バイクに乗ってGo!
引き続き、島の人間がいない街を歩いていると、またあるものが目に止まった。
見た感じ、他のものより壊れてなさそうに見えたから。
私はトトトと駆け寄って、ベルを呼んだ。
「ねぇ、ベルこれは?」
それはなんというか、ロマに授業で習った馬に似てる……と思う。
いや、四つ足だったりするわけじゃないんだけど、多分跨って乗るものだっていうのは形状的に察せられる。
座るだろうところに鞍みたいなクッションがあって、足の置き場もあって、掴みやすそうな取っ手もあるから。
多分、人間が作った鉄の馬。
「これはバイクだ。乗り物だよ」
追いついたベルが簡潔に説明してくれる。
私の予想は合っていたみたいだ。
「やっぱり乗り物なの? 私ゴンドラと水車リフトしか知らない……」
私が住んでいたニュムパエアは入り組んだ水路があって、そこをゴンドラで行き来することで荷物を運んだり、乗って移動したりする。
基本的にはニュムパエアでは乗り物っていうのは水の流れを利用したもので。
でも、島で見る乗り物は陸地を走るためのものに見える。
伝車は、伝柱の黒い紐が繋がってたから魔力を供給させて走ってるのは想像がつくけど、ベルがバイクと呼んでいる目の前の代物は紐は繋がっているようには見えない。
どう動くんだろう。
「早く動く機械で小回りが聞いて人を遠くまで運んでくれるんだ。──これは反重力駆動だな」
はんじゅーりょくくどー? ベルが難しい言葉を口走った。
よくわからない単語だけれど、乗り物だって言うのなら。
「じゃあ、これに乗って移動しようよ」
小回りが効くのなら便利だってことだろうし。私は思いついたままを口にする。
でも、言ってから気づく、これ一人用じゃないかしら。椅子に鞍みたいなクッションがあるけど、どう見ても私、トリス、ベルの三人は座れない。詰めても二人がギリギリ? ってぐらい。
けど、私の提案にベルは頷くとなにやらしゃがみ込んでバイクをガチャガチャといじくりまわし始めた。
心なしか、楽しそうだ。
乗り物とか、機械、好きなのかな。
「三人乗りは──、サイドカーが機能で出せるタイプか。水に浸かってもいない、エンジンが壊れてなければ動くかもしれないな」
そしてなにやら確認をし終えたベルが立ち上がって握りやすそうな取っ手がついているところ(後から聞いたけどハンドルと言うのらしい)に手をかざすと青い光の板がその手のところに浮き上がって、
『本人確認。魔力認証を行なってください』
無機質な、でも聞き取りやすい声がバイクからした。
バイクが喋った!
ビックリしている私とトリスを横にベルは一度大きく息を吸い込むと、
「魔力ハック、──認証キー強制起動!」
ベルの翳したままの手から魔力が迸って、バチンと音が鳴ると青い光の板が消えてバイクが突然獣のようにドゥルルルルと唸り出す。確認を終えたようにベルは頷いた。
「……このバイクはまだ生きてるみたいだな」
「え、何したの!?」
私は思わず声を上げてしまう。
横でトリスも驚いたように目を丸くしてる。きっと私も同じ顔をしてる。
だって、バイクが急にところどころ紫に光って、唸ったかと思えば、ブォンって音を立てて浮いて、それになんか横からガチャガチャって、いっぱい出てきてどんどん組み上がってきたんだもの。気づけば浮かび上がるバイクに腰掛けられそうな座ることができる座席が二つ側面に組み上がっていた。これがベルの言ってたサイドカーってやつ?
