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30話 魔族島


 ベクレラ王国では、諸侯にも貨幣の発行権(鋳造権)があるが、王国貨幣・エング辺境伯領貨幣・ヴァルータenの3つが突出して価値が高くなった。


 テフヌト教国制圧の直後に決められたように、27人いた貴族のうち腐敗貴族10人が爵位剥奪のうえ重罰を科され、残った貴族17人の領地のうち、15領地で貨幣発行を止めたそうだ。


 領民たちは、自領発行貨幣を持っていても価値が下落していくばかりなので、価値の高い3つの通貨と両替し続けるようになり、結果としてあまりに貨幣価値が下がりすぎて、貨幣発行益を得るどころか、鋳造すればするほど損失が出るという事態になったからだ。


 貨幣発行権(鋳造権)のメリットは貨幣発行益にあるが、それは地金(銅・銀・金)の値段よりも額面が高い貨幣を発行することで差額分によって利益を得ることができるからであり、地金の値段より低い価値しかない貨幣を発行しても、損失しか出ないのだ。


 残りの領地も同様の事態になり、ベクレラ王国では3つの通貨のみが残ることになるだろう。


 なお、ベクレラ王国は、同国貨幣が買われすぎたことから、流通する貨幣量がさらに足りなくなってきていたため、積極的に(貨幣価値が暴落した)王国諸侯領地の貨幣を大量に購入して、すべて鋳潰し、自国貨幣を発行したようだ。


(ヴァルータはen発行に地金が必要ない。利益目的で購入してもよかったのだけど、王国が貨幣を発行できるよう、参戦を控えた)


 王国貨幣とエング辺境伯領貨幣がここまで価値を高く維持できるのは、信用度が高いからだが、その信用度はヴァルータとの友好関係によって支えられているともいえる。


 世間では、「ベクレラ王国とエング辺境伯領の貨幣価値が下がると、すかさずヴァルータがその貨幣を大量に購入することで価値下落を阻止するらしい」との噂が流れているようだ。どこの情報庁が流したのやら。



---



 クルー11人で、アルベルト商会の一室で、夜食をとりながら、雑談をしていた。


 アルフォンスが「そういえば、ベクレラ王国の西にある魔族が住む島なんだけど、現魔王が穏健派って、どういうことなの? 昔はよく大陸に攻め込んで来たようなんだけど、ここ100年ほどはそういうことがないよね?」と訊いてみた。


 魔族島は、約30万平方kmほどで、ヴァルータ領(約8万平方km)の約4倍の広さだ。


 ルシフェルが「あー、あの島はな、魔素が濃くてな。大陸の一般的な魔素発生量を1とすると、大陸の魔素溜まりが10、魔族島が100ってな感じだ。魔族ってのは、もともと大陸に住んでいた様々な種族が、その高濃度の魔素に適応した末裔たちだ。魔力量がべらぼーに高いんだよ」とラーメン・半チャーハン・餃子セットを食べていた。


(常にカレーを食べてるわけじゃないんだ‥‥)


「なるほど。で、現魔王が穏健派ってのは事実なの?」

「いや、イケイケ派だぜ。ただ、100年ほど前、代替わりして今の魔王になったとき、魔王が俺に、悪魔代表として戦えと決闘を申し込んできてな、面倒だから序列90位くらいのやつと戦わせたら、ワンパンで魔王が半死状態になってな。以降は島に閉じこもってるんだよ。穏健派じゃねー、ただのビビリだ」


(魔王、めちゃくちゃ弱いのか‥‥)


「いや、いうほど弱くはねーんだよ。悪魔、っつーか堕天使、っつーか、ボケ女神が天界から追放された熾天使だけど、俺ちゃんたちが強いだけだ」


 アルベルトは、そういえば以前、ルシフェルが「天界序列1位の女神ユーノーが阿呆だっただけだ。嫉妬深いので有名なんだよ。あいつは許せねえ‥‥」と怒ってたことがあったなと思い出した。


「追放したのは女神ユーノーだったね。今は女神ペルーサーが序列1位になったって、情報庁が旧テフヌト領土の枢機卿から情報を得てたよね、ウピオル」


「はい。世界中のヴァルータ関係施設に女神ペルーサーの神像を収めた祠を設置して、感謝の気持ち(と飲食物)を捧げることが流行になった結果です。ゲデック帝国を加護している女神ユーノーが激怒しているとのことで」


(女神ペルーサーさんは、例の調子で、序列とか全く気にしてないだろうな。そんな態度が余計に女神ユーノーを苛立たせているんだろうな‥‥)


 ルシフェルは「そうなんだよ、ざまあみろだぜ、あのボケ女神が」と罵った。


「魔族は魔力量が多いのかー。スマポ・タプレの普及が進んで、魔力供給魔石の魔力がいずれ足りなくなりそうなんだけど、ちょっと魔族島に行って交渉してみようか」とアルベルトが言った。


 ミカエルが「妾が行こう」と主張したので、「じゃあ明日にでもミカエルとルシフェルとウピオルで魔族島に行ってきて、魔力を供給するよう交渉してきてもらおうかな」とアルベルトが決めた。


 翌日、3人が魔族島に転移し、ミカエルが魔王とその重臣たちに「魔族は魔力を寄越せ」と言い放った。


 その、説明不足という言葉で済ませることすら躊躇するほどの放言について、ウピオルが魔王たちに詳細な説明をした。


 魔族は、魔力制御して人型に変身し、大陸に来る。

 魔力供給(充魔)型魔石でスマポ所有者の魔石に魔力を供給しているタプレ設置店と個別に契約して、魔力を供給する。

 対価としてenを入金するから、まずスマポを購入して、そして入金されたenで料理を食べたり、商品を購入すればよい。


 これは依頼ではなく命令だ。

 拒否すれば全員を消滅させる、と丁重に‥‥ そう、丁重に説明したそうだ。


 魔王とその重臣たちは、顔に恐怖が張り付いたまま、ただコクコクと頷いたようだ。


 その結果、魔族は脅迫、いや、依頼に従った結果、来るべき魔力不足状態は解消されることになった。


 魔族も全員がスマポを購入し、その代金をenで分割返済しながらも、おそろしく美味しいヴァルータ料理を堪能し、温泉とボウリングを楽しみ、サッカーが魔族島で大流行することになる。


 退屈しのぎのため大陸で多くの種族を襲ってきた魔族たちは、各種娯楽によって退屈などとは縁遠くなり、他種族を襲うことはなくなった。


(その翌年、魔王は、感謝の念を伝えるためにアルベルトと対面することになり、その際、アルベルトのあまりの魔力量の少なさに驚くのだが、横にミカエルがいたので、深々と頭を下げ、そそくさと退散することになる)



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