜族の戦士たちは顔を見合わせると無言で頷きあった。

 そうだ。自分たちは火竜族だ。なにも勝てない相手に肉弾戦で戦う必要はない。風竜族には相剋で勝っている魔法で戦えばいい。

 周りの火竜族の戦士たちも、先陣を切った一人に倣って次々と魔法の炎を灯した。

 炎が燃え上がるボッという音が連続して巻き起こる。

 そして、一斉に投げつけた。

 投げつけられた思い思いの火球が、ロエルガシズナ目掛けて雨のように降り注ごうとした。

 その時だった。

 ロエルガシズナは、体毛と同じ黄緑の立派な翼を広げた。

 体も覆い隠せるほどの全長を誇るその大きな翼がはためくと、一陣の風が巻き起こる。

 黄緑色の魔力感応光を帯びた風はどんどんと渦を巻いて、本来ロエルガシズナにぶち当たるはずだった火球の軌道を上へと反らしていく。


「相剋で有利だからと甘く見たのじゃろう? まだまだ若いものには負けはせぬよ」


 格の違いを見せつけながら、余裕綽々に宣ってみせるロエルガシズナ。

 けれど、今回は門番の二人のように激昂するような火竜族の戦士は誰もいなかった。


「主らの炎などガズールに比べれば火の粉よ。風の一吹きでかき消してしんぜよう」


 事実、火竜族の起こす炎の全てをロエルガシズナの巻き起こす風は巻き取って、空へと散らして掻き消していく。

 肉弾戦も、本来有利であるはずの魔法でさえも敵わない。

 火竜族の戦士たちは、絶句したまま固まっていた。皆が皆、自らが放った炎が何も成すことなく巻き上げられていくのを見上げて放心していた。

 どうも戦意を挫けたらしいとロエルガシズナは判断して、振り返った。


「さ、ベル。ここはワシに任せて行きなさい」


 後ろに隠れているベルに向けて、手を差し出した。

 つまり、ロエルガシズナは警備を全て自分一人に向けて、風詠みで探し当てたシャスカの居場所までテレポートでベルを送りつけようとしているのだと、やっとベルにも察しがついた。

 岩陰に隠れたまま出ていく機会を失っていたベルは逡巡したが、いまの戦闘を見た限りでも雑兵如きでは仮に相剋で勝っていてもロエルガシズナの敵ではない。

 それに、ベルはシャスカに謝らねばならなかった。


『そんな、待って! 待ってよ! ベル!』

『お願い、行かないで!』


 自分の名前を呼んだ彼女を見捨てて置いていってしまった。

 ……その声は泣き震えていた、のに。

 ならば、ここはお言葉に甘えてロエルガシズナに任せてしまうのが得策だと。


「感謝する!」


 岩陰を飛び出して駆け出し、ベルはロエルガシズナの手を取った。

 手を取った瞬間、ベルの姿はこの場から消え失せる。

 無事に役目を果たしたロエルガシズナは、一度ホッと静かに息を吐いた。

 そして、火竜族たちの視線の中心に一人残されながらも、なおも微笑んで見せた。


「ふふふ、こういうセリフ一度言ってみたかったのじゃよ。長生きはするもんじゃのぅ」


 とてもウキウキとした口調だった。

 続々と集まり増え続ける火竜族の戦士たちを前にして、ロエルガシズナはいつものように愉快そうにニコニコとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