表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仰げば尊し  作者: 孤鶴
1.我が師の恩
33/41

閑話1

「ねぇ、いつまでこれ着るの?」

「寝る前までです。これからは毎日着用ですよ。もう少し細かく言うと、朝身支度を整えて、夜就寝する前までということになりますね。」

「えー!今だけじゃないの?嫌だなー。」

「俺も嫌だ。何かこの服、首周りがキツいし。」


ここは王都にあるルシアスの邸宅である。ルシアスの母が生活していた小さな邸宅だ。ウーベルから戻って、ルシアスは生活の拠点を移したのだ。


先程から不満を述べているのは、ベスペルとテリオだ。使用人の服が気に入らないらしい。サスが丁寧に答えている。


「初日早々これでは先が思いやられますね。貴方達はやる気があるのですか?」

「やる気はあるけど。嫌だなー。」

ベスペルが昨日の事を思い出しながら、げんなりして答える。


王都について、ベスペルとテリオは、都会の様子に喜び、まさしく跳んで回っていた。少年少女にとって、都会はとても刺激的で楽しかったのだろう。2週間程度して気持ちが落ち着き、一段落したところで、ルシアス邸に姿を現したら、サスに捕まった。


2人は先ず洗われた。風呂に入ったというよりは、数人がかりで徹底的に磨かれたのだ。相当に汚れていたらしい。はじめの頃は、水も泡も黒かった。自分の汚れに驚いたくらいだ。磨かれた後、髪を切って整えられたら、既に夜になっていた。今朝叩き起こされて、他の使用人たちに教えて貰いながら、やっとこの服を来て、サスの前に現れたところだ。

「ねぇ、サス。俺達の服って何で他の人と色が違うの?」

「先ず私が答える前に、言い直しなさい。『俺達』ではありません。『私達』です。」

テリオがげんなりして繰り返す。

「私達の服は、何故他の使用人の方達と違う色なのですか?」

サスが満足気に答える。

「それは、殿下の側仕えのみに許可されている色だからです。その色の服ということは、最も殿下のお側にいる人間ということを示しているのです。皆の模範となるよう、精進しなさい。貴方達は常に見られているのですからね。良いですね?」

「そうなの!?じゃあ、私、皆と同じ黒がいい。できないよぉ。」

ベスペルが泣き言を言う。

「何を今更。自分からやると宣言していたではないですか。思ったより根性なしなのですね。」

サスが軽蔑した目でベスペルを見ると、ムッとした顔でベスペルが答える。

「うるさい。あんたって、本当にムカつく言い方するよね。絶対に負けないから。見ときなさいよ、フン!」

「先ずはその言葉遣いからですね。先は遠いようですねぇ。」

サスが勝ち誇ったように続ける。

「では、行きますよ。」

そう告げられて、三人が向かったのはルシアスがいる執務室だった。


ルシアスは王都に戻った後、多量の仕事を回されている。使えるやつ認定されたことは喜ばしいのだが、今は仕事に忙殺されている状態だ。

ドアをノックして中に入る。いつもとは勝手が異なるため、二人は縮こまってサスの後に続く。

ルシアスが仕事の手を止めて、二人を見やる。

そして、笑顔になる。

「ほう。これは素敵な二人だな。黒も良いが、灰色も似合うな。丁度良かった。休憩がてら、君達と相談したいことがあってね。」

そう言いながら、ルシアスがソファに移動し、ロイも仕事の手を止めて参加する。他の使用人が部屋を出たところで、二人に座るようにルシアスが勧める。

「相談したいのは、君達の名前だ。」

「名前?」

ロイが代わりに答えると、ルシアスが続ける。

「そうだ。名前だ。ベスペルとテリオ、この名前はどうやって付けられた名前だ?」

ベスペルが少しうつむきながら答える。

「頭目が付けた名前よ。私達は『コウモリ』の中であらかじめ決められている名前を使うの。誰かが死ぬと、新しく使えるようになるの。」

「そうだったのか。」

ロイが驚いて呟く。

「その名前をどうしようかと考えていてね。君達は既に『コウモリ』ではない。だから、その名前を使う必要がない。そして、その名前から、かつて君達が『コウモリ』であったことを嗅ぎつけられる可能性がある。私としては変えたい気持ちがあるのだが、名前というものは大事なものだ。君達の意見を聞きたくてね。」

