26話 テフヌト教国(その2)
テフヌト教国の教皇は、情報局の枢機卿から、自国貨幣の価値が急落したこと、および、それがヴァルータの工作によるものであることを知らされた。
財政局の枢機卿は、貨幣改鋳の情報が利用されたと推測されますと上申したところ、教皇はそれを自身に対する批判ととらえ、同枢機卿を更迭した。
貨幣価値が急落したことで、テフヌト教国は他国から武器・食料を購入することが極めて困難になった。
(ヴァルータとテフヌト教国の間に位置する山脈を越えて侵攻するには、相応の準備が必要となる)
教皇は、貨幣改鋳と増税は諦めたが、もはやヴァルータは絶対に許せなかった。そして、汚名返上のため、直ちに軍の規模を1万人に縮小して侵攻することにした。
鬼人族に渡された魔導具による結界突破の効果を信じていたのだった。
軍は山脈を越えて、ヴァルータの結界に近づき、結界突破の効果を確認した後で、1万人が一斉にヴァルータに雪崩れ込んだ、と思ったが、その2キロ先には(テフヌト教国軍への対策として)2つ目の結界が張られており、当然そこは突破できず、さらに1つ目の結界も元に戻したため、テフヌト教国軍1万人は、両結界に閉じ込められることになった。
ヴァルータは、これら一連のテフヌト教国による軍事行動を、映像付きで、スマポのニュース閲覧アプリで公開した。
(かなり間抜けで屈辱的な映像だ‥‥)
これによって、テフヌト教国の武力侵攻が世界中に知られることになった。
教国内ではenとの両替が加速し、テフヌト教国金貨『3.6枚』=100万enまで価値が下落した。
反撃の正当性を得たヴァルータは、事前の計画通り、直ちに軍務庁長官ミカエル率いる直属の配下である天使1,000人たちと、大神殿など主要施設に一瞬で転移し、教皇、枢機卿ら、大司教らなどの上層部達を、魔法によって拘束した。
ミカエルは以前、「私一人で十分なのだ。世界を滅ぼせるのだ。だから直属の配下1,000人は適当に割り振ればよいのだ」と言い放ち、特に常備軍を置くことも、軍事訓練なども行っていなかったのだが、そもそも各自が強力すぎて、そのような必要がなかったのだとアルベルトは思い知らされた。
(さすがだなぁ、ミカエル)
「ミカエル、拘束したまま上層部全員を大神殿に集めて、丁重に扱っておいてね。また連絡する」と、思念伝達を終えた。
アルベルトがいるのは、ベクレラ王国王城の大きな会議室である。
会議室にいるのは、国王、宰相、全大臣、その他(国王と宰相が必要と考えた貴族たち)、そしてエング辺境伯、(ミカエルを除く)クルー10人であった。
1週間ほど前、アルベルトは、さすがにテフヌト教国をヴァルータやエング辺境伯領の領土にしたり属国化したりするには広大すぎるし、自国の他貴族などから妬まれたり、ベクレラ王国をも支配しようとしているのではないかなどと邪推されることも避けたかったし、なにより「ほんと面倒‥‥」という主たる理由により、面識のあった国王・宰相・財務大臣・産業大臣・辺境伯に事前に相談していたのであった。
(同時に、ヴァルータ情報庁が得ていた、テフヌト教国の主要人物や主要施設その他のの詳細な情報も全て渡しておいた)
そして今、壁一面に設置された中型モニター4台を通して、撮影係の天使たちが送ってくる映像を観ながら、このメンバーで状況を確認することにしていたのだ。
(国王から要請があった、ヴァルータ料理・菓子類・飲み物を飲食しながら‥‥)
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国王が「さて、諸君、これからテフヌト教国をどうするかだが、事前にアルベルト殿からは、教会が貯め込んでいた金品財宝を(重税で苦しんできた)テフヌトの国民達に返還すべきこと、教会は存続させるが政治・行政には一切関わらせないこと(政教分離)などの提案を受けているのだが、どうだろうか」と問うたが、既に根回しが済んでいるため、全員が同意した。
さらに、テフヌト教国はベクレラ王国の領土とされることも決定され、事後処理のあれこれは全てベクレラ王国で行ってくれるようだ。
(ベクレラ王国の一部となり、テフヌト教国という国名は世界から消えることになる)
農業と漁業が盛んなテフヌト教国からは、新鮮な生産物や魚介類などが、優先的にヴァルータに輸出されることになる。ヴァルータも各種技術指導などの協力をすることになる。
事前に詳細な情報を渡しておいたことで、宰相や前大臣らが協議し、テフヌト領土を統治するために必要な人材(統治官を筆頭に行政官などを含む2,000人)が城内に待機している。
事前の取り決め通り、アルベルトが思念伝達で「ミカエル、そこから王城前に転移門を開いてくれ、2,000人が今からそちらに行く」と伝え、そして全員が大神殿付近に着き、ミカエルは任務完了ということで、こちらに転移してきた。
「ははは、ちゃんとやったであろう」と踏ん反り返っていた。
(さすがルシフェルの双子だ‥‥)
「ああ、任務お疲れ様だったね。ゆっくりして」
