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反撃開始!!

 ベルは突破口を見つけられないまま、それでも銃弾の雨の中飛び出して行った。

 どうにか単身銃撃を防ぎながら館長の元へと辿り着こうとしているけれど、数度繰り返してもその度に押し戻されている。それはマルクがビットで歩兵たちを倒してくれていても同じで。

 岩陰からベルやマルクが戦う姿を見ていて、どうも戦況が芳しくない様子なのは私もトリスも分かっていた。何より天井に渦巻く魔力の膨大さが、私の危機感を募らせる。


「トリス、どうしよう。私たちも何かしなきゃ」

「何かって」


 トリスは思わぬことを言われたかのように絶句してる。

 私はそんなトリスを叱咤する。


「ベルとマルクにだけ戦わせるわけにはいかないでしょ!」

「無茶だよ! 遮蔽から出たら危ないって言われたじゃないか!」


 こんな時でもトリスは優等生だ。トリスはいつだって私と違ってロマの言いつけはちゃんと守るし、今もマルクやベルの言いつけをきちんと守ろうとしてる。でも、今はそんな場合じゃない。


「……同じだよ、遮蔽から出なくたって」


 そう言いながら、私の頭の中にあったのはホログラムで見た光景だった。


「アレが爆発したら、みんな死んじゃう」


 博物館の映像で見た。

 それは式典の火竜族の炎と比べるまでもない。

 もしそんなものが爆発したのなら、誰も彼もタダじゃ済まない。

 ここにいる私たちだけじゃない、きっと街のロボットたちも──。

 そんなこと、させない。


「シャスカ!? ──もう!」


 背中越しにトリスが慌てる声を聞きながら、私は意を決してベルが作ってくれた岩の盾を飛び出した。途端にベルたちの方を見ていたはずの、館長さんが私の方を見た。


「機関銃の照準が動いて──、シャスカ!? 不味い!」

『いけません!』


 ベルの慌てた声、マルクの制止の言葉を振り切って、私は練り上げた魔力を解き放つ。


「開け、水の回廊!」


 私のその言葉に呼応して、グランドホールの広い空間のあちこちに巨大な水のアーチが幾重にも立ち上がる。

 水の回廊。水でできた通り道を作る魔法だ。この中を通れば走るよりずっと早く動ける。

 私は、単身水の回廊に飛び込もうとして──、浮遊感。ひょいと後ろから誰かに担ぎ上げられる。気づいた時には背中に背負われていて。

 その水色の背中は、翼は、私は以前乗せてもらったことがある。


「一人で突っ走っちゃダメだよ! シャスカの魔法だけじゃ、銃弾に追いつかれちゃうでしょ!」


 トリスだった。トリスは顔を強張らせながらも、無理に笑顔を作って私の代わりに水の回廊を泳いでくれる。


「僕なら翼でシャスカよりずっと早く水の回廊を泳げる。水の回廊を開くなら僕のことも頼ってよ」


 トリスの言葉の通り、私が想定していたよりずっと早いペースでトリスは水の回廊を泳いでくれた。

 気づけば、私たちがさっきまでいた空間を銃弾の雨が通り過ぎていた。そのまま銃弾の雨が私たちをその毒牙にかけようと後を追い縋ってくる。ドドドと水の回廊が撃ち抜かれて、水飛沫がひっきりなしに上がった。

 ゾッとする。

 トリスがいなければ、私は間違いなく銃弾の雨に撃ち抜かれていた。

 私の行動は不正解だったと、早速突きつけられて私はトリスの背中にしがみついたまま素直に頭を下げた。


「ごめん」


 けど、トリスの返事は思いがけないものだった。


「ごめんじゃなくてありがとう! でしょ!」

「あ──」


 それは式典の日のやりとりで。私が巨漢の火竜族に殴られて傷ついているトリスに言おうとしたことで。

 そうだ。そうだった。私たちはずっとこうだった。

 トリスの思わぬ意趣返しに、こんな時なのに笑みが溢れてしまう。

 銃撃に追われてるのに、私はいつもの調子を取り戻した。

 二人でならなんだって平気な気がした。


「そんなことより、水の加護を絶やさないで人間のシャスカは溺れちゃうから!」

「分かってる!」


 トリスの言葉に気を引き締める。

 まだ勝ったわけじゃない。どうにかやり過ごしてるだけだ。

 状況は芳しくない。ベルたちも手詰まりで、だから私たちがいまこうして銃撃の雨の中飛び出している。

 なら、私たちが突破口になるしかない!


「で、どうするの! 僕たちが館長に突っ込む流れだよね、これ!」


 トリスが私の指示を仰ぐ。トリスも勢いで飛び出しただけで何か考えがあるわけじゃないみたい。

 でも、その答えなら私はもうとっくに持っていた。


「言われたでしょ! マルクに弔ってって!」


 そう、私たちは館長さんが魔物になってしまっていたから倒すんじゃない。

 このままじゃ私たちが死んでしまうから倒すのでもない。

 マルクの、願い事だから。

 それに──。


「私が浄化する!」


 水の巫女として。

 そして、シャスカ・ランドハート一個人として。


「私が館長さんを助ける! 館長さんに私が伝えなきゃいけないことがあるの!」


 誰かに歴史を伝えるために館長さんが残って、それを私が受け取ったのなら。

 私のために館長さんはずっと待っていてくれていたのと同義で。

 なら、私はそれに応えなければならなかった。

 人間として。


「オッケー! シャスカはそういう子だよね!」


 トリスは私の言葉に文句も言わずに明るく寄り添ってくれる。

 私の従者がトリスで本当によかった。

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