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仰げば尊し  作者: 孤鶴
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1-3

これは、困った。

どうやら、アウルムとルシアス、そして第5王女のカルエラが偽物っぽい感じになりそうである。

王族としての心持ちを新たにしたばかりのルシアスなのに、一寸先は闇とはよく言ったものだ。


アウルムの言葉を聞いて、菫色の目を見開いたルシアスは、そのままの面持ちで次の言葉を待つ。


「父上は、数年前からものを落としたり、躓いたりという事が出てきたのだそうだ。上手く隠されていたのだろう。私も気が付かなかった。一週間程前からお風邪を召されたとのことであったので、見舞いに伺おうとしたのだか、何かと理由をつけて断られた。何かおかしいと思い、半ば強引に伺ったら、やはり臥せられておられたのだが。」

アウルムが言葉を切る。そして、一気に不安を吐き出すように続けた。

「近くに参じた時に、そのお姿を拝して気がついた。腕の細さや表情の乏しいご尊顔は、消えてしまった我等兄弟姉妹とまさに同じであることに。」


ルシアスは、六割方、いや、八割方は自分は偽物確定のような気がしてきた。


「このことは、まだ私とルシアスと、父上の側仕え2名しか知らない。しかし、時間の問題だ。そのうち皆に知れ渡るようになるだろう。人の口に戸は立てられぬ。」

噂話は過激な内容ほど、早く広まるものだ。

「そこで、ルシアス。君の力が必要だ。」

ここに至って自分のどんな力が必要なのか、ルシアスには分からなかった。不安が募る。


「我々が父上の本当の子である事を証明する何かが欲しい。遠からず我々は弾弓される運命だ。その時に、反論できる何かが欲しいのだ。このままでは太刀打ちできない。」

理性的な言葉にルシアスは胸をなでおろす。

少なくとも、呪いを解くために人身御供にならずに済んだようだ。

「私はここを離れることができない。そして、時間を割くことも難しい。なんとかこの話が世に知れ渡る前に、何事もなかったとしたいのだ。」


さらにアウルムは続ける。

「王族の者達になぜこのような事が起きたのかを探らねばならない。しかし、王族以外の者が深く調べることはできないと定められている。知ってはならないことが出てくるやもしれないからだろうな。」

王族は複雑なのだろう。己の出自を疑うなど、今まで考えたこともなかったとルシアスは思う。

言葉はさらに続く。

「王家の安泰のため、陛下の子であることが証明できればよいのだ。私の、ひいてはルシアス自身のために潔白を証明しようではないか。どうだ、ルシアス。私の頼みを聞いてくれないだろうか。」


どんな内容であろうと、返事は最初から決まっているのだ。「はい」か、「イエス」か、「喜んで」の三択だ。


「わかりました。私がお役に立てるのであれび、『喜んで』受けさせていただきます。」


しかし、先程からどうにも引っかかることがルシアスにはあった。


「兄上、なぜカルエラ姉様にはこのお話をされないのですか?」

「ごきげんよう」と声をかけられたことしかないが、一応姉である。こんな時こそ、兄弟姉妹で手を取り合って支えるというものではないだろうかとルシアスは思うのだ。

しかし、世の中はそう単純ではないらしい。

アウルムが答える。

「カルエラはだめだ。あれは、これから私と王位継承を争うようになるだろう。その後ろ盾は宰相殿だ。彼は傀儡政権を望んでいる。カルエラはその傀儡だ、御しやすいからね。カルエラの前はアクルスを取り込もうとし始めていたのは、ルシアスも知っているだろう。」

アクルスとは第2王子である。アウルムとは趣の異なる派手な人であった。できるだけ侮蔑なく表現するならば、純粋で浅慮な文化芸能を好む人であったため、宰相殿のお気に入りだったのだ。市井の居酒屋でも有名な話だったとルシアスは思い出した。


父王から王太子へと世代交代が進む中、宰相殿はまだ第一線で活躍したいのだろう。ルシアスは、奇特なことであると思う一方で、権力とはそれほどまでに甘美なものなのだろうかとも思う。歴史を振り返っても、権力が強いものほど、不老不死を願い、その地位にしがみつこうとする。頂点に立ったものしか感じ得ない何かがあるのかもしれない。


アクルス亡き今、ルシアスが操り人形になる可能性を考慮し、アウルムは先手を打ってルシアスを自分の陣営に引き込みにきたというわけだ。


カルエラには、既に宰相殿から何らかの接触があったのかもしれない。


アウルムの熱い想いが続く。

「私は傀儡などにはならない。今まで父王と二人三脚で治世をしていた宰相殿だからといって、何でも言われた通りにやれば良いと言うのは納得できないのだ。私は父上のように、自分で考えて、この国を良い国にしたいのだ。だから、宰相殿が既に決定したのだと押し付けてくるのが、どうにも我慢ならない。

最終的に、陛下や代理の私が書類に署名しなければ色々なものごとは成立しない。だが、署名を拒否し続ければ、それに賛同する貴族たちの反感を買い、私の言葉を誰も聞いてくれなくなる。邪智暴虐の王と囁かれるのではだめなのだ。」


求心力がなければ、誰も付いてこない。実績も何もないアウルムでは、貴族たちからの信頼は肩書のみである。その肩書すら、今は危うくなっているのだ。


第1王子と内容のある話をしたと思ったら、一気に運命共同体になってしまった。ルシアスは、予想以上の大きな波に飲み込まれ始めた事を自覚した。


「ルシアス、どうか私と共にあってくれ。」


御意と答える。やはり、否は無い。


口上を述べ、ルシアスは執務室を出た。颯爽と城内を通り抜け、城の端のほうにある自室までたどり着く。部屋に入って、大きく息を吐き出す。


とんでもない事が起きている。そして、とんでもない事に巻き込まれ、渦中の人となっている。

不安と驚きと、そして何よりも誰かに必要とされているという嬉しさがないまぜになり、手がしびれるような、心が強く揺さぶられるような感覚に暫しの間溺れるのであった。

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