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テイルズテイル ~Tale's Tale~  作者: 天雪キョウ
クレスエント王国編 ~誓いの騎士と十年の清算~
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第六章《想う者たちの戦い》 3

前話を更新しています。

この話に直接つながる内容ではありませんが、ご注意ください。

 闇蜘蛛に依頼して三日。彼が指定した通りに勇輝が情報屋の店に入ると、待ち構えていたようなタイミングで壁が扉のように開き、その奥に上り梯子が現れた。

「登って来い。そんな所じゃオチオチ話もしてられねえ」

 階上から聞こえてきた男の声に従って梯子を登ると、一階の暗さが信じられないほどに日が差し込んだ部屋で闇蜘蛛が煙草の煙を燻らさていた。

「三日ぶり、つってもこっちはお前に縁のある奴が訪ねて来るわ、血眼になった騎士の目を掻い潜るわで一日と経った気がしないがな。ま、商売上仕方がねえか」

 自嘲気味な口調で肩を竦めて、闇蜘蛛は傍の机上に結構な分厚さがある羊皮紙の束を放った。

「この三日で調べたご依頼の情報だ。その資料に沿って説明してやるから眼を通しな」

「これだけの量を三日で?」

「そいつが仕事だからな。無駄話はいいから始めるぞ。まずは城ないしは王都への物資流入の不自然さについてだが、結論から言えば一度だけ、それもお前がここに来るほんの少し前に軍備強化を名目に騎士団が不自然なほど大量の仕入れをした」

「アティはその時に荷に紛れて連れ込まれた可能性が高いな。けど、荷が多かったなら途中で降ろした後に別の場所に連れて行かれた可能性もあるけど」

「まあ慌てるな。その探し人に関してだが、搬入後に運び込まれた物資の数が合わないってことで城内はちょっとした騒ぎになったらしい。酒樽一つ分の狂いだったらしいが、人間一人なら余裕で隠せるとは思わないか?」

 闇蜘蛛の言葉を受けて勇輝の中にあった迷いは確信に転じ、勇輝は窓の外に眺めることができる王城の威容を仰いだ。

「そうか。樽に入れて王城まで運び込まれたっていうことは間違いないのか。でも、人を探してるなんて言った覚えはないけど?」

「別口の顧客が人探しの依頼をしていてな。一人はお前、もう一人は行方不明の第二王女と来た。お前とアルダレスが知り合いなら目的は同じだと推察するのは難しくない。奴さん、東南街区のウェザネっていう宿屋でお前のことを待ってるぜ?」

「……団長もここに来てるのか。いや、それより先に続きを」

 闇蜘蛛の答えに驚いた勇輝だったが詳しい依頼内容の説明が先だと首を振って男に先を促した。

「妥当な切り替えだな。えーと何だったか、そう王城への進入路だったな。そいつも一応は残ってる。まあ十年近く使われていない抜け道だがな」

「十年?」

 最近になってよく聞く時間単位に勇輝が声をあげると、闇蜘蛛は頷いて話を続けた。

「ガーランドの爺さんから全てを教えてやってくれと依頼されているからな。最初から話すぞ。事の起こりは十二年前、荒廃戦争と呼ばれ今も続いている国家間戦争の最盛期のことだ」

 荒廃戦争中に起こった事件、事故、戦闘などを年月日でまとめた資料を叩きながら闇蜘蛛は語り出した。

「当時、この国が直接的な戦闘を行っていたのはディアド大陸のフォルティス共和国だ。一進一退の戦況の中、王都近くまで進行してきた共和国を迎え撃つために国内外に勇名を馳せた国王陛下が出陣し、負傷した。剣によって斬りつけられたその傷自体は大したこともなかったが、それ以降国王陛下は民衆の前に現れなくなった。その原因がこれだ」

 闇蜘蛛が促すままに資料を繰ると、剣を模ったような模様がそこには記されていた。

「魔族の呪い。当時、巷に流れていた魔族が共和国を支配しているという噂を証明するように彼の国との戦闘で国王陛下は実際に呪いを受けた。傷を受けた当初は身体が衰弱していくというものだったらしいが、ある日を境に身体が回復すると時折人が変わったように攻撃的になるようになった」