国王が「続いて、テフヌト教国という広大な領土をベクレラ王国にもたらしてくれた、アルベルト殿と都市ヴァルータに対する褒賞であるが、武力・財力・情報収集力・技術力・人材など全て既に有しておるし、テフヌト教国の領土も一切不要とのことで、ベクレラ王国として此度の大功に報いるため、まずはアルベルト殿にヴァルータ公爵位を授けることとする。また、シルヴィ殿、ウリヤーナ殿、ルシフェル殿、ウピオル殿、テュポン殿、ヨルム殿、ミカエル殿、バルガス殿らには侯爵位を授け、ソフィア殿とマイヤ殿には伯爵位を授与するものとする」と言うと、室内では大きな拍手が起こった。
「なお、アルベルト殿らが儀式張った爵位授与式は遠慮したいとの意向であるがゆえ、この場をもって簡易の授与式とし、現在より各自をそれぞれ公爵・侯爵・伯爵とする」と述べた。
「クルー」全員は事前に知らされていた。
国王と宰相から打診されたときは、少し考えたが、爵位があるのはこれから(皇国の長官2人のような人種に対しては特に)便利であるし、ベクレラ王国としても、アルベルトのような存在が自国の公爵であることは大きな利点となる、というか他国に出て行かれると困るだろうからなぁ‥‥と思い、承諾することにした。
また、シルヴィ、ウリヤーナ、ルシフェル、ウピオル、テュポン、ヨルム、ミカエル、バルガスらの侯爵位授与については、アルベルト達が会議室に入る前に、宰相から、室内にいる者全員に説明してもらっていたからだ。
予め『血の契約(改)』について説明したうえで、「国王と私は既にシルヴィ様と『血の契約(改)』を交わした」と伝え、シルヴィが室内の全員と『血の契約(改)』を交わし、シルヴィら7人が「伝説のスプレーマ」であること、バルガスもそれに近い存在であることを知らせておいてもらったのだ。
シルヴィらには、本当は爵位などまったく必要ないのだが、アルベルトに対してルシフェルが代表する形で、「まあ、若が生きているあいだは、ヴァルータの各長官として爵位があった方が、他国なんかとの交渉に便利だから、授かってやるよ。領土もなくて面倒ねーしな。家名を訊かれたら、俺ちゃんは、ヴァルータと名乗ることにするぜ」とのことだった。
国王はさらに「ヴァルータ公爵、何か他にお望みのことはありますかな」と聞かれたので、これも事前の打ち合わせ通り、「陛下、ヴァルータ情報庁が得ている情報によりますと、といいますか、既に皆様もご存知の通りでありますが、ベクレラ王国の中には、悪政を敷く一部の貴族がおります。領民を無意味に虐待・殺害したり、重税を課して自らは贅沢三昧に暮らしたり、というような者たちです。証拠もこちらで全て揃えています。そのような貴族は爵位を剥奪したうえで取り潰し、重罰を科すべきで、そられの領地は国王の直轄領にする、または場合によっては領地を接する(善政を敷いている)貴族に与えたりするのがよいかと愚考致します。抵抗するような場合は、必要とあれば、都市ヴァルータから武力を提供致します」と答えた。
これも室内の大臣や貴族らは知らされていたため、しかも誰もが望んでいたことでもあったので、国王は「そのように対応することを約束しよう」と言った。
(ベクレラ王国は諸侯の力が強すぎるため、アルベルトは、一部の腐敗貴族の勢力は削ぐべきと提案していたのだ)
余談であるが、ヴァルータの東に位置する侯爵家、そのまた東に位置する男爵家が、腐敗貴族の典型で、それらの爵位剥奪と取り潰し、さらにその領土2つがヴァルータへ与えられることになっている。
これによって、ベクレラ王国南部の横に長い地域一帯は、ヴァルータ公爵領となり、東側は友好関係にあるマーキュリー商業国と接することになる。
領土の大きさとしては、2倍ほどになり、都市ヴァルータを含んでいたエング辺境伯領と同じ大きさになる。(住民や観光客が増えて、領土を拡大する必要が生じていた)
なお、エング辺境伯はヴァルータ公爵領の分を失うことになるため、川を挟んで西に位置する侯爵領と子爵領(いずれも腐敗貴族)を与えられることになり、面積としてはヴァルータ公爵領を失う前と同程度の領土を維持することになる。
(これらヴァルータ公爵領とエング辺境伯領のことも、室内の大臣や貴族らは全て承知している。そして1ヶ月のうちに実現されることとなる)
(大陸全土:約700万平方km)
・ベクレラ王国:約200万平方km(旧テフヌト領土100万平方kmを含む)
・テフヌト教国:消滅
・ゲデック帝国:約100万平方km
・ザイデル皇国:約100万平方km
・自由都市連盟:約100万平方km(50の都市連盟)
(ベクレラ王国の内部)
・ベクレラ王国の王都:150万平方km(旧テフヌト領土を含む)
・エング辺境伯領:約10万平方km(変わらず)
・ヴァルータ公爵領:約8万平方km(約2倍に拡大)
以降、ベクレラ王国が最大領土を治める国となり、帝国と皇国を会わせて「新3大国」と呼ばれることになる。
なお、ベクレラ王国とテフヌト教国の間には高い山脈があるため、往来するには交通の便が悪すぎる。
そこで、王城とテフヌト教国(の一部の秘密区域)の間に(予め認証された者だけが通れる)転移門が設置された。
さらに、誰もがスマポen決済によって利用できる多くの転移門が、両領土相互間に常時設置されることになった。




