2
「怖い、とはなんだと思います?砂川さん」
大学のサークル棟の一室、「オカルト研究サークル」で彼、朝凪 大輝は私に聞いた。なんとも「それ」っぽい風体の男で、マッシュの髪型に丸眼鏡を掛けている。
「自分の身に危険が迫っていること」
私は何となくで答えた。実際、これといった主義主張を端から持っていたわけでは無いので、突然聞かれればこの程度が関の山だろう。
彼は少し降りてきた、薄汚れた眼鏡を直して答える。
「それではホラーと言うジャンルは成り立ちませんよ。常に観客を追いかけ回したり刃物をチラつかせたりする訳にはいきませんからね」
それだとあまりに局所的すぎるのです、と彼は言う。
「じゃあ、『分からないもの』とか?よく言うじゃん。理解できないものを人は恐れるって」
私がそう答えると
「それは逆に広すぎますね。だって、考えてみてくださいよ。極論、ヒエログリフで書かれた怖い話を貴女は怖がれますか?」
と行ってきた。「極論」を持ち出すならそんなもの、正解なんて無いじゃないかと思うが、こういう場合、聞く側に既に「答え」があって、要はそれ以外の回答を否定出来ればそんなこと些事なのだろうと思う。
「じゃあ何さ」
と、私は不機嫌そうに面倒くさそうに聞いた。
「怖い、とは『想像から少しズレていること』ですよ」
と、彼は答える。そしてこう続けた。
「例えば、道を歩いていると、突然一人が包丁を取り出したとしましょう。これを怖い、と思うのは『自分の身に危険が迫っているから』でも『理屈が分からないから』でも無いんですよ。本来、普通に誰もが行う【道を歩いて移動する】という行為を、人々は自然に無意識的に、歩行中の周りの人間に当てはめながら生きているのです。それを途端に裏切られるから、恐ろしい」
「大きい音を出して怖がらせるとか怪物が突然出てきて怖がらせるとか、そういう類のジャンプスケアはどうなのさ」
と私は反論した。
「それについても同じですよ。【数秒後も静かだ】という自分の想定を裏切られるから、【数秒後に怪物は出てこない】と言う自分の無意識を裏切られるから、恐ろしいのです。現に、そう言ったジャンプスケアは出てくるタイミングを知っていれば全く恐ろしくない。初見殺しなのです」
と彼は言う。
「怖い、とはそう言った身勝手な想像の押し付けから生まれるのです」
恐怖とは、ある種の想像力不足が産むのですと、彼は言ってこの話を締めくくった。