 呪いの性質は衰弱によって弱らせた精神を作り変えるものだったのではないかと闇蜘蛛は己の推測を語る。

「共和国が魔族に支配されているか。その実態なんざ誰もしりゃしないが、現実として魔族以外に呪いを扱う種族はいないことを考えると、そういうことだったんだろうな。ともかく、クレスエント王は呪いを受け、解呪が叶わぬまま、二年の時が経過した」

 そしてこの国の運命を決定付けた聖霊歴6990年。

「それまで気力で呪いに抗っていた陛下に限界が訪れたのはその年のフェブレインの月。魔族の名を示す月に起きた事件が決定打となったんだ」

「事件?」

 お前が今ここにいる直接の原因がそれだと断言して、闇蜘蛛は自らの肺を煙で満たした。

「ミリア王妃の暗殺。それが切欠となって陛下は人間としての感情を失ったように無気力になり、いつの間にか傍に控えていた第一宰相ブランタージュの進言のまま、戦争の質を侵略戦争に変えていった」

「それは……フォルティス共和国が暗殺の首謀者だったと?」

「いいや」

 勇輝の言葉に首を振って、闇蜘蛛は紫煙を吐き出した。

「暗殺とは言ったが、表向きには真相は未だ不明。ただ、ミリア王妃が亡くなる前に信頼のおける忠臣達に三人の子供を託し、逃亡させたことを考えると、王妃はそうなることに気が付いていたということになる。そうなれば答えは一つだ」

 内部の人間による謀殺。そして闇蜘蛛が集めた情報は忽然と現れた一人の男を首謀者だと語っている。

「第一宰相ブランタージュ……」

「そう、記録上は生まれた時から王都で暮らし、ツァイゼンス教国の神学舎を出た後に貴族院議会に入り、五年を経て第一宰相へと上り詰めた青年というプロフィールだが、調べて見ればその経歴は全くの別人のものだった」

 当時の王城に勤務していた侍従は殆どが謎の死を遂げているが、僅かに生き残った人間の話によれば、ブランタージュがその青年と入れ替わったのは国王の精神が不安定になった十一年前であり、影では王家暗殺を計画していると疑われるほどに王族を恨んでいる素振りを見せていたという。

「陛下の変調が酷くなった時期とブランタージュが現れた時期が一致するということは、あるいは奴こそが呪いの主だったのかもしれないな。そして陛下や王妃もそれに気づいて対策を講じたんだろう」

 煙と共に自らの所感を吐き出して、闇蜘蛛は国王夫妻が有事の際にどう立ち回るのかをあらかじめ決めていたのだろうと話した。

「これは今回の依頼を受けてから調査してわかったことだが、情緒不安定になっていた陛下と王妃はその呪いを逆手に取って第二王女と第一王子が王都を脱出させるために敢えて狂気の王とそれを諌める妻という演技をしていた節がある」

 クレスエント王が凶暴さを増し、実の子供にまで危害が及ぶことを危惧した王妃が信頼のおける家臣たちに子供を預け、魔の手が及ばない安全な場所に避難させる。

 それが王国の将来を担う王子と王女たちを確実に逃がすために先手を打つための筋書きだったのだろうと闇蜘蛛は言った。

「大仰な茶番だが、王家って言うのはそういう名目がないと動けないもんなのさ。実際、王家のしきたりなんてものに縛られず王国に伝わる聖剣を第一王女に譲っていれば、ここまで事態が悪化することもなかったはずなんだがな」

「王家に伝わる、聖剣? だけど、アストネリアは……」

 闇蜘蛛が口にした言葉に勇輝は以前アーティアから教わったクレスエント王国建国に由来する白き聖剣を連想した。

 勇輝の魂と同化している聖剣は、しかし七千年の間、サーベラスの神竜の聖域に安置されていたはずだ。

「おいおい、建国王の剣とはいえ、それはクレスエント王家と言うより勇者ラティス・マグナの聖剣だろ? 俺が言ってるのは彼の建国王が自身の血族の為に鍛えた破邪の剣のことさ」

