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22話 ベクレラ国王・宰相・財務大臣


 以前、ベクレラ王国の王都から複合娯楽施設の誘致を受けた際に何度か会った担当の産業大臣から、エング辺境伯とアルベルトに連絡が入った。3者間でのスマポ通話となった。


 ベクレラ王国の財務大臣が会合を求めているという。

 ただ、本来であれば王国側がエング辺境伯とヴァルータに依頼したいことがあるため、財務大臣がこちらに来るのが筋であるが、王国としての面子が‥‥ ということだった。


 辺境伯もアルベルトも、自分たちが出向くことに何の異論もない旨を伝え、ベクレラ王城の一室にて翌日の午後2時の会合ということになった。

 ただ、条件として、こちらからはソフィア、妹マイヤ、シルヴィ、テュポンの同行を求めると、(おそらく隣に財務大臣がいたのであろう)数十秒後に承諾された。


(王都の大学で学んでいるマイヤ(9歳)にも良い機会だろうと考えたのだ)


 アルベルトにとって王城は初めてだったが、辺境伯が城門で名を告げると、産業大臣が出迎えてくれ、豪華な部屋に通された。

 

 そこには、財務大臣と宰相、さらに国王までいたので、6人が臣下の礼をとろうとしたが、国王は「いや、待たれよ、今日この部屋では堅苦しい儀礼は抜きにされたい。そのために謁見の間にせんかったのだ」とのことで、辺境伯とソフィア以外はあっさりそのようにした。辺境伯とソフィアはさすがに慌てていた。


(シルヴィとテュポンは、たんにアルベルトに不利益が及ばないよう臣下の礼をとろうとしただけで、本来は不要なものだと考えていた。スプレーマなので当然といえば当然だが)


 国王は「事前に知らせずにすまなかった。財務大臣との会合の前に、余がアルベルト殿にお会いしたいと宰相に我が儘を通したのだ。ただ、アルベルト殿、シルヴィ殿、テュポン殿に臣下の礼というのも少し違うような気がしてな。非公式としたのだ」と。


 アルベルトは以前から自分の地位を明確にしてこなかった。

 都市ヴァルータはエング辺境伯領の一部にすぎない。そして、その行政代表者と公式的に認めたことはない。

 よって、単に冒険者でありアルベルト商会会頭という立場のみで、柔軟に対応ができるよう、あえて公的立場を曖昧にしてきたのだ。ゆえに、国王の対応はそれに見合ったものと言えたが、賢王との評判は本当のようだ。


 アルベルトは「陛下、寛大なるお言葉に感謝致します」と謝意を伝えた。

「いや、本当に余の我が儘ゆえ、是非とも皆には寛いで頂きたい」


 テーブルを挟んで、あちらは産業大臣、財務大臣、宰相、国王、こちらは辺境伯、アルベルト、シルヴィ、テュポン、ソフィア、マイヤ。非公式ながらまるで公賓待遇のようだ。

 

「エング辺境伯よ、ソフィア嬢は世に知れた天才だが、マイヤ嬢も9歳にして教授陣が教えることがないと嘆いているとのことだ。1年内には飛び級卒業と聞き及んでおる。貴殿は子に恵まれたのう」

「きょ、恐縮でございます」


(父上、肯定しちゃったよ! まあ緊張しているのが明らかなので誰も悪く解釈しないだろうけど‥‥)


「マイヤ嬢は卒業後はどうするのじゃ?」

「ヴァルータで仕事をしたく希望しております」

「そうか、ヴァルータには優秀な者が集まるのう。ところで辺境伯、貴殿の領地の貨幣政策はアルベルト殿に委ねているとは本当であろうか」

「はい、陛下、その通りでございます」

「enというのはエング辺境伯領のenに由来するのだろうか?」

「はい、仰る通りでございます」

「ふむ。ところで、承知の通り、わが王国貨幣、辺境伯領貨幣、そして都市ヴァルータのenの価値が高まっておってな、それはアルベルト殿の貨幣政策が関係しているのではないかと重臣たちから」

「へ、陛下、そのようなご発言はさすがに深入りに過ぎるかと‥‥」と宰相が遮った。


「後二者についてはそうとも申せますが、王国貨幣については何とも‥‥ ところで、陛下、既にお聞き及びのことと存じますが、3大国、特にテフヌト教国が執拗に諜報員や暗殺者をヴァルータに送り込み続けてきています。この状態のままであればよいのですが、仮にテフヌト教国から武力行使を受けた場合、反撃をしてもよろしいでしょうか」とアルベルトは訊いた。


「構わぬ。ヴァルータ情報庁が得た情報が王都にも伝えられているが、テフヌト教国は現教皇が危篤状態であり、次の教皇はかなり過激な方法を厭わぬ性格らしいではないか。武力行使は十分ありうるだろう。しかし、アルベルト殿、ヴァルータが狙われるのは、貴殿がドワーフ達を救出したことも原因の1つではないのか?」と笑った。


「さて、どうなのでしょうか?」とアルベルトは微笑みで返した。

「ははは。どうせ圧勝して、テフヌト教国全土を支配してしまうのであろう。よいよい。その方が教国の民にとっても幸福であろうしな‥‥」


「承知しました。あと、将棋という盤上遊戯をつくりまして。これを10組み、各書籍10組みを献上しますので、お楽しみ頂ければ幸甚でございます。さらに、いまスマポをお持ちでしょうか」と訊くと、4人全員が持っていたので「では、解説動画もこのタプレからスマポに移しますので、置いて頂いてよろしいでしょうか」と4人のスマポに動画を移した。

