39話 アルフォンスの結婚
さらに3年が経過した。
(ヴァルータ公開式典の10年後。世界代表者会議の6年後)
この年、ヴァルータ大公国では、世界各国の要請によって、ヴァルータおよび世界各国の未来を担うべき人材育成(および生徒間の交流)を目的とした、初等部・中等部・高等部・大学・大学院の開設準備に入った。(開設・入学は来年となる)
責任者は、文化庁長官であるシルヴィでもヨルムでもなく、マイヤ(18歳)となった。
(クルー全員の推薦であったが、易々とやってのけるだろうと全員が確信していた)
「ヴァルータ特殊学院」という正式な総称があったのだが、後に通称の「マイヤ学院」が主として使われることになる。
一般科目と魔術を必須としたうえで、各種専門分野(将棋・音楽関係・漫画・医療・サッカー・バレーボールなど20分野)から1つ(または複数も可)を選択して学ぶことが予定されている。
一般科目・魔術・選択した専門分野に関する極めて厳しい入学試験(筆記と実技)が課されることになるが、マイヤは(専門分野の多くについては各専門家の協力を得て)全ての(出題想定)問題集と解答を作成し(分厚い!)、さらに(同想定)実技試験の動画も作成し、各国に配布した。各国は複製自由である。
(アルフォンスは、それらの内容を少し確認しただけで、自分には絶対に合格は不可能だと確信した)
各学年の人数は1,000人が予定され、また、上限年齢のみが設定されて下限年齢は設定されない。
講義は、臨時的にスプレーマ達も担当することが予定されていた。
(各種格闘技部を会得したウピオルが、格闘技も講義内容とすべきだとマイヤに主張したが即座に却下され、ならば格闘技部を作ると張り切っているらしい‥‥)
そして、翌年以降、ヴァルータと世界各国から入学を許可された俊傑たち(国費留学生)が、切磋琢磨し、自由な気風を楽しみ(ヴァルータにはクルー11人以外に爵位持ちは存在しない、当然のことながら学院では各国の爵位など無関係である)、後に各国の重要人物(指導者的立場)として育っていくことになる。
(政治・行政などに限らず、サッカーの指導者なども含む)
翌年、学院生全員を集めた初の入学式で、マイヤ学院長による「爵位・地位・身分・種族は無関係。学ぶ。遊ぶ。楽しむ。知・技・仲間が財産。以上」というあまりに短い式辞は、伝説となる。
(アルフォンスは「マイヤらしいな」と感心した。まさに過不足なし)
余談ながら、「マイヤ学院」は、様々な意味で世界中に知られることになるが、その1つに「世界最高の学食」がある。
いわゆる「バイキング形式」の学生食堂で、ヴァルータ料理が食べ放題なのだから当然とも言えるんだけど‥‥ まあよしとしよう‥‥
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長男ヴィルフリート(27歳)は、ベクレラ王国外務省を既に退職して、エング公爵領でカールハインツ(51歳)を継承し、エング公爵となっている。
カールハインツは相談役のような立場で長男を補佐している。
ヴィルフリートは既に、ポーツェ王国の公爵家の次女を妻に迎え、長男と長女を授かっていた。夫婦仲はとても良い。
(エング家は、世界代表者会議の翌年に、ベクレラ王国から公爵位を授与されていた。ベクレラ王国の上層部は、その少し前に、シルヴィと『血の契約(改)』を交わしたうえで、アルベルト・ヴァルータ大公が実はエング家の次男アルフォンス(の変身姿)であることをアルベルト自身から知らされており、ヴァルータ大公国の上層部にアルフォンス・ソフィア・マイヤの3人がいることから、これまでにベクレラ王国がエング家から受けた大恩に報いるためにも、公爵位の授与を満場一致で決定したのだった)
母ミシュリーヌ(47歳)は、脚本家として世界的な名声を得ていたが、本人は「自分はアルから得た様々な物語を脚本にしただけ」と思っており、以前通りに謙虚なままだった。
姉ソフィア(25歳)は、ヴァルータ大公国の外交庁長官として世界を飛び回っており、また、マイヤ(18歳)は学院長として学院開設の準備と、2人とも忙しい日々を送っているが、充実しているようだ。
アルフォンスは20歳を迎えることになる。
シルヴィが時々「若、もうすぐ20歳ですね、ふふふ。最終目標も実現されましたし、ヴァルータも随分と発展し、安定してきていますよ‥‥」と微笑むのだった‥‥
