第11話 空を駆ける
草原の街道を数日歩いた先で、悲鳴が聞こえた。
荷馬車の列が止まっている。
護衛の二人が地面に倒れ、商人たちが馬車の陰に身を寄せていた。
その頭上を翼を広げた魔物が旋回していた。
「ワイバーンだ…!」
ベルは足を止めなかった。
「行こう!」
ワイバーンが口を開く。
炎弾が馬車めがけて飛んだ。
「フィン!」
フィンが風を巻き起こし、炎の軌道を逸らす。
炎は馬車の脇の地面を焦がした。
ベルは翼の動きを見ていた。
ワイバーンは、炎を吐く直前に翼を止めて滑空する。喉が赤く光る。
その一瞬だけ背中の付け根が、がら空きになる。
(地上からじゃ届かないか…)
炎を避けて走るだけではいずれ追い詰められる。
「リンカー発動。……ウェポンチェンジ、ルナ!」
両手に、爪が現れた。
「ウェポンチェンジ、フィン!」
青い光が、背中に集まった。
二枚の翼が広がる。
【MP 43 / 43】
MPがみるみる減っていく。
(2匹同時だと長くは持たない。2分…いや、それより短いか)
「速攻で終わらせる!」
ベルは地面を蹴った。
風が身体を持ち上げ空へ羽ばたく。
ワイバーンが驚いたようにこちらを向いた。
炎弾。ベルは翼を翻し、紙一重でかわす。
「アクセルリンク!」
速度が一段上がる。
ワイバーンの周囲を旋回し、炎のたびに喉を見る。
(まだ。…まだだ)
三度目の炎の前、ワイバーンの翼が止まった。
「今だ!」
ベルは急降下し、爪を付け根へ叩き込む。
「グオオオッ!」
ワイバーンが体勢を崩した。
だが、最後の炎がベルの左肩をかすめた。
「ぐっ……!」
焦げた匂い。翼が揺れる。
視界の端で、MPの数字が赤く点滅していた。
(あと1回)
ベルは歯を食いしばった。
崩れた体勢のまま、もう一度爪を振り抜く。
「リンクエッジ!」
斬撃が翼の付け根を断った。
巨体が地面に落ちた。
◇
「……ふぅ」
地上で翼と爪が消えた。
髪が黒に戻った瞬間、膝から力が抜けた。
「ワウッ!」
「ピィ!」
二匹が駆け寄ってくる。
「大丈夫。ちょっと疲れただけ」
肩の火傷を確かめていると、商人が震える足で近づいてきた。
「助かった……。君達は命の恩人だ」
商人は、倒れたワイバーンを見て目を丸くした。
「これは、迷宮都市の買取所に持ち込めば、かなりの値になるだろう。私の馬車に乗せよう。ちょうど、向かう先も同じだから」
「いいんですか?」
「もちろんだよ」
荷馬車の揺れの中で、ベルは前を見た。
まだ距離はあるが、巨大な城壁が見え始めていた。
「迷宮都市は、実力がすべての街だ」
商人が都市の方を見ながら言った。
「若いの。実力とは力だけではないからな?」
ベルは真剣な顔で商人をみる。
「気を抜くなよ?飲み込まれないように」
首から下げた鈴が熱を持ち始めていた。




