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テイルズテイル ~Tale's Tale~  作者: 天雪キョウ
クレスエント王国編 ~誓いの騎士と十年の清算~
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幕間 《騒乱の予感》 3

 鈴の音に似た音が響いている。

 目が覚めた瞬間――厳密にいえば目覚めてはいないのだろうが――瞳に映りこんだ馴染みのない景色はしかし、初めて見る景色ではなかった。

「ここは……」

 呟いた自分の言葉すら反響して聞こえる夢幻の世界。遠くに見える無数の星の軌跡たちは以前見た時よりもその数を増やしているように感じた。

「ここにいるってことは……現実の方の俺は結構ヤバい状態なんだっけか……」

 一月ほど前、冷雨に打たれて倒れた時に〝彼女〟に言われたことを思い出して、勇輝は頬を掻いた。

 確か以前は精神が限界を超えていると診断されたはずだが、今回も同じ症状を言い渡されるのだろうかと自覚症状のないダメージについて思考を巡らせていると、その思考を読んだように〝彼女〟は突然現れた。

「半分正解だけど、半分ハズレかな。今回はむしろただの水先案内人。あなたがここに来たのは条件をクリアしたから……大怪我してるのは本当なんだけど」

 現れたのはこの世界を映したような七色の光を反射させる銀髪に澄み渡る青空の瞳を持った少女だ。その瞳には勇輝に対する無条件の慈愛ともいうべき感情が垣間見える。

「やあ。一ヶ月ぶりだけど、こんなすぐに会うとは思ってなかったよ……久しぶり」

 銀髪の少女は困ったようには微笑んで、いつかのように何もない中空に腰かけた。

「久しぶりじゃなくて、私は初めましてだよ。前にあなたと話した私は、私よりも年上の私。見ただけで年齢が違うってわかるでしょ?」

 言われてみれば、以前話した〝彼女〟は20代の中頃だったように思う。それに比べて、目の前の少女は勇輝の知る〝あの子〟に限りなく近い年齢に見えた。

「どういうことだ? 別人って言っても……君も〝アーティア〟なんだろ?」

「別人なんて言ってないよ。まあ、同一人物でもないけど……あなたにとっての〝アーティア〟と私は違う存在だっていうのは直感でわかってるでしょ? 私たちの関係はそういうものよ」

 勇輝の言葉に頷いて答えた少女はからかうように片目を閉じて、勇輝の鼻先を指で触れる。そうして機嫌を良くした彼女は音もなく地に降り立って、反響する音が波紋のように視覚化する天空を見上げた。

「まあ、私たちのことはそのうちわかる時がくるわ。全ての条件が揃った時に、全て」

「条件って……そういえばさっき条件をクリアしたからここに来れたって言っていたけど、もしかしてそれって聖奏術のことか?」

 最も近い記憶を辿ってみれば、勇輝がクリアしたという条件は聖奏術の使用以外には思い当たらない。しかし、少女は首を振って否定した。

「少し違うかな。条件って言い方をしたけど、実際はマイルストーンだから。朝凪勇輝とアーティア=ヴァレンシュタイン=クレスエントが必ず辿る運命の道標。そして、何度も辿ってきた変わることのない軌跡。まだ分岐点ではないけど、勇輝が決して迷わないように私たちはここにいるの」

「俺が迷わないように?」

 繰り返す勇輝の言葉に彼女は静かに目を閉じた。

「いつだって、あなたは道に迷ってきた。それは私も、みんなだって同じだけど、それでもあなたは……この世界の〝朝凪勇輝(あなた)〟だけは手遅れになってはいけないから、少しだけお手伝い」

 悪戯っぽくはにかみ、彼女は勇輝に問いかける。

「今、勇輝が知るべきことは、望んでいるものは何?」

「俺の望み……俺はアティのこと――」

 相変わらず、勇輝の心は見抜いていると言いたげな目で首を傾げた少女に頷いて、勇輝は口を開いた。

「俺はアティを助けたい。助け出さなくちゃならない。なあ、アティは……俺にとってのアーティア=ヴァレンシュタインはどこに連れて行かれたんだ?」

「――父親のところ、よ。そしてそこは今、この国の十年という歴史が集約された魔都へと堕ちかかっている」

 勇輝の問いに彼女は少しだけ沈んだ声で答えた。

「あなたのアティが連れて行かれた先はクレスエント王国の王都ヴァレンシュタイン。いつも、〝アーティア〟はそこで大切な戦いをするの。〝朝凪勇輝〟と対等の地平に立つための最初の戦いを」

「戦い……? いや、それより俺と対等って――」

 勇輝の言葉は彼女の指によって抑えられた唇からは続かない。慈愛の感情をその瞳に携えて勇輝を見る彼女はゆっくりと首を振った。

「今のは私の独り言だから。その質問には答えられないわ。ただ――信じてあげて。あなただけの〝アーティア(わたし)〟を」

 彼女の言葉を鍵としたように、勇輝の視界は白く霞み始めた。

「なん、だ? 目が――」

「時間みたい。また会いましょう、〝私〟だけの勇者様……」

「ア、ティ……」

 その言葉が母の唄う子守歌のように胸に染み込んで、勇輝の意識は現実へと帰って行った。


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