21話 最上位女神ユーノー、ミネルウァ、テフヌトがご立腹
そして、ヴァルータ公開から1年と少しが経過した頃、それは突然やってきた。
以前の為替レートは、3大国金貨1枚=ベクレラ王国金貨1枚=エング辺境伯金貨1枚=100万enだった。
しかし、3大国の貨幣価値が下がり、1.1枚になったのである。その他の国発行の貨幣はさらに価値が下がった。
3大国1.1枚=ベクレラ王国1枚=エング辺境伯領1枚=100万en。
これによって、ベクレラ王国とエング辺境伯の貨幣、およびenへの両替がさらに増えた。
ヴァルータの施設やアルベルト商会への信用度が高くなり、今後も3大国を始めとした多くの国で、さらなる貨幣価値の下落が予想されたためであった。
ヴァルータ公開以前から、ヴァルータ財務庁はベクレラ王国とエング辺境伯の貨幣を密かに買い占めてきており、さらにエング辺境伯においては貨幣発行を停止したこともあって、それらの流通量が減っている。
貨幣流通量が減ることで、貨幣価値は維持されたままだ。
なお、ヴァルータによる2つの貨幣の買い占めは、3大国以外の貨幣を使ってきた。
なぜなら、3大国以外の他の国の貨幣は、これからさらに、地金(銅・銀・金)の含有量に比して価値が下がると予想しており、さらに以降も価値下落が続くと予想したためだった。
(価値下落が予測される貨幣を保有しておく理由はない)
つまり、それらの(ある意味で)不当に低く評価された貨幣を、後に下落してから購入して鋳潰し、インゴット(鋳塊)にして売却する方が、遙かに利益が大きかったからである。
この頃になり、ティボーデ会頭とシュヴァン会頭は「なるほど、当初、スマポの販売権を我々に任せたのは、最終的にenの発行を促すためだったのだ。確かに、5大商会の販路を利用せずアルベルト商会だけでスマポを販売していたら、ここまで急速に利用者の裾野を広げることは不可能だった。急速にスマポでのen利用者が増え、地金が不要なenの発行によって得られる利益が一体どれほどのものになるのか想像すらできない。当初からの計画に間違いない‥‥」と感心した。
しかし、enの発行自体が最終目的ではなかったことを、ティボーデ会頭とシュヴァン会頭は後に知ることになる。
3大国(帝国・皇国・教国)を始めとする各国は、スマポ・タプレそして各種アプリの術式解明に躍起になっていたが、スプレーマ達にすら不可能だったことが可能なはずがない。
事ここに至って、3大国は、それぞれ加護を受けている女神たち、ゲデック帝国は女神ユーノー、ザイデル皇国は女神ミネルウァ、テフヌト教国は女神テフヌトに、ぞれぞれ神託を求めざるを得なかった。
しかし、アルフォンスの術式には全て秘匿術式(術式の解明を防ぐための術式)が併用されており、おまけに日本語500文字による高度な暗号が用いられるため、解明は不可能であった。
もし可能だとしたら、直接アルフォンスと会ったことがある女神ペルーサーさんのみだろうが、あのやる気の感じられないペルーサーさんがそれを行うことは考えられなかった。
後に身柄拘束したテフヌト教国の諜報員から得た情報によると、術式を解明できなかった女神たちは恥をかかされたと感じたのか、かなりご立腹だったようだ。
おまけに、序列最下位に近かった女神ペルーサーさんに猛烈に追い上げられていることから、女神たちは(異世界からの初の転生者という厄介な存在の扱いを押し付けた)ペルーサーに助力を願うなどといった恥知らずなこともできず、臍を曲げたとのことだった‥‥
複合娯楽施設には、必ず女神ペルーサーの神像が収められた祠があり、感謝を捧げることが流行していたのだが、まさか序列に影響を与えているとは想像していなかった。
(だから責任転嫁はやめて欲しい‥‥)
ヴァルータ公開から1年の間に、複合娯楽施設を200箇所を設置したと同時に、アルベルト商会も支店を続々と開設させていた。
こちらは娯楽も担当する文化庁長官シルヴィとヨルムの直属の配下たち、そして産業庁長官テュポンの直属の配下たちに任せっきりだったが、利益は十分に出ているようだった。
