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仰げば尊し  作者: 孤鶴
1.我が師の恩
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1.Epilogue

調印式の翌日、ルシアス一行はウーベル領を立った。


馬車の中からのんびりとウーベルの流れ行く景色を眺める。

「結局、アウルム様と王の血縁関係を示すものは見つけられなかったな。」

ロイがぽつりと呟く。

「そうだな。大事な課題だったのだが、今のところ、何もなしだな。でも、まだ諦めてはいないぞ。今回の旅で頼もしい仲間も増えた。違った展開があるかもしれないからな。」

「殿下、お言葉ですが、あの二人はどうするのですか?礼儀作法もできておりませんし、なにしろ清潔な感じがしません。」

サスが神経質に言う。

「それなんだが、私の傍に仕えるものとして、彼らにもしっかりと教育をしたいと思っている。サス、ジェニと君に任せたいと思っているのだが、どうだろうか?」

「私に?」

「そうだ。今はまだ、彼らを完全に信用している訳では無い。だが、ゆくゆくは私の大切な部下になってほしいと思っている。君自身も、かつて懸命に習得したはずだ。今度は教える側になってみないか?」

ルシアスが続ける。

「そして、君には私の側近として働いてほしい。これから忙しくなるだろうからな。」

サスの顔が輝く。ルシアスも嬉しくなる。

「サス、随分と昇進だな。それに比べて、私は今回の旅で自身の技術が全く足りてないことを痛感したよ。帰ったら、ひたすら鍛錬だ。」

ロイは未だ引きずっているようだ。


「ところで、あのディロスは何処から調達したんだ?それなりのものだと思うのだが。」

ロイがルシアスに尋ねる。

「あぁ、あれは、その。」

「なんだ。」

ロイの顔が渋くなる。

「あの器具と共にもらってきましたよ。」

サスが答える。

「ということは、その代金は何処から出たのだ?」

ルシアスが観念したように答える。

「前借りだ。」

「前借り?幾ら借りたのだ?払えない程ということか?」

「今まで財産など残らぬように使ってきたのだ。貯金など、あるわけないだろう。」

「私に一言言えばよいものを。毎回なぜ勝手に行動するのだ。」

「そうだな。」


ルシアスが外の景色を見やりながら続ける。

「私は今まで、誰にも期待されず、相手にもされなかった。それ故、手を差し伸べてもらうことも稀であった。だから、何もかも自分でやらねばならないと思っていたのだ。」

ルシアスがロイに目を向ける。

「しかし、今回の旅で自分以外に頼ってもよいのだということを知ったのだ。本当にこの旅はよいものだったよ。」

「それはよかったな。」

ロイも感慨深げに言う。そして、真顔で付け加える。

「だが、借金はよくない。王都に戻ったら対策を立てよう。利子も馬鹿にならないぞ。」


だが、ルシアスには、借金返済の当てがあった。

ウーベルを立つ前に、ネクタリス群生地の措置を取り決めたからだ。()()()()鍛錬中にロイが見つけた群生地は、ルシアスの管轄するものとして取り扱う事とした。来年花が咲き始めたら、返済の目処が経つだろう。

そして、()()()()ネクタリス群生地の近くに誰もいない小屋があり、()()()()その小屋の近くに養蜂箱が設置されていたので、そのまま活用することにした。その為、負担なく事業開始することができるという流れだ。

『コウモリ』に攫われた者たちの中には、この小屋で働いていた者もおり、彼らは保護施設に収容された。皆一様にディロスを与えられていたそうだ。彼らの世話くらいは、何もしなかったウーベル領主にやってもらうことにした。今後、少しでもディロスから離脱できる者が増えることを願うばかりだ。



馬車の窓を流れる景色を再び眺めながら、ルシアスはウーベルを立つ前の事を思い出す。



旅立つ日の朝、ルシアスとロイは、リドアを見舞った。人形のように横たわるリドアの意識は戻っておらず、既に虫の息であった。そう長くは持たないだろうと思われた。数えるほどしか話をしたことが無くとも、一つの命が消えそうになるのをみるのは辛い。そして、スクアも別の世界の住人となったようで、空を見上げて誰かと話していた。


二人の見舞いを終え、岡の上の教会と修道院に向かった。

アピスに礼を述べ、今後も連絡を取り合うこととした。そして、新しく作られた小さな墓の前にロイと二人で立つ。頭目の墓だ。

「もっとよい終わり方がなかったものかな。」

「あの状態では無理だろうな。ディロスは多幸感を得られるのだろう?ルシアスがディロスを打ち込んだことで、本人は苦しく無かったのではないのかな。」

「そうだったらいいのだが。本人のみぞ知るということだな。」

ふわりと黒い塊の気配を背中に感じる。ルシアスは墓標を眺めながら伝えた。

「君達の恩師だ。最後は袂を分かつ結果となってしまったが、君達の基礎を作り、道を示した事には変わりない。その事に感謝しないとな。」

「うん。」

「そうだね。」

二人は短く答えた。


ルシアスにも大事な恩師がいる。先生だ。今回もルシアスを導き、沢山のことを気付かせてくれた。


ーそう、『我が師の恩』だ。ー

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