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テイルズテイル ~Tale's Tale~  作者: 天雪キョウ
クレスエント王国編 ~誓いの騎士と十年の清算~
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第一章《加速する物語(セカイ)》 1

 大理石で作られたその一室に、固く乾いた靴音が響いた。

「ようやく到着か。些か怠慢が過ぎるのではないか?」

「これは失礼を。ですが、此度の遅刻に見合うだけの情報を入手致しましたので、御叱責は軽めにお願い致します」

 僅かな言葉に込められた非難の意図を軽く躱して、痩身の男は円卓の一席に着いた。

「情報ですか。それは本当に会談を遅滞させるに足る情報なのでしょうな?」

「無論。この報せ、私たちの計画が一息に達成されるほどの可能性を生む価値がありましょう」

「ほぅ……ならば、多少の遅刻は止むを得んな」

 僅かな燭台に灯された明りに照らされた薄暗いその部屋で交わされる言葉は、会話と呼ぶには幾分温かみに欠けていた。

 その部屋は会議室と呼ぶには狭く、しかし密談の席としては広い。そんな不明瞭な形の一室だった。必要以上に華美な装飾は存在せず、ただ部屋の大半を占める円卓と部屋を薄暗く照らす数本の燭台だけが、この一室の雰囲気を異質な物に変えている。

「よかろう。では、全員が揃ったところで今回の密議を始めるとしよう」

 部屋の入口から最も遠い、円卓の中でも上座に相応しい荘厳な椅子に腰かけた男が宣言すると、淀んでいた部屋の空気が肌を刺すほどに張りつめた。

「まずは王国騎士団の掌握状況から聞こうか」

 上座の男――場に集った四人にとっての長が視線を向けると、斜向かいに座した片眼鏡の男が直立する。

「現状の掌握状況は全体の八割といったところです。残る一部の近衛騎士と辺境に赴任している騎士並びに従騎士への働きかけは遅くとも一月後には」

「件の騎士団長はどうなった?」

「カイオス=レオンハザードからの返答は今のところありません。彼の妻子も依然行方がわからず、交渉のカードに欠いている現状です。しかし、明確な叛意も見られませんので目下の問題はないかと……報告は以上です」

 報告を終えて着席する男に頷き、長は報告を終えた男とは真逆の席に座った男へと視線を流した。

「ご苦労……して、次は計画の実動予定に関する議事であったが、貴様の情報とやらを聞こうか、アントニオ」

 全員の視線がアントニオと呼ばれた男に集中する。それらが持つ重圧を肩を竦めるだけで受け流すと、アントニオは口を開いた。

「今回の密議、予定されていた人数とは違うことは皆既にお気付きでしょう。ですが、その理由を知るものは私を除いていない。何故なら、欠席したままのサマリル卿は私の辞令によってある町へと出向いていたからです」

「前置きはいい。要点だけ話せ」

 芝居がかった口調で語るアントニオに痺れを切らしたのか、先程報告を行った男が横水を入れる。

「マキナ卿。物には順序というものがあるのですよ……まあ、いいですが。では、結果から申しましょう。とある町にて、私たちが探し求める〝彼女〟を発見しました」

 その言葉に、張りつめた場の空気が一層引き締まった。アントニオを除く全員の眼が鋭敏なものへと変わる。

「……なるほど。それは確かに、我々の計画が一息に完遂できるほどの情報だ」

「だが、それがわかっていて何故彼女を放置している? 貴様のことだ。何か策を弄したのだろう?」

 マキナと呼ばれた男は大いに頷いていたが、その隣――今まで全く口を開いていなかった最後の一人がアントニオを睨み付けた。

「ですから、初めに申し上げようとしたでしょう? 私は噂の域を出なかったこの情報を元にサマリル殿に助力を願い、彼の率いる部下たちに件の町へと潜入、彼女の拉致を命じたのです。私たち星団四冠の中では彼こそが適任でしたから」

「だが、彼女は貴様の掌中にはあるまい。仮に成功したというなら貴様は密議など放って王へと報告したであろう」

「ブランタージュ卿。わかっていて言うのは止めていただきたい……サマリル殿は失敗したのです。それも私――いえ、私たちの予想もしない形で」

 表情だけは沈めた様子でアントニオは懐から羊皮紙を取り出した。

「これはサマリル卿に随行したダン副師団長による報告書です。これによれば計画は終盤まで順調だったとありますが、その終盤で予想しえない動きがあったとあります」

「それは?」

 一同の注目を集めアントニオは一つ頷くと、自身でさえも半信半疑な報告を読み上げる。

「ラティス・マグナが現れ、サマリル卿以下実行部隊を撃退した、と」

 その言葉に、その場の全員が沈黙した。それぞれの表情には、困惑というよりも疑念といった方が相応しい色が見えている。

「それは確かなのか?」

「真偽は不明ですが、サマリル卿とダン殿、それに現地にて漆黒の魔女を加えた彼の一団を撃退した以上、一概に冗談であるとは言えないかと」

――茶番ですね。

 言葉を口にしながら、アントニオはその場の滑稽さを内心で嘲笑った。

 この密議の場はそれぞれが人間らしく振る舞っているだけの舞台でしかない。狼狽えるような芝居を見せたところで、その行為と同様に心が揺れている者などここにはいないのだ。

――これ以上は無駄な演出というものでしょう。

 その後の展開を予想したところで行きつくところは同じである。ならば、自分から動いてこの茶番を収拾してしまった方が有意義だろう。

「……審議がわからぬ以上、行動せぬわけにはいきませんが、彼女がその町に居る事もまた事実。であればこそ、次は私が直々に出向き、彼女を迎えに入れて参りましょう」

「そうか。ならば計画の修正はそれ以降と言うことだな……皆、聞いての通り今回の密議は以上だ。アントニオの活躍に期待する」

 アントニオの提案を予期していたように議長が低い声で告げると、全員は起立して彼に一礼する。

「ときにアントニオよ。これより貴様の目指す地は一体何という町なのだ?」

 気まぐれに投げかけられた議長の問いに、アントニオは口の端を吊り上げた。

「は――彼女の住む地、それはサーベラスという交易都市でございます」


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