大ヒット商品は数多くあるようだが、任せっきりだったので、商品として知っているのは、各種料理のテイクアウト、温水洗浄便座、寝具類、「スマポ・タプレを収納するための小容量マジックボックス機能付きの指輪・ブレスレット」くらい」だ。
スマポ・タプレにはマジックボックスがついているけど、「スマポ(またはタプレ)自体を携行したいけれどポケットがないので」という要望に応えた商品らしい。商会に設置してあるタプレで様々なサイズ・デザイン・色・素材が選べるそうだ。
あと、大ヒットとはいえないが、将棋の販売も知っている。
将棋については、アルフォンスが前世で大好きだったため、シルヴィと5人のハイエルフたち、そしてヨルムと、将棋研究会を発足させ、駒を(漢字ではなく)この世界でも分かりやすい記号にした。
同時に、将棋研究会のメンバーにはハイレベルな将棋を知ってもらうため、まずは漢字の駒も覚えてもらって、(翻訳術式を付与した上で)100名局とその解説の動画(女神ペルーサーさんから持ち込みを許された自分のパソコンに入ってあったもの)と書籍を、1ヶ月間観たり読んだりしてもらい(必要な料金は全てアルベルト商会から支出される)、研究に研究を重ねて、最終的には自分たちで(数カ国語に対応した)「入門書」「中級者編」「上級者編」を作成し、(産業庁が紙の作成と印刷技術の開発に成功していたので)書籍の販売、および、解説動画を販売してスマポとタプレで購入できるようにした。(動画の場合はアプリ「写真、動画、音楽の保存機能」と記録術式付きガラスが必要になるが)
これによって、一部で猛烈な将棋ファンが増えていった。とても嬉しい。
(麻雀についても、同様の過程を経て、普及が進むことになる)
また、アルフォンスは、パソコンに入っていた音楽(可能なら踊り単体でも)を娯楽としても、提供する側の職業としても広めたいと考え、能力専用鑑定で、職業適性が「音楽」「歌手」「演奏」など音楽関係の者たちと、「踊り」「舞踊」「舞踏」のダンス関係の者たちを(ひとまず「現在Lv.60以上、最大Lv.70以上」と限定して)集めるよう、スプレーマ達にお願いした。
担当は、文化庁長官のヨルムとした。
音楽は、鳥人族のハルピュイアとセイレーン、猫人族、天使、ダークエルフから6人が集まり、ダンスは、犬人族、狐人族、兎人族、狼人族から6人が集まった。楽器製作も必要になるかもしれないので、バルガスの直属の配下にも6人参加してもらった。
アルベルトは伝えた。(ヨルムが『血の契約(改)』を交わしたうえで)
まず、音楽関係のみんな、そしてドワーフのみんな、スマポを出して、業務用に切り替えて。必要な料金は全てアルベルト商会から支出されるから。
んで、タプレ8台の上に置いて。これから、様々な音楽の動画付きのものと音のみのものを、1万曲ほどスマポに移すから視聴してみて。
(日本語と英語の)翻訳術式を付与するね。ただ、歌詞はあまり気にしないで。後で自分たちで作詞してもらうことになるけど、元の歌詞の内容に縛られる必要はないから。音楽研究会ね。
今後はこれがみんなの仕事になるから、今の職場にはそう伝えてね。あ、機密事項だから、動画と音はこのメンバー以外には絶対に知られないように。
次に、踊り関係のみんなは、動画付きのものだけ3000曲ほどスマポに移すね。ダンス研究会ね。
あとは音楽研究会と同じで。好きな時に使えるように場所をいくつか文化庁内部にヨルムが準備しておくから。
あと、楽譜、特にドワーフのみんなには楽器関係の書籍を100冊ほどマジックボックスにいれておいたから。楽器研究会ね。
じゃあ、みんな結果を楽しみにしてるから。
(数日後にヨルムに会ったとき、「んあ。アニソン最高な」とめちゃくちゃ楽しそうだので不安になったんだけど‥‥)
その後、3つの研究会のメンバーたちは、様々な曲やダンス、そしていくつかの楽器を作り続け、歌手、演奏家、ダンサー、楽器製作など、関係する様々な職業(数百人のプロ)が生まれ、音楽や動画として多くの人に購入されてスマポに収められていくようになる。
(購入された金額の半分は本人の収入となり、それだけでも食べていける人が増えることになった)




