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「ルシアス殿下、お久しぶりです。お元気そうで何より。ますます輝いておられるようですね。此度はご用命いただき、ありがとうございます。今回も選りすぐりのものを取り揃えて、はせ参じました。
おや?ロイ様の後ろにいるのは、どちらですか?執事殿とお見受けしますが。なんとも美しくておられる。やはりこういう仕事をしておりますと、美しいものや人には目がいくのです。お名前はなんと?」
よく喋る。
本人以外、誰も言葉を発していないのに会話が進むのは不思議だ。これも一つの才能なのだろうとルシアスはいつも思う。
「ゲンマ、息災であったか。相変わらず、よく言葉が出てくるな。」
「お褒めにあずかり、光栄です。」
「褒めてはいないだろう。」
ロイが代わりに答える。
「ロイ様、変わらず手厳しいですね。それにしても…。」
また話始めそうなので、ルシアスが割り込む。
「まぁ、よい。さて、来てもらって早々申し訳ないのだが、商談に入ろう。私も忙しい身になってしまってね。何もしなかった時期があったことが嘘のようだ。」
「お噂は、このゲンマの耳にも届いております。ウーベルでのご活躍は素晴らしいものであったと。赤錆病対策も万全で食糧難は去って、フェリシア王国は益々豊かな国になると専らの噂になっておりますよ。」
「そうであったか。そんな噂が広まっているとは嬉しい限りだな。」
ルシアスは自然と顔が綻ぶ。やはり嬉しいものだ。
ゲンマが楽しそうに続ける。
「こんな話もあります。
ルシアス殿下とリドア様はお互い出会った時に一目で恋に落ちたそうです。以前よりリドア様に思いを寄せていた護衛の男は、殿下ならと身を引く覚悟でいたところ、なんと殿下が心変わりしてロイ様を選んだ。それでも身体の関係だけは続けようとする殿下と、それでも離れたくないという切ない思いを持ったリドア様の逢引の場に、嫉妬と怒りに震えた護衛の男が乱入し、リドア様は護衛の男に息の根を止められ、その男はロイ様の返討にあって息絶えた、そうです。」
その場にいた者が皆、沈黙する。正確には、唖然としていた。開いた口がふさがらないとは、このようなことを言うのだろう。
「それは、随分と、劇的な話だな。」
ロイがぼそりと呟く。
「相変わらず、世の中は楽しい話で溢れているな。結局、私はまだ最悪ボンクラ王子のままということだ。」
ルシアスが苦笑しながら続ける。
「では、最悪ボンクラ王子に、自慢のものを見せてもらおうか?」
「おぉ、そうでした。では、これを。」
そう言って、ゲンマが首から吊り下げた袋を服の中から取り出す。
「相変わらず、変なところにしまっているな。」
ロイが言う。
「トランクなんぞ持ち歩けば、いかにも襲ってくれと言っておるようなものでしょう?このトランクの中には大したものは入れてないのですよ。命の代わりにくれてやるものです。勿論、人を見てトランクのものか、内側にしまっているものか、どちらを出すか決めますがね。」
ゲンマがにやりと不敵に笑う。
ゲンマは、40代の中肉中背、眼も髪も栗色の物腰柔らかな、おしゃべり好きの男だ。仕事は宝石商だが、うさん臭い雰囲気満載だ。ルシアスがこの男と知り合ったのは、数年前の夜の街である。その館の女将が紹介してくれたのだ。当時、どうでもよかったルシアスがちょっとした贈り物として、ゲンマに装飾品を作らせていたのだ。所謂、お得意様なのだ。
ベルベットの布の上に、ゲンマは一つずつ黒い石を丁寧に並べていく。室内に差し込む午後の日差しの中、その黒い石がキラキラと様々な色に輝く。
「これは何だ?色んな色に輝いている。とても美しい。」
ロイが黒い石の一つを手に取って様々な角度にしながら眺める。
「これは、ブラックオパールと言います。オパールの中でも希少なもので、この黒い下地に赤、青、紫等の様々な色を放つ宝石です。これだけの数を揃えるのは、それなりに大変でしたよ、殿下。」
ルシアスも一つを眺めながら答える。
「美しいな。ゲンマ、やはり君に依頼して正解だったようだ。」
「しかし、こんなに沢山同じものを揃えてどうするのだ。」
ロイが尋ねると、ルシアスは少し怖いほどの妖艶な微笑みで答える。
「私に所属する者たちに贈ろうと思ってね。目印をつけるのだ。私の息のかかっている者であるから、手出し無用とね。」
「まずはロイ様から、ということですな。」
ゲンマがそう付け加えながら、装飾されたブラックオパールを取り出した。
それは、金の繊細な縁取りのある親指の先より一回りほど大きなブラックオパールであった。金の縁取りには小さなダイヤモンドが散りばめられ、その下に十二芒星がゆらゆら揺れている。十二芒星の中心には、ルシアスの瞳と同じ色のアメジストが輝いていた。
ゲンマから渡されたそれを、ルシアスは眺める。
「うん。良い仕上がりだな。他のものも出来上がったら順次届けてほしい。代金は、先程から気にしている、その美しい家令が対応する。サス、頼んだぞ。」
そう言うと、ルシアスは部屋を後にした。
執務室へ戻ったルシアスがゆっくりと振り返り、ロイに声をかける。
「ロイド・ノックス。我が親愛なる騎士よ。」
ロイがルシアスの前に跪く。
「これは汝の忠誠に対する証であると同時に、我が加護のしるしでもある。常に身に着けよ。汝の行く末に光あれ。」
そう告げて、ルシアスは先程のブラックオパールのブローチをロイの左胸に付けた。




