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この頃、熱帯低気圧の仕業か、ほんの少し、気持ち程度に体を傾かせるような風が吹く。
自分のように長髪であると、風に靡く髪の毛が顔にかかってきて鬱陶しく思える時がある。この先、更に蒸し暑くなるのだから短く切ろうかな、なんて考えたりもする。
「奏」と、背後から声をかけられる。
振り返ると、友達の美咲が手を肩に乗せて人差し指を立てていた。それが振り返った表紙に私の頬に刺さる。昔懐かしの、古典的なイタズラだ。
「やーい、引っかかった」
美咲はニヤリと笑ってそう言った。昔っからずっとそうだ。こういう性格をしている。
「この歳になってまでやめてよ。と言うか、ネイルしてやんないで。刺さって痛いんだから」
「ごめんごめん」
美咲は軽く謝ってから口を開いた。
「で、最近どうなの?」
「最近どうなのってのはどういう」
「だからさぁ。オカ研の彼とはどうなのって」
あぁ、そういう。あの朝凪大輝のことを言っているのだろう。オカ研は現在私と彼の二人しかいない。それを彼女は付き合っているとか、恋仲だとか、そういう風に勘違いしているのだ。
「恋愛」と言うフィルターを通さなければものを見れないようなタイプの人種である。精神年齢は子供なのにそう言うところはませている。
……どちらかと言えば、精神年齢が子供だかこそだろうか。人の色恋に関与しようとするのは、未熟な人間の性の様に思える。
「何回も言ってるけど、そういうんじゃないってば」
「またまた〜じゃなきゃどうしてオカ研なんかにいんのさ」
「オカルトなんて全部嘘っぱちだって教えてやる為だよ。まぁ、実際にやってることと言えばホラー映画を見たり、昔の夜中にやってたような、UMA捜索番組のDVDを見たりだけどね。あいつも、本当にそういうのがあるとは思ってないんじゃないかな」
「矛盾してない?本当にあるとは思ってない相手に嘘っぱちだって教えるの?」
「……いや、矛盾してるのはあいつだよ。なんて言うか、捨てきれてないんだよ。そういう可能性を。実在していて欲しいと思っているような、そんな感じ」
あいつは……朝凪大輝は、俯瞰的にオカルトを分析してるくせして、そう言うのが実在していて欲しい、自分の「こんなの全部作り物だ」という考えを実物で否定して欲しいと、そう考えてるように思える。捨てきれていないんだ。浪漫と言うやつを。ありもしない虚像に囚われ続けている。無意味な事を、ずっと続けている。
きっと、それが気に食わないんだろうな。私は。意味の無いことを、自己矛盾を孕みながら続けるあいつを見ていると、なんだか無性に腹が立つような気がする。
大概私も子供だな。
恋愛に限らず、他人を自分の思い通りにどうこうしたいというのは、弁えのない未熟な人間のすることだ。
他人が自分の思い通りでないと、不安に思えるのだろう。
……そうか。
それがあいつの言っていた、「ある種の想像力の無さが産む恐怖」か。
「奏って、サバサバしてそうで変なところ頑固だよね」
美咲が微笑みながらそう言う。
「でさぁ、ちょっと面白い話持ってきたんだよね」
美咲が続ける。
「知ってる?この大学の都市伝説」
「都市伝説?小学校とかにあった、七不思議みたいなもののこと?」
「まぁ多分。とは言っても七から"し"が欠けて一不思議だけど。それじゃ不"思"議やなくて不義やないかい!なんて」
美咲は時折反応に困ることを言う。今のは多分、七の字の2角目をひらがなの"し"に見立てて言ったのだろう……と思う。本人はそれをチャーミングポイントなんて宣うが、はっきり言ってコミュニケーション上の欠点だと思う。
「で、その一不思議ってどんなの? と言うか、なんで私に?」
「決まってんじゃ〜ん。オカ研の二人に本物かどうか調べて欲しいんだよ。でね、その一不思議ってのが【開かずの部屋】。押しても引いてもビクともしないんだってさ。そしてここにその部屋のありかを示す地図がありま〜す」
そう言って、美咲は4つ折りにされたA4サイズの紙を渡してきた。既に場所の分かっている部屋というのは何というか、不思議でもなんでもないと思う。そもそも開かないなら大学側に任せるべき案件では?
「じゃ、よろしく」と言って、美咲は去っていった。
……やるとは言ってないんだけどな。




