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怪談屋  作者: 伊藤修平
徒桜の怪
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18/20

16

利用規約に数え役満で抵触する可能性があるということで15話は死にました。

すみません。

無くても理解できるようにはなってるはずです。

 国木田は聞かれてもいない過去の話を、悲劇の主人公ぶった反吐(へど)の出る話を語り終えた。


 何を言っているんだ。こいつは。

 さっきから少年みたいに目玉を輝かせながら、つらつらと気色の悪い事ばかり言いやがって。

 心の弱った女子中学生と関係を持って妊娠をさせて。揉めてその子が死んだから生き返らせようと思うだと?

 気でも触れているんじゃないのか。到底正気とは思えない。

 何を悲劇の主人公ぶっているんだ。反吐が出る。

 何が未成年飲酒は感心しないだ。お前はそれ以上に、人として、既に落ちきっているというのに。どの面下げて毎日この学校に通っていた。どの面下げて教師の振りしてた。どの面下げて、私達生徒を見ていた。


「どうする」

 怪談屋が聞いてくる。

「は?何がですか?」

 本当に、言葉の意図が読み取れなかった。どうするもこうするもないだろう。この悪漢を。

「お前の依頼は二つだったろう。一つは国木田を見つけてここから助け出すこと。もう一つは嘘をつけるようにすること。こっちは厳密には決めてなかったが、『嘘の怪談が発動する条件』を知って避ける方法もある。(そも)、もう三度目の嘘の実現があった以上、話を聞く限り「嘘の怪談が実現する」ことはもう無いだろうしな」

 怪談屋は平然と続ける。

「つまり、お前の依頼の後者は既に解決している。あとは前者。この男を連れ出すことだ」

 どうしてこうも、大人というものは醜く浅ましいのだろうか。さっきの話を聞いて、何も思わなかったのか?何も感じなかったのか?

 私はさっきから(ほぞ)の奥が煮えたぎっているというのに、どうして……。

 眉間の辺りがしわくちゃになっていくのを感じる。

「言わないと……分かりませんか?」

 怒りからか、声が震えていた。きっとすごい形相をしていたのだろう。虎さんが少し、驚いた顔をしていた。

「壊すに決まってるでしょう。あの桜」

 激情を必死に抑えるように、粛々と、そう言った。

「いいのか?高くつくぞ。その依頼」

 怪談屋は言う。どこ(まで)現金なやつなんだ。けど、構わない。(いく)らになろうが、こんな奴の(かん)(けい)を果たさせる訳にはいかない。


「そんなことさせる訳ないでしょう。」

 そう言って国木田はどこからか十徳ナイフを取り出した。目からは完全に、正気を読み取ることはできない。

 底なしの暗闇だ。

 未だへたり込んでいる私に向けて、ナイフを振り下ろそうとする。

 刹那、国木田が吹き飛ぶ。

「そんなこと、させる訳無いだろ」

 右の拳を前に突き出した虎さんがそう言った。どうやら国木田を殴り飛ばしたらしかった。

 立てますか、と聞いて虎さんは私の手を取る。

 国木田は……床で鼻や口から血を垂れ流し、伸びている。一生眠っておけ。

 そう思い、廊下へ駆け出し、校庭へ向かった。

「怪談屋!憑代とやらを取り出せば、あの桜は……儀式は無効になるんだな!?」

 柄にもなく、柄の悪い大声でそう言った。八つ当たりのようになってしまった。とは言っても、先程の態度を考えれば当たられたって仕方がないだろう。

「嗚呼。そうだ」

 端的に怪談屋は答える。


 三階から階段を駆け下り、一階に到達する。そのまま校庭の方へと向かっていく。


 そう言えば


 あの肉塊はどこに行った?


 怪談屋が蹴り飛ばした後、あの教室で見ていない。足や床にいた赤子と一緒に消えたのか……?


 校庭に出ると、直ぐにその大きな桜の木が目に入ってくる。大きく響く、拍動が鼓膜を揺らした。波打つ様に、それは鳴っている。

 お腹に響く。吐きそうだ。

 桜の木の根元には


 あの肉塊があった。

 少しずつ、その体積を増やしていた。


「千鶴が生まれるんだよ」


 あの(いん)(とう)教師はそう言っていた。


 あれが、そうだと言うのだろうか。


 どこかで泣き声が聞こえた。

 大きくて悲痛な泣き声。

 しかし、それは先刻聞いた赤子のそれとは違っていた。変声期をとっくのとうに過ぎた大人の泣き声。

 声の方を振り返ると、国木田が這いつくばって降りてきていた。

 鼻血と涎と涙に塗れながら、芋虫のように地を這いながら泣いている。

 大きな大きな赤子の様であった。駄々を捏ねて(かん)(しゃく)を起こす子供の様であった。


 心底、軽蔑した。


 こんな人間を、私は助けようとしていたのだろうかと。こんな人間の為に、私はあんな怖い思いをしてここまで来たのかと。そう思った。

 全てが骨折り損の草臥(くたび)れ儲けに思われた。


 国木田はそのまま校庭へと這入(はい)って来る。

「やめろよぉ!」と、情けない声で叫ぶ。

「どうして分からないんだ。どうして理解しようとしないんだ。千鶴もそうだ。お前らもそうだ。折角生まれる命を、神秘を、粗末に扱うなぁ!」


 身体を巡る血液が、速度を上げて頭に集まっているのを感じる。


「何故否定する。何故拒絶する。そんなに恐ろしいか。美しいだけのものを見つめるのが。醜いだけの自分を見つめるのが。そんなことをしたって、お前らの醜さが変わることはな──────」


 国木田は、全てを言い切る前に口を閉じた。否、強制的に、閉じさせられた。

 私が蹴り上げたのだ。足元に位置する奴の顎を。

 気付けば身体が動いていた。駆け出していた。聞くに耐えなかった。こいつの戯言(ざれごと)が。


 自分でも分かる程、私は激昂(げっこう)していたと思う。

 呼吸が荒くなっているのを自覚する。気付けば、私の頬には涙が流れていた。何の涙かは分からなかった。悲しかったのか、それとも感情が(たかぶ)っていたからなのか。

巫山戯(ふざけ)んなよ。お前」

 自分のものとは思えない声だった。

「一番命を粗末に扱ってんのはお前だろうが!さっきから黙って聞いてりゃ都合のいいことばっか言いやがって。てめぇに責任感がありゃ全部解決した話だろうが!」

 国木田は血塗れの顔で私を見上げて言う。

「違う!無責任なんかじゃない!誤解しないでくれ。僕はちゃんと、彼女の子を──────」

 再び私は蹴り上げた。国木田は気絶でもしたのか、動かなくなった。

 流石の勢いに見兼(みか)ねたのか、虎さんが寄ってくるが、私はそれを制止した。

 少しずつ、息を落ち着けるように、ゆっくりと言う。

「"その時点"で無責任なんだよ。なんで分かんないんだよ。誰が醜いだ。何が神秘だ。お前がそんなもの語るなよ。一番醜いのはお前だろ」


 一度深呼吸をしてから、私は桜のある方を、怪談屋のいる方を向いた。

 肉塊は、少しずつ形をなそうとしていた。今では60cm程の幅のある肉塊になろうとしていた。

 その姿は、到底人間とはかけ離れていた。

 こんなものが、神秘であるはずがない。

 こんなものが、正しい筈がない。

 こんな生まれ方で、幸せになんてなれるわけが無い。


「お願いします。この桜を、壊してください」

 私は優しくそう言った。


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