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電脳世界と最強ゲーマー  作者: 犬養ワタル
電脳世界とシャングリラ
33/34

終幕

「陽祐君が君に詰め寄ったところから全てが計画の内だったのかい? 全く参ったよ」


 口ではそう言いつつ、イオリはどこか満足そうだった。


「命までは取りたくないが、俺はこの世界を壊さなくてはならない。恨むなよ」


 許されるのならばイオリは殺したくない。


「待てよ、イオリが計画を折るのなら殺す必要なくないか?」

「そうだよ、飛鳥君のしたいことは、イオリちゃんを殺してまでしたいことなのー?」


 陽祐と永遠に止められてハッとする。


「お前たち……」


 確かにVRを人々の顔から外すことと引き換えにイオリの命を取るなら、それは果たして正しい選択なのだろうか?

 覚悟の揺らいだ俺の背中を押してくれたのは、意外にも露木だった。


「何を迷っているのですか。答えは戦う前から決まっているでしょう」


 そうだ。俺の取るべき選択は……。


「永遠、この世界は存在してはいけないんだ。きっと第二、第三のイオリが現れた時、次こそ現実が壊されてしまうからな」


 すると永遠は強い口調で反論した。


「そんなの分かってるよ! でも、でもそしたらイオリちゃんが……」

「すまない」


 俺はイオリの正面に立つ。


「ありがとな、イオリ。」


 そして俺はイオリにデコピンをした。イオリはそれを笑顔で受ける。


「そうだ。君はそれでいいんだよ」


 イオリが羽の先からだんだんと灰になっていく。


「待って、行かないで!」


 永遠がイオリの方に駆け寄り、手を強く握る。


「永遠ちゃん、私は君と友達になれてほんとうに良かったよ」


 永遠は涙を流しながらイオリの言葉を受け取った。 


「私もだよー。もっともっと話したいことが沢山あったのに……」


 話ながらもイオリの崩壊は止まらない。


「おっとそろそろ時間だ。じゃあね、飛鳥君、永遠ちゃん、陽祐君、露木君。私は最期に君たちと旅ができて本当に良かったよ!」


 黙ってイオリの最期の言葉を聞いた。皆沈痛な面持ちでうつむいている。


「最後に飛鳥君、私は本当に君のことを尊敬するし、それに」


 イオリは少し躊躇う様子を見せる。


「ありがとう、私を止めてくれて」


 イオリは最後確かにそう言い残し、ついに灰になって消えた。


「感謝するのは俺の方だ。じゃあな、初恋の人よ」


 もう言ってもイオリには聞こえていない。イオリはもう存在しないのだから。


「イオリちゃん……」


 永遠は大粒の涙をぽろぽろとこぼし、慟哭を静かな空間に響かせる。陽祐は涙を流しながらも永遠を励ましていた。


「なあ飛鳥、俺らは正しいことをしたんだよな?」

「ああ」


 正しい選択をしたはずなのに、なぜこんなにも悲しいのだろう。


「飛鳥さん、帰りましょう。私達の現実へ」


 露木がそう言った瞬間、地が揺れた。


「何だ、地震か!?」


 陽祐が驚くが、俺にはなんとなく現状が分かった。


「違う、おそらく崩壊が始まっているんだ。この城の、いやこの世界のだ!」

「感傷に浸る時間もくれませんか。急いで逃げましょう」


 地が揺れている中、急いで階段を降り外へ向かう。


「クソっ、危ねえな!」


 途中柱が折れて天井の一部が落ちてきたりした。それを避けながらも進む。ただ幸運なことに、敵は一匹としていなかった。


「出口だ!」


 一階まで降りて、開け放たれた扉へと飛び込んだ。すると当然外に出ると思っていたが、実際に出たのは薄暗い室内だった。


「ここは?」


 予想と違う場所に出たので、理解が追いつかない。


「よくやったな」


 室内によく響く声が聞こえる。声の先を見ると、アポスが立っていた。


「全く、もう少し早く助けてくれてもよかったんじゃねえか?」


 これだけ走ったにも関わらずまだ余裕のある陽祐が突っかかる。


「私とてできればそうしたかったが、城の入り口につけるのが限界だったのだ。見ていてヒヤヒヤしたぞ」


 かなりギリギリだった訳か。生き残れて本当に良かった。


「まずはお疲れ様だ。魔王退治、よくやってくれた」

「気分は最悪だがな」


 イオリと出会い共に過ごした場所が崩壊してしまうのは、寂しい思いがした。


「私からとやかく言うのは野暮というものだろう。ただこれだけはプレゼントさせてくれ」


 そう言ってアポスは俺に杖を、永遠に何かストラップを渡した。


「これは?」

「これはイオリが最期の力を振り絞って作り上げたアイテムのようだ。君たち二人に渡すのが良いと思ってな」


 最期の最期まで俺らのことを思ってくれていたのか。やっぱりイオリには敵わないな。


「このストラップ、観光の時に二人で買ったものだー」


 永遠は大事そうにストラップを胸のあたりに抱いた。


「先程も述べたように、それはイオリが最後に作り上げた魔道具だ。きっと二人をずっと守ってくれるだろう」


 杖の素材は分からないが重量感が有り、持つだけで力が湧いてくる。


「ありがとな、イオリ」


 杖をくるくる回してその形を確認する。前に似合いそうって言ってくれたっけ。


「ありがとな、アポス。俺らはそろそろ行くよ」


 アポスに別れを告げる。そこでアポスが初めて笑っているのを見た。


「終わったんだな」


 家に着くと全てが終わったという達成感と安心感に包まれた。


「これでもうあの世界には行けないんだな」


 陽祐が少し残念そうな声を出す。しんみりとした様子でしばらく皆呆けていると電話が鳴った。


「またかよ、アポスか?」


 陽祐が悪態を吐く。俺は電話に向かい受話器を取る。


 そして聞いたその声は――。


「君かい?」


 二度と聞けないと思ったあの声。


「ああ――」

「最期に君に伝えておきたい気持ちがあってね」


 少し間が開く。電話越しで緊張が伝わってくる。


「大好きだよ」


 そう言って電話は切れた。しばらく呆然としてしまう。

 そうして気づけば頬が濡れていた。


「辛い役割を押し付けてしまいましたね。ここはありがとうと言うべきでしょうか」

「辛いのは飛鳥くんも一緒だったね。なのに私だけ泣いちゃってごめんねー」


 やめろ。今優しくするな。


「お疲れ、そしてありがとな飛鳥!」


 今まで我慢していたものが崩壊した。とめどなく涙が溢れてくる。


「すまない、すまかった、イオリ」


 本当はあの世界でもっとイオリと居たかった。もっと話したかった。俺のことが好きだと知っていたなら恋人らしいこともしたかった。もっと、もっとしたいことがあった。

 陽祐が肩を擦ってくれる。皆の優しさが傷心の身に沁みた。


「すまない、取り乱したな」


 ようやく落ち着いた俺はみんなに謝る。すると陽祐が、永遠が、露木が笑顔を返した。


「気にすんなよ、それよりそろそろ行こうぜ」


 陽祐に言われて、崩壊後の現実がどうなっているのか気になった。


「では行くか、俺たちの世界に!」

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