42話 記者会見(その3)
翌日の午前9時、昨日より参加者が100人ほど増えて、400人となっている。昨日の中継を視聴した結果なのだろう。
「では、本日は私ソフィアが対応します。司会は情報庁長官ウリヤーナが担当します」
「アタシがウリヤーナや、美男美女を優先して指名していくで。ほな、始めよかー」
(20代女性)
(意を決したように)「ソフィア公爵閣下はご自身が同性愛者であることを公言なさっていますが、同性婚についてどうお考えでしょうか?」
(会見場がざわざわとしている。昨日、アルフォンスが私的質問に対して回答を拒否したからだ)
「同性婚はヴァルータでは認められており、全ての国で認められるといいなと思いますが、信仰上の理由、跡継ぎ・後継者の必要性、固定観念などもあり、それが難しいこともまた承知しています。しかし、同性婚を制度として認めることと、各家の事情により自らの子供の同性婚には反対である、ということは両立すると考えます」
「あ、あの、私的質問にもかかわらず、お答えくださり感謝いたします」
「昨日のアルの、あ、公的な場所で弟のことをアルとは呼ばないようにしてはいるのですが、昨日の記者会見がちょっと堅い雰囲気でしたので今日はいいかなと思いまして、アルと呼びますが、昨日のアルの言葉をよく思い出してみて欲しいのです。アルは『そのような質問に答えるつもりはありません』『私の(私的な質問には)答えたくないという意思』と言いました。質問してはいけないと言っていません。但し同時に、質問されても回答意思も回答義務もないという意味です。私は、何でもという訳ではありませんが、答えてもいいと思っているだけですよ」
(20代男性)
「ソフィア公爵閣下からされますと、大公陛下というのはどのような性格のお方なのでしょうか?」
「そうですねぇ‥‥ 私とアルとマイヤはエング家出身ですが、両親はかなり自由に育ててくれました。まあ、そうでなければ同性愛者であることを公言することなど許してもらえなかったでしょうけど。アルは、みなさんご存知の通り、魔力量が非常に小さいことが理由で、過剰といってよいほど甘やかされて育てられました。だから自分が好きなことだけを追究してきました。アルは端的に言えば『自由で、偏っている』と言えるでしょうか。貨幣を無くすという最終目標から逆算して、5歳の頃からアルベルトの容姿に変身して世界中の盗賊や魔物を討伐し、オークションで単独出品をし、都市ヴァルータを作り、と、私たちは、もちろん大いに楽しみながらですが、アルの構想に共感してここまで来ました。しかし、貨幣を無くすなんていう構想は、かなり何かが偏っていないと出てこないと思うんです。あっ、昨日、ニュース発信者の在り方についてのやりとりで、『そもそも公平・公正・中立・不偏は不可能だと考えている』とアルは言っていましたが、特に『不偏』については、自分が偏っていることも関係しているかもしれませんね」
(会見場では笑いが起きつつ、あちこちで「なんだかソフィア公爵閣下の印象はもっと堅物だったような」「いや、そもそも同性愛者を公言していた時点で豪快な自由人だよ」「幼少時から天才と別格扱いされてたから、天才揃いのヴァルータでより自由になったのでは?」などと囁かれている)
(30代女性)
「ソフィア公爵閣下は、ヴァルータ大公国の外交庁長官として各国の王族・貴族とのお付き合いも深いと思います。私は自由都市連盟で生まれ育った者ですが、貴族という制度はなく、互選制(特定の人員の中で互いに選挙して選び出す制度)で、市長が各都市の代表者です。そこで質問ですが、貴族制についてどうお考えでしょうか?」
「そうですねぇ‥‥ 端的に言って、五十歩百歩と考えます」
「え? 互選制と貴族制がですか?」
「はい。自由都市連盟の互選制ですが、確かに互選資格者達に貴族としての特権はありません。しかし、互選といえど、特定の名家からの出身者ばかりですよね? 一般市民で非常に優秀な人が、市長どころか互選資格者に選ばれたことすら一度もありません。とすれば、貴族の特権があるかないかの違いだけですよね?」
「しかし、貴族の特権というものは非常に大きく、例えば旧ザイデル皇国などでは、条件付きではあっても平民への殺傷すら免責されていました」
「その通りですね。あれは本当に酷かったです。あのような特殊な貴族の特権は認められるべきではありません。ところで、ベクレラ王国が旧テフヌト教国を制圧して領土化した後、ベクレラ王国内の多くの腐敗貴族達が取り潰され、重罰を科されたことをご存知ですよね。あれはまさに貴族の特権を悪用した者たちを許さないというベクレラ王国の決意から行われたことでした。王族・貴族の中にも、少々語弊があるかもしれませんが、人格的にも能力的にも優れた方々は多くいるのです。では、他方で、自由都市連盟の市長・互選資格者たちはどうでしょう? 旧ザイデル皇国ほどではないにしても、ある種の特権を悪用している方たちが少なからず存在していませんか?」
