第4話 初めての依頼
森の入口で、ベルは薬草を見つけてしゃがみ込んだ。
「これだな」
似た草はいくつもある。
だが、荷物持ちの頃に何百回と見てきた。
葉の裏の産毛、茎の赤み、根の張り方。
見分けるのは難しくない。
「ワウッ」
ルナが少し離れた場所で尻尾を振っている。
そこにも薬草が一株生えていた。
「よく見つけたな!」
薬草が好むのは、日当たりと湿り気のちょうど境目だ。ベルがそれを頼りに探し、ルナが鼻で見つける。五束を集めるのにほとんど時間はかからなかった。
そのとき、茂みが揺れた。
「ルナ」
「グルル……」
緑色の影が三つ。ゴブリンだ。
ベルは正面に立たなかった。
木の枝を投げて視線を引きつけ、ルナが攻めやすい位置へ回り込む。
自分より強い相手と殴り合う必要はない。
隙を作ればいい。
冒険者たちの戦いを5年間見てきたベルの冷静な判断だった。
◇
三匹目が倒れたとき、ベルの視界に文字が浮かんだ。
【レベルアップ】
【Lv1 → Lv2】
「……俺のレベルが上がったのか」
昨日は、同じようにゴブリンを倒しても何も起きなかった。契約が一晩で落ち着いたのかもしれない。理由は分からない。
ルナのステータスも一緒に確かめる。
Lv4になっていた。
そして、リンク補正が増えている。
「ルナの能力の…ちょうど半分か」
ルナが強くなるほど、自分にも力が返ってくる。
「俺たち、一緒に成長できるんだな」
ルナが誇らしげに鼻を鳴らした。
◇
帰り道の途中でルナが足を止めた。
木陰から覗くとゴブリンが五匹。
その後ろに、大きな影が二つあった。
筋肉の塊のような巨体――ホブゴブリン。
その隣には、杖を持ち、小柄ながら異様なオーラを放つゴブリンメイジがいた。
ベルの背中に何とも言えない汗がつたう。
ホブゴブリンは本来、森のもっと奥にいる魔物だ。受付嬢の言葉を思い出す。
「大きなゴブリンの目撃がある、って……本当だったのか」
「グルル……」
「避けよう。ルナ、ゆっくり下がれ」
だが、一匹と目が合ってしまった。
「ギャアアッ!」
5匹が一斉に走り出す。
「ルナ離れるな!俺の横にいろ!」
ベルは知識を総動員した。
ゴブリンは武器を振る前に、必ず踏み込む足へ体重を乗せる。
それを読んで避ける。
避けた先にルナが飛び込む。1匹、2匹…
【レベルアップ Lv2 → Lv3】
【ルナ Lv4 → Lv5】
【ルナがスキルを習得しました:クローエッジ】
「ルナ、新しい技だ!」
ルナの爪が空を切った。
次の瞬間、斬撃が飛び、5匹目の胸を裂いた。
残りは、ホブゴブリンとメイジ。
(……メイジを先に倒すべきだ)
魔法使いは人間だろうと、魔物だろうと、魔法での攻撃力が高い代わりに、物理攻撃に弱い。
普通の戦いなら、真っ先に潰す相手だ。
それは知っていた…
けれど、ホブゴブリンの棍棒が目の前に迫って、ベルの視線はそちらに吸い寄せられた。
「ルナ、こっちだ!」
クローエッジがホブゴブリンの肩を裂き、懐へ入ったルナの最後の一撃が巨体を倒した。
【レベルアップ Lv3 → Lv5】
「勝っ――」
背後で、光が膨らんでいた。
「ルナ、避けろ!」
ドォン!
爆発音。土煙。倒れたルナの姿。
「ルナ!」
駆け寄る。 弱々しく鳴いたが息はあった。
それでも、HPが半分以上削られている。
ベルは唇を噛んだ。
(先にメイジを倒さなきゃいけないって分かってたのに…)
ゴブリンメイジの杖に、再び赤黒い光が集まっていく。 もう一発受けたらルナが危ない。
ルナが顔を上げた。
まだ戦おうとしている目だった。
「……いい。そこで待ってろ」
ベルは立ち上がった。
「今度は俺がやる」
拳を握る。 自分は、ただのテイマーだ。
剣も魔法もない。それでもリンカーがある。
ルナの力が、俺の中にもある。
「力を貸してくれ、ルナ」
「……ワウッ」
「リンカー…発動」
淡い光がベルを包んだ。
黒髪が銀色に染まっていく。
視界に、新しい文字が浮かぶ。
【リンクエッジ】




