第四章《白刃踊る歌劇》 2
鋭い金属音が連続して大通りに鳴り響く。
アルダレスの斧槍によって繰り出される疾風怒涛と形容すべき手数の斬撃に対し、フリミングが選んだ戦術は短剣を用いて要所を防ぎながら反撃の機会を窺うという、その狂った言動からは予想できないほど理性的なものだった。
しかし、どれだけ隙を探ろうとアルダレスには付け入るべき隙など存在しない。
高速で繰り出される連撃は単調とは程遠く、随所にフェイントを入れるという妙技を組み込みながらも、己の隙となるものはその一切を排斥した動きを実現する技術。
そしてもう一つ、それ以上に驚嘆すべきものがアルダレスの隙を完全に殺している。
「ッ! 化けモンかよ、アンタ! 一体いつまでその物騒なモンを振り回してンダ!」
フリミングは額に汗を滲ませながら狼狽する。アルダレスが攻撃を開始して既に十分。その間、アルダレスは一度の休息も――息継ぎすらも行わずに攻撃を続けていた。
無尽蔵というべき体力。それがアルダレスの隙を殺している最大の要因だった。
如何に〝後の先を取る〟ことが得意な使い手であっても、〝後〟の機会が来なければその実力を活かすことはできない。
アルダレスの戦い方は、攻撃は最大の防御であるという格言を見事に顕したものであった。
「どうした、息が上がってきてるぞ外道。さっきまでの威勢の良さはどこに行った?」
攻撃の手を緩めることなく挑発を行うと、フリミングの顔が一層歪んだ。
それが激昂によって相手に隙を作るという考えの下に行われている行為なのだとすれば、やはりアルダレスはあらゆる面でフリミングの上をいっているのだろう。
「クソがァッ! 馬鹿にしやがッテ! こうなりゃ時間稼ぎなンテどうでもいい!テメエはブっ殺ス!」
挑発を受けたフリミングの顔が紅潮する。同時に彼は斧槍の連撃を防ぐという戦法を捨て、バックステップでアルダレスとの距離を取った。
「何……?」
フリミングの言葉にアルダレスの攻撃の手が止まる。今この男は何と言った?
「時間稼ぎ、だと……お前たちの目的はサーベラスの商品にあったんじゃないのか!?」
思わず声を荒げたアルダレスを見て、フリミングは愉快そうに奇怪な笑い声をあげる。その様は、まるで悪魔が善良な司祭を騙して悦に浸る姿を連想させた。
「商品ダァ? 俺タチがこんなチンケなものが欲しくてこんなことをしたっテ? 馬鹿かアンタ。俺タチの目的は、お前がこの町に持ち込ンだお宝だ。今頃は俺より腕の立つ仲間ガ拉致っテル頃じゃないカ?」
フリミングの馬鹿にしきった言葉に、アルダレスは心臓を鷲掴みにされたような感覚を味わった。
「宝、だと!? まさか、お前らは野盗なんかじゃなく……っ!」
アルダレスの驚愕に歪んだ顔が可笑しいのか、ケラケラと笑うフリミングは手にしていた短剣を放り棄て、独特な雰囲気を纏った拳法の構えをとった。
「そういうことダ。こちとら仕事でやって――ギッ!」
鈴を鳴らしたような、涼しげな音と共に大気を翔る光の杭が二人の死角から飛来し、注意をアルダレスだけに向けていたフリミングは完全に不意を衝かれる形で右肩を響光の弾に撃ち抜かれた。
「――どうやら、団長はお前なんかの相手をしている場合じゃなくなったみたいだな」
声の方へと振り向けば、勇輝と共に今は路地の端に転がっている九人の賊を無力化したジュリオがフリミングへと銃口を向けていた。
「ジュリオ、お前……いや、勇輝はどうした?」
ジュリオはアルダレスの問いに対して銃口を微塵も浮かさぬままに肩を竦めると、ちらりと教会へと続く道に視線を向けた。
アルダレスも、フリミングも、釣られるように視線を向けると、遥か遠くに背を向けて駆けていく勇輝の姿があった。
「アティが危ないって聞いた瞬間に走っていきました。もうこっちのことなんて気にしてもいないんじゃないかと」
呆れたように笑いながらジュリオは再びアルダレスへと視線を投じた。
「団長も行ってあげてください。こいつよりも強い奴がいるって言うのなら、勇輝とアティだけだと危ないかもしれない。それに引き替え、この程度の奴、僕でも何とかできますよ」
ジュリオの提案に刹那の間逡巡するが、結論は即座に導き出された。今の勇輝の実力でフリミング以上の使い手と戦うことは無謀を意味する。
「……済まない。ジュリオ、ここを頼む」
「了解! 自警団第二位の実力を見せてやりますよ」
軽く笑うジュリオに笑みで返し、アルダレスは斧槍の柄でフリミングを一度殴打した。突然の打撃にフリミングの身体が半歩よろける。
「ガッ! テメェ!」
「俺は相手をしてやれなくなったからな。お前はうちの――期待の若手にやられてくれ」
そう言い残してアルダレスは勇輝の後を追って駆け出した。
「待ちやがレッ!」
「おっと!」
なおもアルダレスに追い縋ろうとしたフリミングに牽制の一弾を放ち、ジュリオは自らの敵を見据えた。
「お前の相手は僕だ、三下。いい加減、僕も我慢の限界なんだからな」
闘争の舞台は早くも第二幕へと突入する。