アルフォンスは決断した。
(結婚について男の決断が遅いのはどの世界でも同じなんだ! とアルフォンスは自分に言い訳をした‥‥)
ある日、ニュース閲覧アプリに、「私、アルベルトは、実はベクレラ王国エング家の次男、アルフォンスという者です。一部の人々は既に知っているのですが、このアルベルトの姿は変身魔術による姿です。これが私の本当の姿です。今後はアルフォンスとしての姿で生きていきます」と、実の姿に戻った映像を併せて発信した。
「同時に、文化庁長官兼食料庁長官シルヴィと1ヶ月後に結婚することも発表します」と、シルヴィと並んだ映像(2人とも照れている姿)も発信した。
このニュースに世界は呆気にとられると同時に、多くの謎が解けたのだった。
「アルベルト・ヴァルータ大公がエング家の次男‥‥ 道理でどの国の情報機関も大公の出生情報を何も得られなかったわけだ‥‥」
「大公とエング家との古くからの強い友好関係も当然ってことか‥‥」
「ソフィア公爵とマイヤ公爵が側近にいることは、でも、身内というより明らかに能力によるものだろうな」
「アルベルト・ヴァルータ大公の男らしい印象(特に帝国制圧時の声明発表の際の威厳ある印象)と違って、アルフォンス様は中性的で美しいとも言える姿で、優しそうな印象だな」
「しっかし、世界一美しいと言われるシルヴィ様と結婚か‥‥」(男達のやっかみ‥‥)
「これで、世界中の王家や上級貴族達が、大公に執拗に持ち込んでいた、数多の令嬢との婚約話も全て諦められることになるだろうな‥‥ シルヴィ様がお相手じゃ、側室すらも不要だろうしな‥‥」
ヴァルータ大公国の国内では、アルフォンスの発表によって、「え? あの『アル坊』が、アルベルト・ヴァルータ大公、いやアルフォンス・ヴァルータ大公? ええ?」と驚いたのは一瞬で、「まあ、でも『アル坊』は『アル坊』だよなー」とあっさり受け入れられた。
ヴァルータに滞在していた多くの観光客によって撮影された、ヴァルータ国民たちが大騒ぎで「アル坊、やったなー!」「アルちゃん、おめでとー!」などと叫んでいる映像が、ニュース閲覧アプリに投稿され、こちらも大きな話題となった。
また、ある撮影者が、いかにも肝っ玉母さん風の女性に「あの、みなさん、大公陛下のことを『アル坊』や『アルちゃん』と呼んでますが、いいのですか?」と訊くと、「ああ、いいんだよ。アル坊がエング辺境伯の次男だってのはみんな知ってるのさ。でもねぇ、アル坊は魔力量が小さいだろ。家族はみんな凄い魔力量なのにね‥‥ それなのにまっすぐ育って礼儀正しくってさ。うちの屋台の焼きとうもろこしが好きでねー。食べなって渡すと、お金を払いますとか言うんだよ。いいんだよ!って言うと、嬉しそうにありがとうございます、ってね‥‥ いや、ちょっと待ってよ、あんた、よく考えたら、アル坊がアルベルト様だってことは、世界一のお金持ちじゃないかい! こらー、アル坊、お金払えーー!!」と叫ぶ映像も投稿され、過去最高の閲覧数を記録した。(撮影した投稿者には大金が入った)
「おい、なんだ、ヴァルータって怖い国って印象があったけど、君主にあんな呼び方が許されてるなんて、なんか、印象が変わるな‥‥」
「シルヴィ様とは呼んでも、アルフォンス様やアルベルト様とは呼ばないんだな‥‥」
「あの屋台はヴァルータの名所になるな、間違いなく」
(実際、名所になった。情けは人のためならず‥‥)
その日から数日間、ヴァルータ中のあちこちで大宴会が行われたことは言うまでもない。
世界中の人々は、これらの発表を大いに歓迎すると同時に、ベクレラ王国通貨とエング公爵領通貨の価値がさらに上がるであろうと確信した。
そして、それは現実となった。
同発表によって、ベクレラ王国とエング公爵領の発行通貨が(ヴァルータenに対してではなく)、他国の通貨に対して、価値を上げた。
特に、それはエング公爵領の「EG en」において顕著であり、他国通貨に対して一時的に急騰した。
その際、エング公爵であるヴィルフリートは、それが一時的なものにすぎないことを見抜き、多くの他国通貨と両替をし、その後に事態が沈静化して価値が元に戻ったところで、それらの通貨を「EG en」で買い戻し(両替)、大きな利益を得た。
そして、それを自領の教育や産業などに注ぎ込んだ。
(それを知ったアルフォンスは「さすが兄さん、見事な手腕だな」と喜んだ)