「私も大好きな頭脳遊戯ですので、是非ともお楽しみ頂ければ」と普及活動?を行うと、感謝された。


(後にベクレラ王国の多くの貴族や、他国の貴族も楽しむようになり、さらにベクレラ王国の国民にも徐々に広がっていった。嬉しい)


「では、余が長居すると中にはうるさく言う者もおるゆえ、これにて失礼するとしようか。アルベルト殿、また会おう」

「過分なお言葉、恐れ入ります」


 国王と宰相は退室した。


 財務大臣は「では、早速本題に入りましょうか。さきほどの陛下のご発言に関係するのですが、率直にいいますと、王国貨幣が足りないのです。3大国に対して当王国貨幣の価値が上がったためか、王国貨幣との両替が多くなされており、国内ですら流通量が少なくなってきているのです。そこで、辺境伯とアルベルト殿には、地金(銅・銀・金)を融通して頂けないかとのお願いなのです」とのことだった。


(事前に産業大臣から「お願いベース」と聞いたときに予想した通りであったので、既に検討していた。王国貨幣をそのまま渡すより、他国貨幣を鋳潰したインゴット(地金)を渡す方が、今後のベクレラ王国貨幣の価値上昇を考えると、こちらとしては安くつく。ただ、王国としても王国貨幣を渡してもらった方が、インゴットを鋳造するよりコストがかからない。できるだけ今後のこちらの要請を承諾してもらえるよう貸しをつくるため、半々にしておくことにした)


「ご所望の量はどれほどでしょうか」

「あればあるだけ、というのが本音です。ただ、購入代金は3大国の貨幣になります。もちろん本日時点での交換比率、ヴァルータ都市でいう「為替レート」ですか、で結構です」


(3大国の貨幣。だろうな、その他の国の貨幣はヴァルータと同じく、鋳潰してるはずだし、おまけにヴァルータと違って、世界中にいる諜報員や工作員が個別に両替することが無理で、一気に数カ所で両替すると目立つしな‥‥)


「率直なところで、3大国貨幣でおいくらほど購入代金はご準備が可能でしょうか」

「最大で3大国金貨換算で合計100万枚(約8,300億en)。特に銀が足りておりません」

「承知しました。では王国通貨で半分、インゴット(地金)で半分ということでよろしいでしょうか。であれば持参しておりますが、どちらでお渡しすればよろしいでしょうか」


「なっ‥‥ いえ、失礼しました。産業大臣と宰相と国王が、きっとアルベルト殿であれば持参されるはずと断言していましたので‥‥ 大変有り難いです。王国として大きな借りができたと思っております。では、こちらのスマポのマジックボックスに移して頂けますでしょうか」

「承知しました。ではテュポン」と促すと、直ちに移された。


「では、こちらで確認し、明日の午後4時にはお支払いできます。城内にも皆様のお部屋を準備していますが、お泊まりになられるでしょうか」

「いえ、有り難いご提案ですが、転移で戻れますので、明日また私だけ伺います」

「承知しました」


 城門から出て、「辺境伯、どうなさいますか?」と訊くと、「ソフィアに転移で連れて帰ってもらおうかと‥‥ いろいろ驚き疲れましたので‥‥」とのことで、ソフィアも今日は辺境伯邸で宿泊するようだ。


 辺境伯には、ヴァルータが買い占めてきた辺境伯領貨幣すべてを、3大国貨幣との両替を提案し、快諾された。

(辺境伯領貨幣も流通量が減っており、必要としていたからだ。また、同貨幣価値を維持したままだから問題ない)


 シルヴィは「わたくしはゴキゲン中飛車の研究をしたく‥‥」、テュポンは「私は角換わり腰掛け銀の研究を‥‥」。

「あ、ああ、分かった。今日はご苦労だったね」


(っておい、僕が転生したときの最新戦法じゃないか!)


「じゃあマイヤ、僕を王都案内してくれるかな?」

「りょ」

「あー、その『了解』を意味するネットスラング、ちょい古いかな‥‥」

「くっ、殺せ」

「その『くっ殺』な女騎士、いないから‥‥」

「いる。いるべき。いて欲しい。三段活用」

「ちょっと黙ろうか、マイヤ」と、こめかみをグリグリしていたら城門の衛兵たちから少女虐待的視線を受けるの、納得がいかない‥‥


「世界中を転移した。ヴァルータ以上に楽しいとこ無し。ボウリング行く」

 まあ、視察にはいいかもと、複合娯楽施設の一般用と富裕層用の2つのボウリング場で(僕は変身して)2人で遊んだ。マイヤのスコア平均は250で、僕は(前世と同じく)110だった‥‥


 その後、フードコートで食事をしてからアルベルト商会本店に戻り、翌日の午後4時の少し前に王城へ行き、財務大臣からお礼とともに、3大国の金貨換算で合計102万枚分の貨幣を受け取った。2%ほど色を付けてくれたようだ。


 4分の1ほどは、低く評価された他国貨幣と両替した。

 そのうちに、「あまりに低く評価された貨幣はむしろ購入し、鋳潰してインゴットにして売却した方が得をする」と気付いて同じような行動に出る者が出てくれば、今度は値上がりに転じる。

 だから、その前に両替しておいたのだが、その後やはり値上がりに転じ、適正な為替レートに落ち着くことになった。良いタイミングだった。


 残り4分の3(3大国金貨換算77万枚分)については、後に使途が決まっているので、まだ使わない。

 

 なお、テフヌト教国は、「地金の含有率を下げた悪貨鋳造」をするだろうと予想した(というか、そのように仕掛ける。実際には悪貨鋳造すらできないようになるだろうが‥‥)。

 その機会を利用する予定だが、「悪貨鋳造」の時期を決めるのは、テフヌト教国ではなく、もちろんヴァルータである。



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