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怪談屋  作者: 伊藤修平
雨師の遣い
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4

 この頃、熱帯低気圧の仕業(しわざ)か、ほんの少し、気持ち程度に体を傾かせるような風が吹く。

 自分のように長髪であると、風に靡(なび)く髪の毛が顔にかかってきて鬱陶しく思える時がある。この先、更に蒸し暑くなるのだから短く切ろうかな、なんて考えたりもする。


「奏(かなで)」と、背後から声をかけられる。

 振り返ると、友達の美(み)咲(さき)が手を肩に乗せて人差し指を立てていた。それが振り返った表紙に私の頬に刺さる。昔懐かしの、古典的なイタズラだ。


「やーい、引っかかった」

 美咲はニヤリと笑ってそう言った。昔っからずっとそうだ。こういう性格をしている。

「この歳になってまでやめてよ。と言うか、ネイルしてやんないで。刺さって痛いんだから」

「ごめんごめん」

 美咲は軽く謝ってから口を開いた。

「で、最近どうなの?」

「最近どうなのってのはどういう」

「だからさぁ。オカ研の彼とはどうなのって」

 あぁ、そういう。あの朝(あさ)凪(なぎ)大(だい)輝(き)のことを言っているのだろう。オカ研は現在私と彼の二人しかいない。それを彼女は付き合っているとか、恋仲だとか、そういう風に勘違いしているのだ。

「恋愛」と言うフィルターを通さなければものを見れないようなタイプの人種である。精神年齢は子供なのにそう言うところはませている。

 ……どちらかと言えば、精神年齢が子供だかこそだろうか。人の色恋に関与しようとするのは、未熟な人間の性の様に思える。


「何回も言ってるけど、そういうんじゃないってば」

「またまた〜じゃなきゃどうしてオカ研なんかにいんのさ」

「オカルトなんて全部嘘っぱちだって教えてやる為だよ。まぁ、実際にやってることと言えばホラー映画を見たり、昔の夜中にやってたような、UMA捜索番組のDVDを見たりだけどね。あいつも、本当にそういうのがあるとは思ってないんじゃないかな」

「矛盾してない?本当にあるとは思ってない相手に嘘っぱちだって教えるの?」

「……いや、矛盾してるのはあいつだよ。なんて言うか、捨てきれてないんだよ。そういう可能性を。実在していて欲しいと思っているような、そんな感じ」


 あいつは……朝凪大輝は、俯(ふ)瞰(かん)的にオカルトを分析してるくせして、そう言うのが実在していて欲しい、自分の「こんなの全部作り物だ」という考えを実物で否定して欲しいと、そう考えてるように思える。捨てきれていないんだ。浪漫と言うやつを。ありもしない虚像に囚われ続けている。無意味な事を、ずっと続けている。


 きっと、それが気に食わないんだろうな。私は。意味の無いことを、自己矛盾を孕みながら続けるあいつを見ていると、なんだか無性に腹が立つような気がする。


 大概私も子供だな。


 恋愛に限らず、他人を自分の思い通りにどうこうしたいというのは、弁(わきま)えのない未熟な人間のすることだ。

 他人が自分の思い通りでないと、不安に思えるのだろう。


 ……そうか。

 それがあいつの言っていた、「ある種の想像力の無さが産む恐怖」か。


「奏って、サバサバしてそうで変なところ頑固だよね」

 美咲が微笑みながらそう言う。


「でさぁ、ちょっと面白い話持ってきたんだよね」

 美咲が続ける。


「知ってる?この大学の都市伝説」

「都市伝説?小学校とかにあった、七不思議みたいなもののこと?」

「まぁ多分。とは言っても七から"し"が欠けて一不思議だけど。それじゃ不"思"議やなくて不義やないかい!なんて」

 美咲は時折反応に困ることを言う。今のは多分、七の字の2角目をひらがなの"し"に見立てて言ったのだろう……と思う。本人はそれをチャーミングポイントなんて宣うが、はっきり言ってコミュニケーション上の欠点だと思う。

「で、その一不思議ってどんなの? と言うか、なんで私に?」

「決まってんじゃ〜ん。オカ研の二人に本物かどうか調べて欲しいんだよ。でね、その一不思議ってのが【開かずの部屋】。押しても引いてもビクともしないんだってさ。そしてここにその部屋のありかを示す地図がありま〜す」

 そう言って、美咲は4つ折りにされたA4サイズの紙を渡してきた。既に場所の分かっている部屋というのは何というか、不思議でもなんでもないと思う。そもそも開かないなら大学側に任せるべき案件では?


「じゃ、よろしく」と言って、美咲は去っていった。



 ……やるとは言ってないんだけどな。


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