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ルシアスは、第12王子である。
王子としてそれなりの、決して悪くない境遇で育った。そしてその立場故、誰からも期待されること無く、不遜な扱いを受けることもなく、咎められることもなく、謂わば空気のように存在していた。
ルシアスを必要とし、ルシアスを柔らかく包んでくれていた病弱な母は、ルシアスが7歳の時に亡くなった。沢山の愛情をくれた人であった。その母がこの世から去った後、ルシアスは自分が空っぽになった様な気がした。そして、その思いはずっと心の中で燻っていた、先程までは。
ルシアスには、やるべきことができたのだ。自分がやらねばならないこと、自分しかやれないことがあるのだと思った。それが、空っぽの心を満たしてくれる様な気がして、嬉しかったのだ。
踊る心を落ち着かせ、外に控えていた護衛である幼馴染を招き入れ、アウルムとの話を簡潔に伝えた。
「ロイ、とんでもないことになっている。私もその中にいるということが、とても変な気分だよ。」
「確かにそうだな。今まではずっと傍観者側だったし。人生何が起こるかわからないものだな。」
ロイはいつものように砕けた様子で、はっきりと簡潔に答えてくれる。ルシアスにはそれが心地よい。
「私は、アウルム兄様の役に立ちたい。」
「気持ちはわからなくもない。話したことはほとんどなくとも、兄弟だしな。しかし、何が何でもアウルム殿下に従う必要はないと私は思う。アウルム殿下と宰相殿のどちらにつくかは、よく考えた方がいい。君の人生を大きく変えることだ。少しは自分が有利に生きることを学ばないと。」
その通りだとルシアスは思いながら、少し間を空けて続けて答える。
「今、嬉しい様な、怖い様な、不思議な気持ちなんだ。言葉で現すことが難しいのだが、心が浮き立つというか。誰かから期待されるというのは、こんなにも難しい心持ちになるものなのだな。確かに、ロイがいうようにしっかりと考えたほうが良いことは自分でもわかっている。しかし一方で、どちら側についたとしても自分がそうあるべきと思う道を進めば、自ずと道が定まるような気がするんだ。結局、同じところに行きつくのではないかと思うんだよ。山から湧き出た水が、最後は一つの川になるようにね。」
ロイが破顔しながら答える。
「君らしいな。流されているようで、自分をしっかり持っている。これからどうなるかはわからないが、私は君の力になることを誓うよ。楽しみだな。」
「感謝する、ロイド・ノックス。君がいてくれてよかった。」
相互理解を更に深め、腰を落ち着かせて未来の展望を話し始めた矢先、侍従が手紙を携えてきた。
その送り主は、カルエラであった。




