第10話 旅立ち
「ベルさん。今回の依頼達成で、Dランクへ昇格となります」
受付嬢が書類を差し出した。
「……Dランク」
「3か月で40件。無茶をしない丁寧な仕事ぶりが、評価されました。おめでとうございます」
「ありがとうございます!」
ベルが笑うと、受付嬢は少しだけ声を落とした。
「それと、1つお話があります」
「何ですか?」
「迷宮都市のことです」
「迷宮都市…ラグナですか?」
大きな迷宮を中心に、冒険者が集まる街。
名前だけは聞いたことがあった。
「はい、Dランク以上になると、ラグナへ移る人も増えます。実績は、登録しているこのギルドにも加算されます。なので、ラグナからこちらに戻ってくる人も多いんですよね」
「そうなんですか」
「……実は、レオンさんたちのパーティーも、先月からラグナを拠点としています」
ベルの胸が少し高鳴った。
「…会えるかもしれないですね」
「ええ」
受付嬢はにっこりと笑った。
「でも、急がなくていいですよ。ゆっくり考えてみてください」
◇
宿に戻ると、女将がいつものように出迎えてくれた。
「おかえりベル。顔がやけに明るいね」
「ギルドのランクがDに上がりました!」
「まあ!」
それだけで、女将は台所に駆け込んでいった。
夜、部屋のベッドに腰を下ろす。
「……どうしようか」
迷宮都市。 知らない街。知らない冒険。
この街は5年間過ごしてきた場所だ。
ルナと出会った場所で、フィンとも出会えた。
「正直怖いな…」
ぽつりと、ベルは言った。
ルナが、ベルの膝に頭を乗せた。
フィンも肩で小さく羽を震わせた。
「…ルナとフィンはどうしたい?」
ルナがベルの手に鼻先を押しつけてじっと見上げる。
「行きたいのか?」
「ワウッ!」
「ピィ!」
ルナとフィンは嬉しそうに鳴いた。
ベルは小さく笑った。
「そうだよな…よし、行こう!」
怖いよりも見てみたいものがラグナにあった。
◇
翌朝。
「これを持っていきな」
女将が包みを差し出した。
弁当とルナ用の干し肉が入っていた。
「ありがとうございます」
「無茶だけは、するんじゃないよ」
「…分かりました」
「本当かねぇ」
女将は目元を拭うように笑った。
「いつでも、戻っておいで」
「はい。…行ってきます!」
ベルは力強く返事をした。
ギルドで受付嬢が一枚の紙を差し出した。
「紹介状です。迷宮都市のギルドで見せてください。話は通しておきますので」
「はい、ありがとうございます」
受付嬢は神妙な面持ちで続ける。
「それと、気をつけて。人が多い場所ほどいろんな人がいますから。冒険者同士だとしても…」
◇
町の入口で一度だけ振り返った。
見慣れた街並み。何度も歩いた道。
ここですべてが始まった。
胸元の鈴をそっと握る。
「…行こう!」
ルナが前を歩きフィンが空を飛ぶ。
1人と2匹は街道へ踏み出した。
◇
数日後。
草原の先に街道が続いていた。
ふいにフィンが鳴いた。
「ピィ……!」
頭上を大きな影が通り過ぎた。
太陽が一瞬だけ遮られた。
ベルは顔を上げた。
翼を広げた何かが、街道の向こうへ降りていくところだった。




