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テイルズテイル ~Tale's Tale~  作者: 天雪キョウ
サーベラス編 ~The Beginning of Farlesia~
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第三章《薫り立つ暗雲》 5

 日が落ちるには少し早く、それでも夕方と呼ぶには少し遅い時間。勇輝は聖剣を手にサーベラスの裏山中腹にいた。

「――つまり、この辺りも危険かもしれないということだね?」

「ああ、団長の推測通りに大したことのない盗賊の集団なら被害も少なくて済むだろうけど、何か嫌な予感がするんだ」 

 剣を打ち合せながら幾分かの余裕を持ってマティアスと言葉を交わす。アルダレスを除けばサーベラス一の実力といわれるだけはあり、参考になる動きが多く勉強になる。

「でも、参ったな。僕は狩りで生計を立てている身だから、迂闊にここを離れるわけにもいかないんだよ。滅多にいないんだけど、仕掛けた罠に誤って掛かる人がいるかもしれない」

 こちらの剣を弾いて懐へと潜り込むと、マティアスは右腕を捻ってこちらを投げようと試みる。勇輝もまたその威力を抑えるために流れに逆らわずに自分から身を投げた。

「痛て……でも、町の裏山は警備も薄くなるから厳重な警戒が必要だって団長が言ってたけど?」

 腕を引かれて立ち上がりながら言うと、マティアスは微笑しながら頷いた。

「うん。だから、僕の方にも警備手伝いの要請が来ると思うんだ。その時は、勇輝やジュリオにも手伝ってもらうよ」

「もちろん。その時に足を引っ張らないように、こうして特訓に付き合ってもらっているんだからな」

 的確な助言をくれる友人との特訓は実入りが大きい。アルダレスとの訓練とはまた違う角度での成長ができていると勇輝は実感していた。

「そうだね。勇輝はきっと、この先ももっと強くなると思うよ。……"あの技" だってそのうち使えるようになるだろうね。ひとまずは、攻撃をする時にも相手の挙動に注意すると、強くなれるかな」

 冗談めかして笑うマティアスに笑顔で頷いて、剣を振る。真剣での特訓は危険を伴うが、実戦の感覚を養うのには向いていた。

 その後も、剣への集中を怠ることなく雑談を交わしながら斬り結ぶと、やがて日が完全に落ちていることに気付いた。

「今日は、このくらいにしておこうか。あんまり遅いとアーティアさんも心配するんじゃないかな?」

「ん、そうだな。今日もありがとう、マティアス」

 剣を腰の鞘に戻すマティアスに習って聖剣を虚空へ還すと、勇輝はあることが気になった。アーティアへの呼称だ。

 ジュリオやエミリーのことは呼び捨てのマティアスがアーティアの事だけは愛称でも呼び捨てでもなく呼んでいる。何故だろうか?

「あのさ、マティアス。ひょっとして、マティアスとアーティアって付き合いが浅いのか?」

「え?」

 突然の質問に虚を衝かれた表情をしたマティアスだったが、質問の意味を理解したのか「ああ、そういうこと」と頷いた。

「確かに、ジュリオやエミリーとは小さい頃からの幼なじみでよく遊んでいたけど、アーティアさんがアルダレスさんたちと一緒に町に来たのは、僕と母さんがこの山に移ってからだったんだよ。それ以来、あまり町には下りなかったから、確かに付き合いは浅いかな」

「そっか」

 亡くなったという母親のことを想っているのか、遠い目をして町を見下ろすマティアスの肩を叩くと、勇輝も郷愁の念に似た感情を覚え、マティアスとは逆に星が出始めた空を見上げる。

 この空の中に、自分のいた世界も存在しているのだろうか。

 どれだけの間そうしていただろうか。不意に星が流れたことで時間が流れていることに気付く。

「……っと、もう帰らないと。それじゃな、マティアス。また明日」

「うん。また明日。ラティス・マグナに関する資料は近い内に集めておくから」

「ああ、頼むよ!」

 手を振り、この数日の間に通い慣れた山道を下る。そのまま十分ほど歩いただろうか、そこで見知らぬ女性と遭遇した。

「あら? こんな所で人に出会うなんて珍しい。あなた、サーベラスの人?」

「え? あ、はい。一応」

 女性に頷いて返すと勇輝は言いしれない違和を覚えた。

――何だ? この空気、この人から? いや、違うか。

 感情を伴わない視線とでもいうのだろうか、何者かに観察されているような不快感を生じさせる空気が周囲を取り巻いている。目の前の女性の反応からすれば、自分の気の所為であるとも思えるのだが。

「それなら、ちょうど良いわ。この山に住んでいる人に用があるのだけれど、この道で間違っていないかしら?」

「……あ、はい。このまま十分も歩けば着きますよ。ただ、暗くなってきましたから、明日にした方がいいと思いますけど」

 警戒しながらも質問に答えると、女性はにこりと笑って一礼した。

「ありがとう。でも大丈夫。大して時間のかかる用事ではないから」

 もう一度頭を下げて道を登って行く女性を見送り、勇輝は首を傾げた。

「何だったんだ? それに、この空気は……」

 女性が去ってからも暫く周囲に漂っていた空気を不審に思いながら、勇輝は女性とは真逆の方向へと歩き出した。

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