第6話 新しい仲間
数日後。ベルは町の武器屋に立っていた。
剣は重く、槍は長く、弓は引けない。
店主が黙って一本の短剣を差し出した。
「お前さん、解体に慣れてるだろ。俺ら職人は、そのぐらい手を見れば分かるんだ」
握ると、確かに手に馴染んだ。
荷物持ちの頃、毎日のように素材を捌いていた。
「ただし、こんなものはあくまで補助だ。無理はするんじゃねーぞ?」
「はい、ありがとうございます」
◇
ベルは短剣を腰に下げた。
ギルドに戻ると、出口でミリアが手を振っていた。
「ベル! 私たちしばらく町を空けるんだ!」
レオンが依頼書を巻いて懐にしまい、カイルがこちらに小さく頷く。 何の依頼かは聞きそびれた。
「気をつけて」
「お互いにね!」
4人を見送って、ベルは掲示板へ向かった。
先日、受付嬢が出してくれた依頼書。
【森の異常調査】
原因不明の切り傷が多発している。
原因の究明をし報告せよ。
◇
森の入口に、ブルーバードがいた。
「ピィ!」
「お前、この間のやつか!」
ブルーバードは、ベルの周りを何度も飛び回った。 足に、細い傷跡が見えた。
「その傷、どうしたんだ?」
「ピィ……」
ブルーバードは少し先へ飛び、振り返った。
ついてこい、と言っているようだった。
ルナと一緒に後を追う。
しばらく行ったところで、ルナのお腹が鳴った。
「ははっ少し休むか」
女将さんにもらった弁当を広げる。
ルナの分も入っていた。
ブルーバードが肩に降りてきた。
「お前も食べるか?」
ベルが小さくちぎって差し出すと、ブルーバードはそれをついばんだ。
そして、ベルの顔を見て小さく鳴いた。
「そうだなぁ、いつまでも"お前"って呼ぶのもなぁ…名前でもつけるか」
「ピィッ!」
ブルーバードも嬉しそうに鳴いた。
「そうだなぁ…んー…」
ふと、昔孤児院で飼っていた鳥の名前を思い出す
「フィン!フィンってのはどうだ?」
「ピィ!」
光がふたりを包んだ。
【契約を確認】
【リンカーが反応しました】
ベルはしばらく動けなかった。
「俺は、お前たちを力で従わせたわけじゃない」
ルナが隣で尻尾を振る。
「相手の魔物が選んでくれた時だけ……」
「それが、俺の契約なのか?」
フィンが、嬉しそうにベルの周りを飛んだ。
「…よろしくな!」
そのときだった。
「痛っ!」
ベルの足首に、ひやりとした痛みが走った。
ズボンの裾を上げると、細い切り傷から血が滲んでいる。
(周りには何もいなかったはずなのに)
「これが、依頼の傷か……」
フィンが、ベルの足元の地面へ降りた。
くちばしで、土をコツッとつつく。
何もない、ただの土にしか見えない。
だが、フィンは2度目に何かをくわえた。
灰色の小さな塊。 石にしか見えない。
ベルが手を伸ばそうとしたとき、それがぬるりと動いた。
「――魔物か!」
土と木の皮が剥がれ落ち、小柄な人型が立ち上がる。 全身を周囲の色に溶け込ませた魔物。
「ドッペル……」
ベルはすぐに思い出した。
ドッペルは擬態の魔物。地面に紛れ、近くを通る者を小さな刃で切りつける。戦う力はほとんどない。
ただ、姿を隠す力だけが厄介な魔物だ。
「逃がすな!」
ルナが飛び出す。
ドッペルが木の根元まで走り、擬態を始めた。
「ルナ、右! フィン、上から!」
擬態が完成するより早く、ルナの爪が捉えた。
続けてフィンが風を放ち、ドッペルを吹き飛ばす。
ドサッ。
動かなくなった魔物を前に、ベルは息を吐いた。
「依頼の原因は、これだったのか」
「ワゥッ!」
ルナが得意げに鳴き、フィンが肩に戻ってくる。
そのとき、森の奥でガサリと音がした。
ルナの毛が逆立つ。
フィンが空中で羽ばたきを止めた。
木々の向こうから、ゆっくりと別の影が現れる。 最初のドッペルよりも大きく、手には武器を握っていた。
ベルは、息を呑んだ。
「……ドッペルウォリアー」
図鑑で見た名前だ。 ドッペルの進化した姿。
その最大の特徴を、ベルは知っている。
――どんな姿にも"変身"する。




