第15話 ハズレじゃない
「ガルドさんだ」
ベルが言った。
「あの声、間違いない。三階層の奥からだな」
「行こう!」
レオンが、即座に剣と盾を握った。
通路を駆けると、広い空間に出た。
石像のような、巨大なトカゲが立っていた。
その前で、ガルドと二人の仲間が壁際に追い詰められている。
ガルドの片腕は、石のように白く固まっていた。
「ストーンリザード…!」
ベルは叫んだ。
「息を浴びると石化する!近づかないで!」
「なんで、お前が……」
ガルドがかすれた声を漏らした。
「説明してる暇はありません!ストーンリザードの弱点は目です!」
ストーンリザードは、暗い場所に適応した魔物だ。強い光を浴びると、一瞬だけ視力を失う。
光苔の淡い光では足りない。
(けど、フィンの電気なら!)
「フィン、あいつの目の前で電気を出すんだ!」
「ピィッ!」
フィンが飛んだ。
全力で羽ばたき、翼から閃光を放つ。
パァンッ!
眩い光が、空間を満たした。
ストーンリザードが、悲鳴のような声を上げて、顔を背けた。
「今だ!」
ミリアが飛び込んだ。
二本の剣が巨体の足を斬る。
レオンの剣が首筋に叩き込まれた。
ストーンリザードが地面に倒れた。
◇
セシルの治療で、ガルドの腕は少しずつ血の気を取り戻していった。
ガルドは地面に座り込んだまま動かなかった。
やがてぽつりと言った。
「…すまなかった」
ベルは、驚いて顔を上げる。
「お前が、いなけりゃ、全員死んでた」
「いえ、確かに僕だけの力じゃありません」
ガルドは、悔しそうに唇を噛んだ。
「ハズレ職、なんて言って悪かった」
その言葉を、ベルは静かに受け止めた。
(…ハズレじゃなかった)
十歳の自分に、聞かせてやりたかった。
◇
ギルドに戻ると、リーナが目を丸くして出迎えた。
「ベルさん……! ガルドさんたちを、助けてくださったんですね」
「僕だけじゃありませんけどね」
ベルは少し照れたように笑った
◇
その夜、星降り亭の食堂でレオンが切り出した。
「なあ、ベル」
「ん?」
「前にも誘ったけど、もう一度言わせてくれ。俺たちと組まないか?」
ミリアが身を乗り出した。
「迷宮の間だけでもいいよ!」
ベルは少し考えた。
自分でやってみたい、という気持ちは変わっていない…けれど。
「迷宮の間だけ…一緒にいてもいいかな?」
頬をかきながら4人の顔を順々に見つめた。
「もちろん!」
「やった!」
ミリアがルナを抱き上げた。
◇
夜更け。
部屋で、ベルは窓を開けた。
街の灯が遠くまで広がっていた。
足元でルナがふいに顔を上げた。
耳がぴくりと動く。
視線の先は、街の外れにそびえる、黒い塔のような岩山を見つめていた。
一番大きな迷宮の入口だった。
ルナの瞳が、淡く光りはじめる。
胸元で鈴がほんのりと熱を持っていた。
ベルは息を呑んだ。
初めて見る、淡い銀色の光だった。