「魔力認証鍵と言って、人間が作った機械には持ち主を魔力で識別するシステムがあるんだが……、少し多めの魔力を流して強制的に解錠したんだ。簡単に言うと魔力で機械を叩き起こしたんだ。これで本来の持ち主じゃない俺たちでもこのバイクに乗れる」
ベルはまず背負っている棺をバイクの荷台に結えつけて自分も操縦席に跨がりながら解説してくれる。……ベルって意外とはっちゃけてる人なのかな。だって、魔力ハック? して鍵を解錠するの結構手慣れてた。旅をするとそういうことも覚えなきゃいけないのかもしれないけど。
……後になって考えてみれば、この知識が世界を左右するほどの相当重要な知識だったってことを私は身をもって思い知ることになる。どうして火竜族が水の原初の光のこもった聖杯より水の巫女である私を必死に探していたのか。けど、それはまだ未来のお話。
「本来はこういう乗り物に子供を乗せるのは危ないからよくないんだが──、他に衝突するような誰かがいるわけでもない」
ベルは唸りを上げて浮き上がるバイクに跨ったまま辺りを見渡す。
そりゃ当然、こんな廃墟のような都市に私たち以外に誰もいるわけもなくて。
「試しにゆっくり走らせてみよう」
ベルは普段とは違う、ちょっと悪戯っ子っぽい悪いことをしようって顔でニヤリと笑った。
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
「わぁー、すごいすごい!」
バイクに乗せてもらっている私は、はしゃいでいた。
こんな金属の塊がすごい勢いで走るのだ。しかも、浮いてるからビルが倒壊して歩いていけないなあってところも水没してしまった場所も関係なく、飛び越えていける。
こんなすごいものを昔の人間は乗ってたんだ。
「トリスに背中に乗っけてもらって飛んだ時みたい! 景色が流れてく! でも、全然揺れたりしないし、速い速い!」
「ああ……アレね、自分以外の重さがかかると結構大変なんだよね……」
トリスは私のバイクの感想を聞いて、渋い顔で声を漏らした。
以前、トリスに一度せがんで乗せて飛んでもらったことがあるのだ。
お互い、今よりもっと子供で私は軽いとはいえ、トリスも力がなくて、トリスは結構無茶して私の願い事を聞いてくれたのだった。
でも、そのトリスの言葉はいち女性として聞き捨てならない。
「ちょっと、私が重いって言いたいの!?」
私は口を尖らせた。すると、慌てたようにトリスは両手をあげてブンブンと頭を横に振る。
「そういう意味じゃないよ! 水竜族は僕みたいに翼がある竜もいるけど、そこまで飛ぶのは得意じゃないんだってシャスカも知ってるでしょ! 飾りみたいなもんだよ!」
まあ、それは知ってるけど。言葉は選んで欲しいものだわ、全く……。
それはそうとして、トリスは飾りだとか言うけれど。
翼があって上手じゃなくても魔力の補助なりがあればちゃんと飛べるっていうのは、やっぱり水竜族の中でも特別なことで。水竜族は火竜族や風竜族と違って翼が必ずあるわけじゃないから(地竜族は絶対にないのらしい)、翼がある水竜族は羨望の目で見られがちだったりもする。ロマは翼がなくても平気そうだったけど。
「二人は仲良しなんだな」
私とトリスがやいのやいの言い合いをしていたのを聞いていたベルは軽く笑いながら口を挟んだ。
ベルはバイクを走らせてからというもの顔を少し綻ばしていて。いつもブスッとして一見怖いなあって顔をしてる(優しいのはもう分かってるんだけどね)けど、ベルはそういう顔もできるんだなあと思った。そっちの方がいいなとも思った。
多分、バイクが好きなんだと思う。
「うん。私とトリスは幼い頃からずっと一緒だから」
「本当は、近衛騎士が従者になるんですけどシャスカのお母様が早くに亡くなったからシャスカが寂しくないようにって、童子として僕が従者に選ばれたんです」
「なるほどな」
私の言葉に、トリスが続く。その言葉に納得したようにベルが頷いている。
他にもトリスはトリスでベルと話したいことが溜まってたのか、トリスが積極的にベルに話しかけて、バイクに乗って上機嫌のベルとトリスで話が盛り上がっていた。
その話を耳に挟みながら、私の思考は別のところに行っていた。
(近衛騎士……)
私はトリスが口にしたその言葉であの人のことを思い出していた。
本当は、トリスじゃなくて私の従者になるはずだった人。
式典の場に私の手を引いて連れていってくれた人。
『っ! シャスカ様!』
私を庇って、私の代わりに死んでしまった人。
最後に見たのは、私を突き飛ばして、焦った表情を浮かべている姿で。
その姿はすぐに業火に呑み込まれてしまって、後には何も残らなかった。
死体すら。
(……あの人どんな竜だったんだろう)
あの人のこともっと考えたりしたい、のに。
でも、あの人のこと何も知らない。
……ずっと式典の練習で手を繋ぐたびに、いろんなことどう思ってるんだろうってずっと気になってたのに。
結局何も聞けずじまいで。
知っているのは、繋いだ手が温かったことだけ。
私は、その感覚を思い出すように、握った手の親指と人差し指を擦り合わせた。
トリスとベルが話し込んでいる間、私は流れていく景色を眺めながらずっと物思いに耽っていた。