「確かに、自由都市連盟にも少なからず‥‥」
「あなたが言いたいことは分かります。ヴァルータは、王族・貴族は国民・領民の納税によって生活しているのだから、『貴族の義務(高貴さは義務を強制する)』(ノブレス・オブリージュ)を果たさない王族・貴族、そしてあくまで一例ですが自由都市連盟の市長・互選資格者たちも、厳しく言えば、不要な存在と考えています」
「では、ヴァルータ大公国は、そのような者たちを粛正する予定なのでしょうか?」
「いえ、そのような主権侵害行為は行いません。ただ、ヴァルータ外交庁の研究機関の分析に基づく予測ですが、いずれ、国民・領民・市民たちは、特権を悪用するような王族・貴族・市長・互選資格者たちを国・連盟が自主的に『取り除かない』のであれば、為政者としての義務を果たしていないと判断するようになり、当該国家・連盟の通貨の価値は低下していきます。通貨価値の低下が止まらない国の運命は、みなさん、既に幾度か経験済みかと思います。ヴァルータが粛正しなくとも、自滅していくのです。そう、特に、今回のような記者会見が世界中に中継された後では」
(優雅な微笑みとともに発せられた最後の言葉を受けて、会見場では参加者たちが息を呑んでいた)
中継を視聴していたティボーデ会頭は「言いおったわい! これも今回の記者会見の目的の1つであったのだろう。もはや各国・連盟は、この発言の呪縛から逃れられぬだろう‥‥ それにしても、ソフィア嬢は、変身はしておったが、やはりアルベルト殿との最初の会合時に条件提示を担当したあのお嬢さんだったか。なんとも愉快じゃのう」と笑みを浮かべた。
「なるほど‥‥ 貴国の予測が現実となることを、多くの視聴者は願っているでしょう」
「ええ。ところで、私が五十歩百歩と表現したのは、貴族の特権に関することではありません。より大きな比較によるものです。それは、国民・領民・市民が、自ら為政者を選挙で選ぶような制度に比較すれば、互選制も貴族制も、大した違いはないでしょう、という意味なのです」
「なっ‥‥ それは、ソフィア公爵閣下の個人的見解でしょうか、それともヴァルータ大公国としての見解でしょうか?」
「後者です」
中継を視聴していたマーキュリー商業国のジラルデ商業大臣(を始めとした各国上層部達)は「な、なんということを!」と腰を抜かさんばかりに驚いた。
「しかし‥‥」
「ええ、10年や20年で実現されるものではありません。それどころか100年や200年以上かかる可能性も十分あると承知しています。なぜだと思いますか?」
「それは‥‥ 知的水準・教育水準などの成熟度の問題です。国民・領民・市民の水準が低ければ、誰を選んでいいのか判断ができません。現在の教育制度では、仰る通り、前途多難かと‥‥」
「そうですね。ただ、教育制度もそうなのですが、みなさんのようなニュース発信者の成熟度も問われることになるとは思いませんか? 必要な教育を受けた人々が、必要なニュース・情報を得て、誰が為政者として適任なのかを判断することになりますので」
ベクレラ王国の会議室で視聴していた国王・宰相・全大臣は「まったく、ニュース発信者たちの成熟度まで問うとは、どこまで深謀遠慮を巡らせているのだ‥‥」と唖然としていた。
宰相は「我が国としても記者会見を避け続けることは不可能でしょうね‥‥」と呟いたが、優秀な同宰相であれば十分対応可能であることが救いであると安心していた。
(30代男性)
「閣下、失礼かもしれませんが、貴国でもいずれ国民による選挙という制度になる可能性はあるのでしょうか?」
「可能性がない、とは言い切れません。ただ、当国の国是は、アルが決めた『国民を幸せにすること』、その一点に尽きます。具体的には、相応の報酬が得られる仕事、美味しい料理、楽しい娯楽を提供することです。そして、スプレーマ全員が、アル・私・マイヤの死後もそれを国是とし続けることを誓っています。国民が望めば選挙ということになるでしょうが、現時点では想定は困難といえますかね」
「確かに、貴国には、ヴァルータ大公陛下に共感されたスプレーマ様が存在していらっしゃいますから、悪政ということは想像できませんね‥‥」
(20代男性)
「閣下、これも失礼かもしれませんが、スプレーマ様全員とバルガス公爵閣下がヴァルータ大公国にのみ存在していらっしゃるという状況は、不平等とはいえないでしょうか?」
「はい、『恐ろしく不平等』とすら言えると思います」
「で、では、定期的に各スプレーマ様が他国にも数年間滞在するということを検討して頂きたく思うのですが‥‥」
「それは8長官自身が決めることです。午後の記者会見で質問してみてはいかがでしょうか?」
「承知しました‥‥」
司会のウリヤーナが「ほな、3時間経ったので終わりにしよかー。午後2時からは他の9人がまとめて対応することにしよか。みんなえらい脳みそが疲れてるやろうしな。甘いもん食べてきーやー」と手をひらひらさせて、散会となった。




