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利用規約に数え役満で抵触する可能性があるということで15話は死にました。
すみません。
無くても理解できるようにはなってるはずです。
国木田は聞かれてもいない過去の話を、悲劇の主人公ぶった反吐の出る話を語り終えた。
何を言っているんだ。こいつは。
さっきから少年みたいに目玉を輝かせながら、つらつらと気色の悪い事ばかり言いやがって。
心の弱った女子中学生と関係を持って妊娠をさせて。揉めてその子が死んだから生き返らせようと思うだと?
気でも触れているんじゃないのか。到底正気とは思えない。
何を悲劇の主人公ぶっているんだ。反吐が出る。
何が未成年飲酒は感心しないだ。お前はそれ以上に、人として、既に落ちきっているというのに。どの面下げて毎日この学校に通っていた。どの面下げて教師の振りしてた。どの面下げて、私達生徒を見ていた。
「どうする」
怪談屋が聞いてくる。
「は?何がですか?」
本当に、言葉の意図が読み取れなかった。どうするもこうするもないだろう。この悪漢を。
「お前の依頼は二つだったろう。一つは国木田を見つけてここから助け出すこと。もう一つは嘘をつけるようにすること。こっちは厳密には決めてなかったが、『嘘の怪談が発動する条件』を知って避ける方法もある。抑、もう三度目の嘘の実現があった以上、話を聞く限り「嘘の怪談が実現する」ことはもう無いだろうしな」
怪談屋は平然と続ける。
「つまり、お前の依頼の後者は既に解決している。あとは前者。この男を連れ出すことだ」
どうしてこうも、大人というものは醜く浅ましいのだろうか。さっきの話を聞いて、何も思わなかったのか?何も感じなかったのか?
私はさっきから臍の奥が煮えたぎっているというのに、どうして……。
眉間の辺りがしわくちゃになっていくのを感じる。
「言わないと……分かりませんか?」
怒りからか、声が震えていた。きっとすごい形相をしていたのだろう。虎さんが少し、驚いた顔をしていた。
「壊すに決まってるでしょう。あの桜」
激情を必死に抑えるように、粛々と、そう言った。
「いいのか?高くつくぞ。その依頼」
怪談屋は言う。どこ迄現金なやつなんだ。けど、構わない。幾らになろうが、こんな奴の奸計を果たさせる訳にはいかない。
「そんなことさせる訳ないでしょう。」
そう言って国木田はどこからか十徳ナイフを取り出した。目からは完全に、正気を読み取ることはできない。
底なしの暗闇だ。
未だへたり込んでいる私に向けて、ナイフを振り下ろそうとする。
刹那、国木田が吹き飛ぶ。
「そんなこと、させる訳無いだろ」
右の拳を前に突き出した虎さんがそう言った。どうやら国木田を殴り飛ばしたらしかった。
立てますか、と聞いて虎さんは私の手を取る。
国木田は……床で鼻や口から血を垂れ流し、伸びている。一生眠っておけ。
そう思い、廊下へ駆け出し、校庭へ向かった。
「怪談屋!憑代とやらを取り出せば、あの桜は……儀式は無効になるんだな!?」
柄にもなく、柄の悪い大声でそう言った。八つ当たりのようになってしまった。とは言っても、先程の態度を考えれば当たられたって仕方がないだろう。
「嗚呼。そうだ」
端的に怪談屋は答える。
三階から階段を駆け下り、一階に到達する。そのまま校庭の方へと向かっていく。
そう言えば
あの肉塊はどこに行った?
怪談屋が蹴り飛ばした後、あの教室で見ていない。足や床にいた赤子と一緒に消えたのか……?
校庭に出ると、直ぐにその大きな桜の木が目に入ってくる。大きく響く、拍動が鼓膜を揺らした。波打つ様に、それは鳴っている。
お腹に響く。吐きそうだ。
桜の木の根元には
あの肉塊があった。
少しずつ、その体積を増やしていた。
「千鶴が生まれるんだよ」
あの淫蕩教師はそう言っていた。
あれが、そうだと言うのだろうか。
どこかで泣き声が聞こえた。
大きくて悲痛な泣き声。
しかし、それは先刻聞いた赤子のそれとは違っていた。変声期をとっくのとうに過ぎた大人の泣き声。
声の方を振り返ると、国木田が這いつくばって降りてきていた。
鼻血と涎と涙に塗れながら、芋虫のように地を這いながら泣いている。
大きな大きな赤子の様であった。駄々を捏ねて癇癪を起こす子供の様であった。
心底、軽蔑した。
こんな人間を、私は助けようとしていたのだろうかと。こんな人間の為に、私はあんな怖い思いをしてここまで来たのかと。そう思った。
全てが骨折り損の草臥れ儲けに思われた。
国木田はそのまま校庭へと這入って来る。
「やめろよぉ!」と、情けない声で叫ぶ。
「どうして分からないんだ。どうして理解しようとしないんだ。千鶴もそうだ。お前らもそうだ。折角生まれる命を、神秘を、粗末に扱うなぁ!」
身体を巡る血液が、速度を上げて頭に集まっているのを感じる。
「何故否定する。何故拒絶する。そんなに恐ろしいか。美しいだけのものを見つめるのが。醜いだけの自分を見つめるのが。そんなことをしたって、お前らの醜さが変わることはな──────」
国木田は、全てを言い切る前に口を閉じた。否、強制的に、閉じさせられた。
私が蹴り上げたのだ。足元に位置する奴の顎を。
気付けば身体が動いていた。駆け出していた。聞くに耐えなかった。こいつの戯言が。
自分でも分かる程、私は激昂していたと思う。
呼吸が荒くなっているのを自覚する。気付けば、私の頬には涙が流れていた。何の涙かは分からなかった。悲しかったのか、それとも感情が昂っていたからなのか。
「巫山戯んなよ。お前」
自分のものとは思えない声だった。
「一番命を粗末に扱ってんのはお前だろうが!さっきから黙って聞いてりゃ都合のいいことばっか言いやがって。てめぇに責任感がありゃ全部解決した話だろうが!」
国木田は血塗れの顔で私を見上げて言う。
「違う!無責任なんかじゃない!誤解しないでくれ。僕はちゃんと、彼女の子を──────」
再び私は蹴り上げた。国木田は気絶でもしたのか、動かなくなった。
流石の勢いに見兼ねたのか、虎さんが寄ってくるが、私はそれを制止した。
少しずつ、息を落ち着けるように、ゆっくりと言う。
「"その時点"で無責任なんだよ。なんで分かんないんだよ。誰が醜いだ。何が神秘だ。お前がそんなもの語るなよ。一番醜いのはお前だろ」
一度深呼吸をしてから、私は桜のある方を、怪談屋のいる方を向いた。
肉塊は、少しずつ形をなそうとしていた。今では60cm程の幅のある肉塊になろうとしていた。
その姿は、到底人間とはかけ離れていた。
こんなものが、神秘であるはずがない。
こんなものが、正しい筈がない。
こんな生まれ方で、幸せになんてなれるわけが無い。
「お願いします。この桜を、壊してください」
私は優しくそう言った。