 その銘は宝剣ヴァレンシュタイン。王国の中心たる都にして国を治める者の名を冠する剣。

「まあ建国以後、出自不明の赤子の孤児はみんなヴァレンシュタインを名乗ることが一般的だから、統治者の一族というよりは国を構成する要素の意味合いが強いんだろうが、まさにクレスエント王国の別名を持つ聖剣なのさ」

 建国王が最も愛する者を呪いで喪ったことを受け、悲劇を繰り返さぬように生み出された遍く呪いを断ち切る効力を持ったその剣は魔なる王を討つ剣としての聖剣とは異なる聖なる剣であり、歴代国王はその剣で呪いに苦しむ多くの民を救ってきたのだと男は言った。

「ともあれ、件の聖剣は誰にも継承されないまま、今となっては陛下の手からも離れて行方知れず。王国の状況が泥沼化して十年が過ぎた今、アルダレス=ファンディエナによって都から連れ出された第二王女が秘密裏に担ぎ込まれたってわけだな」

「アルダレス……団長が? そういえば、17歳で騎士団長だったていう噂は聞いたことがあるけど」

 闇蜘蛛の言葉を受けて、勇輝は以前にジュリオから聞いたアルダレスの過去にまつわる噂のことを思い出した。

「噂、ね……田舎町じゃ栄えある王国近衛騎士団長の名前も正確には伝わらないもんなのかね。アルダレス=ファンディエナは史上最年少で王国最高の騎士――近衛騎士を束ねる立場に身を置いた天才として王都じゃ有名だったんだが……ああ、いや独り言だ」

 十年前を懐かしむような口調で呟いた後、闇蜘蛛は仕切り直すように頭を振った。

「最後に王城への侵入経路だが、十年前にアルダレスが第二王女を連れ出した時の脱出路が残っている。そのまま罠がないという訳もないが、罠があることさえ判っていれば突破は可能なレベルだ。入り込むつもりなら奴さんと合流して行くといい。あと、俺もしばらくは国外に出るから次の仕事は帰って来てからになるぞ」

「わかりました。いろいろと調べてもらって、ありがとうございました」

 そう言うと、仕事は終わりだと言わんばかりに背を向けて喫煙具を咥える闇蜘蛛に一礼して勇輝は梯子を伝って一階へと降りた。

「国に出る前のサービスだ。お前が王都に来た時に一緒にいた相方、腕っ節を買われて王城の傭兵部隊を率いる隊長になったみたいだぜ。傭兵の集め方から見て、このままだと王国は全世界に大規模な戦争を吹っ掛けるだろうから身の振り方は考えておくんだな」

 天井から響いてきた言葉に勇輝は静かに頭を下げて、情報屋闇蜘蛛の店を出た。

――大規模戦争が始まる、か。間違いなくアティが攫われたことにも関わりがあるんだろうな。団長たちもきっとそれには気付いてるはずだよな。多分このままじゃ、アティを助け出しても事態は好転しないか。

 拠点として利用している廃墟へ向かいながら、勇輝は一人考える。

 王国の現状を聞くまでは、アーティアを助け出し、サーベラスで不穏な動きを見せる王国の先手を打っていれば、いずれ時間が解決してくれるかもしれないという淡い期待があった。

――だけど、それは悪手だ。この国の王様がまともに機能しない傀儡になっているなら、それだけじゃ何も解決しない。みんなで帰って、何の不安もなく暮らすためには……

「黒幕がいるなら、そいつを何とかしなくちゃならないよな。第一宰相ブランタージュか……」

 勇輝が知る人たちの言葉から良い印象を持たない魔族という種族。その可能性が高い男の名を呟く。

 きっと、戦うことになるのだろう。その時は今までに経験のない、国家そのものとの戦いになるはずだ。

 如何に規格外の力を持つラティス・マグナであろうと大軍を相手にして勝機があるとは思えない。

「でも――」

 それでも――

「約束したもんな。必ず、アティを連れて帰るって」

 今は第二の故郷と呼べるほど親しんだあの町に笑顔で帰る為に、勇輝は強く拳を握った。

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