第四章《白刃踊る歌劇》 3
勇輝がリーリア教会に辿り着いた時、そこには勇輝の聖剣よりも長大な剣を持った大柄の男と、弓に矢を番えたアーティアの姿があった。
距離を取りながら弓を射るアーティアの焦った雰囲気とは対照的に、男は矢を切り払いながら悠然と歩いて距離を詰めていく。
一目瞭然な彼女の危機に、勇輝は心の奥底が煮えるような気持ちを感じながら更なる加速をかけた。
「アーティア!」
露店街から走ってきた以上の、自分でも驚くほどの速度で大剣の男へと近付くと、勇輝は手の内に召喚した聖剣を一閃した。
「えっ?」
「む!?」
勇輝の存在に気付かなかった両名から驚きの声があがる。それに構わず、勇輝はアーティアの身体を抱いて男から距離を取った。
「勇輝、さん? どうして……町の人たちは?」
「アーティアが危ないって聞いて、走ってきた――町の方は自警団の皆が何とかしてくれてる。大丈夫、騒動は解決に向かってる」
困惑するアーティアに笑いかけると、事態を把握したアーティアの表情が明るくなる。それに頷いて勇輝は初対面ではない巨漢へと振り返る。
「来たか、朝凪勇輝」
「……やっぱりあなただったのか」
驚きは刹那の間だけ。半ば予想していたことが事実だったことに落胆しながら、勇輝は襲撃者の姿を確認した。
不意を衝いたというのに彼は斬撃を紙一重のところで躱していた。勇輝の剣が与えた被害は、彼の衣服の一部を裂いたに留まっている。
「まさか奇襲をかけたはずの俺が奇襲を受けるとは、滑稽なことだな」
勇輝の知る彼の声とは思えないほど低い声で呟きながら、ダルツィーネは静謐な瞳で勇輝を見た。
「ダル、ツィーネさん……」
思わず名を呟いた勇輝に対して、ダルツィーネはゆっくりと首を振った。
「俺の本当の名前はダルツィーネではない」
静かに、それでいて力強く発せられた声に勇輝は眼前の男の顔を見る。ダルツィーネと名乗っていた男は大剣を地に突き立てると、柄に手を置いて口を開いた。
「――サマリル。それが俺の名前だ」
自身の真名を口にしたサマリルは深く息を吐くと、突き立つ大剣を引き抜いて構えた。
「来るがいい、ラティス・マグナ。我ら〝天の星団〟と敵対するという以上、貴様には早々に消えてもらう」
大剣を腰の前に両手で構えたサマリルから、圧倒的な威圧感が襲い来る。勇輝は反射的に聖剣を構え、目の前に立つ男の名を口にした。
「……サマリル。どうしてこんなことを……あなたは人のことを想える人間のはずだって思っていたのに!」
他愛もない話を交わしあい、勇輝たちの嘘を真に受けてロザリオを無償でくれた目の前の男が心からの悪人であるはずがない。半ば確信に近いものを感じながら勇輝は叫んだ。
「人の感情というものはそれがどのような事象であろうと自分の良いように解釈するものだ。俺が名を偽ってこの町にやって来たこと、こうして貴様たちに剣を向けていること。この事実以上に現実を雄弁に語るものなどない」
「答えになってない!」
「言葉で飾ることに意味はないと言っている。俺は自分に与えられた役割を果たしているだけだ。貴様の疑問など何の意味も持たん」
そう断じると、サマリルから感じるプレッシャーが更に増した。背中に嫌な汗が滲むのを感じながら、勇輝は再び剣を構え直した。
――強い。俺は、この人に勝てるのか?
サマリルの実力に、剣を持つ手が震える。
剣を交える前からわかってしまう。この男は、勇輝が先程倒した五人とは次元が違う。
「勇輝さん、私も戦います。だから、一人で無理をしないでください」
背後からアーティアの固い声が聞こえる。平和な日本で生まれ育った勇輝より、彼女の方が正確にサマリルの実力を察しているに違いない。
「……うん。一緒に戦おう、アーティア。行くぞ!」
二人がかりでも勝機が見えない相手だが、自分一人では時間稼ぎもままならないことは勇輝自身理解している。
アーティアの提案に頷き返し、勇輝は声をあげながら地を蹴った。




