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27話 テフヌト教国(その3)


 テフヌト教国がベクレラ王国ヴァルータに対して侵攻した映像と、その後に反撃してテフヌト教国の上層部の多くを排除してベクレラ王国の領土としたこと、アルベルトと側近クルーに爵位が授与されたことが、ニュース閲覧アプリに公開され、世界は驚きをもってこの事実を受け止めた。



(ニュース閲覧アプリに流される情報は、ヴァルータのみが発信元になっているのではなく、世界中から様々なニュースがスマポ所有者によって発信されている。そして、当初の予定通り、ニュース1つ閲覧につき小銅貨1枚(約10円)の料金が発生し、その半分はニュース提供者の財布アプリにenで入金される仕組みになっている。閲覧用に、指定した地域・内容、特定の用語に関するニュースが流れると赤く表示されるという機能もある)



 テフヌト教国がベクレラ王国の領土となったことを知った教国国民は、パニック的にテフヌト教国貨幣をenに両替し続け(さらに一部の両替商や商会はテフヌト教国貨幣をenや他国貨幣に両替し続け)、数日後には、ついにテフヌト教国金貨『7.8枚』=100万enまで下落した。


 3ヶ月前には、テフヌト教国金貨『1.3枚』=100万enだったことからすると、3ヶ月間でテフヌト教国の貨幣価値は83%も下落したことになる。



 同時に、教国では(貨幣価値が暴落したことから)物価高が進み、ハイパーインフレーションが起こった。


 ベクレラ王国とヴァルータは、同国民のために直ちに食料を始めとした各種支援物資を大量に提供した。(教国国民にまで被害が及ぶことを望んでいなかったからである)



(ハイパーインフレは、アルフォンスの前世でも、時々発生することではあった。例えば、第一次世界大戦直後では、敗戦後のドイツ帝国で1兆倍、ロシア帝国で600億倍のハイパーインフレが発生した。また、ジンバブエでは、2008年にインフレ率が約2億%となったこともある。ベネズエラでは、2016年のインフレ率が700%に達し、同国民の約400万人以上が国外に流出した。これらはあくまで数例にすぎない)



 テフヌト教国貨幣の多くがenと両替されたことで、ヴァルータは多くのテフヌト教国貨幣を保有することになった。


 数ヶ月前には「金貨換算130万枚分=約1兆en(為替レート:当時の3大国1.3枚=100万en)」を保有していたが、目立たないようゆっくりと売り抜けて、ほとんど保有していない状態だった。


 しかし、今は「同国金貨換算200万枚分=約16兆円(為替レート:テフヌト教国7.8枚=100万en)」を保有するに至っている。



 とても重要なことだけど、「安値で買って高値で売る」のと「高値で売って安値で買う」のは同じことだ。

(ただ、「空売り」というシステムはこの世界にはない)



 アルベルトは、財務庁の担当者に「(既に大幅増員を指示してあった)世界中の工作員・諜報員その他関係者全ての者たちのスマポに、物専用転移門でテフヌト教国貨幣を全て送れ。そして、世界にある両替可能な全ての両替商・各商会の本店支店(約10万カ所)で、帝国貨幣、皇国貨幣、ベクレラ王国貨幣と、まずは200万枚分のうち150万枚分を両替(テフヌト教国貨幣を売る)すべし。その際、ヴァルータの者であることを(陰に陽に)示すように」と命じた。


 命令は直ちに実行された。


 この「テフヌト教国貨幣の売り浴びせ」の事実は、ヴァルータの者による両替であることも併せて、両替商・各商会にメッセ機能などで共有された。


 両替商・各商会間では「なぜだ!? テフヌト教国貨幣は地金の含有量を遙かに下回る価値になっているのに? こんなことは過去に経験がない! しかし、ヴァルータが意図的にやっていることだから、何かあるはずなのでは?」などの情報も拡散された。


 その日、テフヌト教国金貨『19枚』=100万enまで下落した。


 翌日、アルベルトは(残り50万枚分についても)同様の命令を発し、その命令は実行され、また、商会・国・貴族らも売りに回った(価値下落に耐えられず売らざるを得なかった)結果、テフヌト教国金貨『42枚』=100万enまで下落した。



 ここで、ヴァルータ財務庁は、一転してテフヌト教国貨幣の「買い」に回った。


 アルベルトの指示は「世界にある両替可能な10万カ所で、1秒の狂いもなく、午前10時ジャストに、一斉にテフヌト教国貨幣を買え」だった。


 指示通り、(世界中の工作員たちのスマポに物専用転移門によって送られていた)巨額の「帝国貨幣、皇国貨幣、ベクレラ王国貨幣」を使って、世界中の両替商・各商会で、テフヌト教国金貨を購入(両替)した。


 但し、さすが、ティボーデ商会とシュヴァン商会、および、一部の両替商・商会は、両替を拒否した。


(拒否したのは、ヴァルータの策略に気づいた賢明な両替商・商会だった)


 これら一連の仕掛けによって、発行済みテフヌト教国貨幣の7割を、ヴァルータは手に入れた。



 数ヶ月前には「テフヌト教国金貨換算1.3枚=100万en)」だったのが、「同42枚=100万en」、つまり約97%の貨幣価値の下落である。


(ヴァルータによる「買い」に遅れて商会・国・貴族らもそれに続いたこともあり、数ヶ月後に為替レートは同5枚=100万enまで戻ったが、ほぼ意味は無い)



 これら一連の仕掛けによってヴァルータが得た利益は、約70兆enであった。



 テフヌト教国貨幣の価値ではなく、貨幣を鋳潰して得られる地金(銅・銀・金)の価値である。

 そもそも、テフヌト教国は3大国の1つで、ヴァルータ公開前の為替レートは、帝国・皇国と同じだったのだ。地金の含有量は十分である。


 ヴァルータは、大規模な金属精錬工場をフル稼働させ、テフヌト教国貨幣を鋳潰してインゴットにし、短期間のうちにマーキュリー商業国、自由都市連盟、ベクレラ王国などに売却した。



 そう、「安値で買って高値で売る」のと「高値で売って安値で買う」のは同じことだ。



 数日後、(一緒にいるらしい)ティボーデ会頭とシュヴァン会頭から映像通話が入った。


「ヴァルータ公爵、お久しぶりです。まずは公爵位の叙爵、おめでとうございます」

「ありがとうございます。ただ、以前のようにアルベルトとお呼び頂く方が落ち着きますので、よろしければ」

「ははは、まだ慣れませぬかな。ところで、一連の仕掛け、誠にお見事でした」

「いえ、両替を受けて頂けなかった時点で、お気付きになられたのだなと、さすがのご慧眼に敬服しました」

「少し気付くのが遅かったですが、多少お裾分けにあずかりました」


 など、3人で様々な話をし、再会を約束して、通話を終えた。


(シュヴァン会頭は本当に嬉しそうだったなぁ。やはり金融の才に恵まれていらっしゃるようだ。ティボーデ会頭とも、全てが終わればゆっくりお話したいな)




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