ルシアスは不思議な人だと、やはりサスは思う。一方的に決めても良い立場なのに、いつも本人の気持ちを聞いてくれる。サスはそんなルシアスが好きだ。

ベスペルとテリオが目を合わせて、驚いた後、考え込む。

「何だか、殿下の側にいると、考えることが増えるなぁ。いや、増えます。」

テリオがぽつりと呟いて、続ける。

「私はできることなら、新しい名前が欲しいです。『コウモリ』は俺、いや私の歴史ではあるけど、新しい自分を始めたいからです。」

「私も、新しい名前がいい。です。」

ベスペルも続く。


「そうか。良かった。では、私が考えた名前を伝えてもよいだろうか?」

ルシアスがベスペルを見る。

「ベスペルは、クレア。輝くという意味だ。」

次にテリオを見る。

「テリオは、ウェントス。風という意味だ。」

ロイが付け加える。

「輝く風か。良い名だな。」

二人が嬉しそうに、自分の名を呟き、礼を述べる。

「本当に良いのか?遠慮は要らないぞ。」

ルシアスが念を押すが、二人は新しい名を選んだ。


挿絵(By みてみん)


こうして、ベスペルとテリオこと、クレアとウェントスは、新しい生活を始めることになった。



そして、目まぐるしい速さで1ヶ月ほどが過ぎたある日の午後、久しぶりの休憩を取ることができた二人は、側仕えの控室で寛いでいた。

そこへサスも加わり、和やかな雰囲気で会話を楽しんでいた中、ウェントスがサスに尋ねた。

「前から気になっていたのですが、殿下は男性が好きなのですか?女性が好きなのですか?それとも、どちらも?」

サスが紅茶を吹き出しそうになるのを堪えて、咳き込む。

「何故、そのようなことを?驚きのあまり、変な場所にお茶が、ゴホッ、入ったではないか、ゴホッ。」

「いえ、その、ウーベルの夜会の時にロイ様とあのような事をしていたので…。その、どうなっているのかなと思いまして…。」

「ウェントス、そんな事を聞いてはいけないわ。とはいえ、私も気になるけど。実際、どうなんですか?」

クレアも加わる。

ウーベルの夜会の時のロイとの事とは、リドアの目の前でルシアスがロイに口づけた事だ。クレアもウェントスも影で見ていたらしい。

「あぁ、あれか。あれはただのいたずらだ。」

「「いたずら?」」

二人が声を揃えて聞き返す。

「そうだ。殿下はたまにああやって面白がるのだ。昔からだよ。周りのものは皆知っているから驚かないがな。私も経験者だ。」

サスがサラリと言う。

「え!サス様もロイ様と同じ事されたの?本当に?じゃあ、私もそんな日が?」

「ウェントス、なに?それ嬉しがってるの?あんた、殿下の事、好きなの?」

クレアが冷めた目でウェントスを見る。

「いや、好きとか、嫌いとかじゃなくて。あんなに綺麗な人に迫られたら、男でも女でも舞い上がってしまいそうじゃないか?」

「あー、確かにね。私も嬉しくなっちゃうかも。」

クレアが妄想してはしゃぐ。

「で、サス様はどうでした?嬉しかったですか?」

クレアがサスに感想を聞く。

「そうだなぁ。嬉しかったというより、なんというか、殿下に見つめられると、そうあってしかるべきというか。困ったとかそういう感情はなかったな。」

「なにそれ。完全に落ちてる感じだわ。」

クレアが、やだーと言いながらサスの腕をバシバシと叩く。それなりに痛い。

「そうだなぁ。でも、殿下ならいいかぁ。」

ウェントスが呟くと、間髪入れず、クレアが真顔での答える。

「意味わかんないんだけど。」


そんな、他愛もないお喋りを楽しんだ3人だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