41話 記者会見(その2)
(30代女性)
「ヴァルータ大公国は、かつて、ベクレラ王国エング辺境伯領の南部に位置する未開発地帯でした。多くのA級・S級魔物が存在したことが理由ですが、それらの魔物を、陛下・シルヴィ公爵・ウリヤーナ公爵の3人で、しかも3日間で殲滅したというのは事実でしょうか?」
「はい、事実です」
(おおーー、という驚きの声が会見場で上がっている)
「そのとき、陛下はアルベルト様の容姿に変身されていましたが、実際には5歳だったことになります。間違いないでしょうか」
「はい、間違いないです」
「その5歳のとき、いわゆる『アルベルト・オークション(第1回)』の落札価格総額が当時の価値で約6,700億enでした。主としてそのお金を元手に都市ヴァルータを開発し、都市設計も陛下がなされたというのも事実でしょうか」
「はい、事実です」
「マイヤ公爵を除き、クルーと呼ばれる方々と出逢われたのも5歳のときでしょうか」
「はい、そうです。あ、公表していなかったのですが、当国のバルガス長官もスプレーマになりました。遅れましたが、ここで公表します」
「え? 噂では100年ほどかかるとのことでしたが?」
「そうなんです。理由は分からないのですが、私とシルヴィの結婚式の翌日、バルガスから『おい、なんだか知らんが、俺の魔力の質量が変わったようだ。鑑定してみてくれんか』と言われて鑑定した結果、スプレーマになっていたのです」
(ほんと、あれは何だったんだろう。シルヴィに聞いても「どうでしょうか。若への忠誠や共感や敬愛などが理由なのでしょうかね」と‥‥)
「そ、そうですか‥‥ えー、続けさせて頂きます。その後、陛下が8歳のとき、『アルベルト・オークション(第2回)』の落札価格総額が当時の価値で約2兆enでしたが、それも都市ヴァルータの開発に使われたのでしょうか」
「はい、そうです」
「それは、最終的には貨幣を無くすという目的につながるものだったのでしょうか」
「その通りです」
「貨幣を無くすという構想は、5歳のときに思いついたものでしょうか」
「はい。貨幣は、あまりに無駄な費用がかかりますので。(コンビニでの殺気が動機です、なんて絶対に言えないな‥‥) あなた自身は現在のように貨幣がない状況をどうお感じですか?」
「私の両親と兄夫婦は中規模の料理店を経営しているのですが、貨幣の管理が不要になったことで凄く楽になった、スマポ・タプレ様様だと言っています。特にお昼や夜の混雑時の会計時間が大幅に短縮されたことで、その時間を調理・接客に回せるようになったため、客数が増えて売上げも2割増えました。タプレの代金10万enはすぐに回収できると喜んでいました。私自身は、支払う側としてですが、とても楽になったといいますか、これまでどれほど無駄な時間を使ってきたのかと感じています。そのような商業面だけでなく、国としても大幅な費用削減につながっていると行政府の人たちからよく聞きます」
「(ですよね!!) そうですか、嬉しく思います」
「陛下にとって、お金とは何でしょうか?」
「お金は、人体における血液のようなものです。血液の流れが止まると人体は生命活動を終えてしまいます。同じように、お金の流れが止まれば経済活動が止まり、社会は停滞してしまいます。そのように捉えています」
「なるほど‥‥ ありがとうございました」
(30代男性)
「今日ここに集まった我々は、ニュースに携わっている、またはその予定である者です。陛下は、ニュースはどう発信されるべきとお考えでしょうか?」
「お答えする前になってしまいますが、あなた自身は『どう発信されてはならない』と考えてますでしょうか?」
「まず、虚偽の事実を発信してはならないと考えています」
「私も同じ考えです。では、仮にですが、そうですねぇ、ある人、有名な貴族でも商人でも歌手でもいいのですが、殺人を犯したという虚偽の事実(名誉毀損)が発信され、その人の評価が地に落ちてしまった場合、ニュースの発信者はどう対応すればよいと考えますか?」
「まずは訂正と謝罪です。それから損害賠償の支払いです」
「私も同じ考えです。しかし、いったん低下した評価を元に戻すことは非常に困難です。ニュース発信者が過度に萎縮することは望ましくありませんが、慎重さもまた必要です。では、損害賠償の金額についてはどう考えますか?」
「あまりに多額ですと萎縮につながりますが、逆に少額ですと慎重さを欠くことになりますし、被害者の損害も十分に埋め合わせされないことになります。非常に難しい問題です‥‥」
「そうですね。そのあたりは、みなさんがネットワークを作るなりして議論を交わしていくとよいかもしれませんね。私も損害賠償額については簡単に結論を出せない難しい問題だと認識しています。ところで、現在、銀行はヴァルータ銀行しかありませんが、いずれ他にも銀行が設立されると予測されます。みなさんは、もちろん個人としてニュース発信を行っていくこともよいのでしょうが、株式会社を設立することも検討されるとよいかと思います」
「個人では支払いきれない損害賠償額も、組織としては支払い可能になるという利点もあるという意味でしょうか?」
「それだけではありませんが、それも1つの理由となりえますね。あ、損害賠償といえば、『こらー、アル坊、お金払えーー!!』で有名な焼きとうもろこし屋さんの女性に、あの後、お金を支払いにいったんです。そしたら、『馬鹿だね、アル坊、あのニュース映像投稿以来、昔あんたにご馳走してやった分の何百倍も儲かってるよ!』と追い返されました」
(会見場が笑いに包まれる)
(20代男性)
「事実という観点からではなく、主張・意見という観点からですが、公平・公正・中立・不偏ということも考える必要があると思います」
「具体的にはどういうことでしょう?」
「例えば、政治的な問題などについて、偏った意見だけでなく、多角的視点から様々な意見を発信することも必要ではないかと」
「それは義務にすべきという考えでしょうか?」
「義務付けも検討すべきかと思います」
「なるほど。私は、少し違う考えです。そもそも公平・公正・中立・不偏は不可能だと考えていることもありますが、ニュース発信者が個人であれ組織(株式会社)であれ、『多角的視点から様々な意見』は、その個人・組織が背負う必要は必ずしもなく、あくまで『世界中で発信されるニュース全て』が背負う方が現実的だと考えています。例えば、政策Aについて、ある発信者は賛成意見のみを発信し、ある発信者は反対意見のみを発信する。そして、ニュースの受信者側が、どの発信者に賛同するか、どの発信者が信頼に値するかを判断すべきと考えているということです。その判断に際して、公平・公正・中立・不偏を重視している発信者が受信者側に信頼される可能性が高くなることはあるでしょうが、義務付けまでは不要という考えです」
「『そもそも公平・公正・中立・不偏は不可能』ということは、義務付けどころか、方針として掲げることすら不要ということでしょうか」
「はい、そうです。もちろん方針として掲げること自体を否定するものではありません。それは発信者の自由です」
(会見場は静まりかえっている。誰もが真剣に今のやりとりを考えている様子だ)
ここで司会のソフィアが「休憩も挟まず3時間が経過してしまいました。午後5時です。本日はこれまでにして、明日は午前9時からの開始となります。なお、明日は私が対応する予定です」と伝え、散会となった。
テュポンは「若の前世での職業は、ニュースなどにも全く無縁だった。金融と同じく。なぜあそこまでの見識をお持ちになるに至ったのか。むしろ、『僕は新聞(一般紙)は読まなかったし、テレビでもニュースはほとんど視なかった。スマホでは時々ニュースを確認していたけど』と‥‥」と思案していた。




