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調印式と晩餐を残すのみとなったウーベルでの仕事が一段落したこともあり、ルシアスは先生との答え合わせをするために、今、村を訪れている。馬車でなければ半日だ。今回は、サスも同行する。
村長の応接室で前回同様待っていると、今回は直ぐに使いが来た。ウルだ。サスとウルは驚いて、暫くお互いに見つめ合ったまま動かなかったが、直ぐに打ち解けたようだ。ウルに連れ立って、先生の自宅に向かう。今日は昔のままの老人の先生だった。
「先生、ウルとサスが白い理由を私なりに考えてみました。」
ルシアスはそう言って、模様のある豆の話、ラルス村の話をまとめて伝えた。
先生は満足気に頷きながら言う。
「やっと、本来の殿下に戻られましたな。前回は余りの堕落具合に呆れましたぞ。」
「お恥ずかしい限りです。先生のお言葉のおかげで、色々と見えるものがありました。ありがとうございました。」
「頑張っていたことは存じております。ラボールが不甲斐ない護衛を嘆いておりましたぞ。」
ルシアスとロイが驚く。
「なに、ステラの者は繋がっておりますからな。」
「繋がっている?」
先生が二人の反応を見て、面白そうに答える。
「左様。頑張られた殿下に好々爺から褒美を差し上げましょう。」
そう言って、先生がステラの『繋がり』について教えてくれた。
そもそも魔力は大きな水たまりのようなもので、血のつながる者たちがそれと細い管でつながり、魔力を供給したり、使用したりする。謂わば、ステラ家の魔力貯留池だ。他の家系も皆それぞれ持っているのだが、魔力が弱いため自覚されていないだけなのだという。魔力が弱いなりにも、身内の非常時に胸騒ぎがするのは、これがあるからだそうだ。
そして、その魔力貯留池が同じであれば、手を入れている時に池に振動があれば分かるように、異変を感じ取ることができるのだという。先生はその膨大な魔力のため、相手の気持ちまで汲み取る事ができるのだそうだ。
ルシアスに疑問が湧く。
「ということは、先生はステラ家の人間ということですか?」
「気が付くのが遅いのう。でなければ、わざわざこんな村にはおらんじゃろ。」
ロイが続く。
「ラボールもか。」
「その通り。だから、殿下がステラ家の人間とわかったのじゃよ。」
「しかし、私自身はそのような共鳴など、生まれてこの方感じたことがありません。魔力は少なくはないと思うのですが。」
ルシアスは改めて今までを振り返る。母とはなんとなくあったような気もしなくはないが、幼くてよく覚えていない。しかし、他の人間とは全く誰とも繋がりなど感じたことなどないと断言できる。ラボールは分かるのに、自分は分からないとは、些か不満である。
「そこが不思議なのです。魔力が強いほど、共鳴も強くなる。そして、魔力が強いほど、感じ取る力も強くなる。ステラ家の魔力は強い。殿下はミラ様の血を継いでいるのに、何故これほどに共鳴しないのか。弱すぎて、近くに寄らんとわからん程度ですからの。王家の影響ですかのぉ。」
先生が好々爺風に言う。が、この人は断じて好々爺ではない。本来は、毒をはくのが好きな人である。ルシアスはがっかりしながら、好々爺風の先生に質問する。
「では、私は王家とステラ家が混じった結果、魔力は強いものの、近くに寄らないと分からない程度の共鳴しか持ち合わせず、しかも相手は分かるのに、自分は分からないという、何とも残念な状態と。」
「今のところ、そうですな。じゃが、心配なさるな。共鳴はステラ家しか持ち合わせませぬ。あの忌むべき王家程度の魔力では無理ですからの。」
どちらにせよ、ルシアスには使えないのだ。残念な事、この上ない。
ルシアスにとって、魔力とは、大なり小なり皆持ってるものであり、生命力と密な関係があってお互いに補給し合うことができる程度のものという認識であったため、血族による繋がりがあるという先生の話は驚きであった。そして、魔力に関して、この旅で感じていた疑問をぶつけてみる。
「先生、一つ気になっていることがあります。魔力には、生命維持以外の力、共鳴もそうですが、それ以外の力があるのではないでしょうか?」
「ほほぅ。殿下はどうお考えかな?」
先生が興味深げに返事を促す。
「魔力は、ある特定の特性、例えば身体能力など、に極端に傾ける事で通常よりも遥かに強化された状態にすることができるのではないかと考えたのです。」
「なるほど、よいところに気が付かれましたな。」
先生は満足そうに頷きながら続ける。
「殿下、その通りです。
魔力は、その力を使って特定の能力を増強することができます。例えば、俊敏性や跳躍力などですな。魔力の強さにより、少し足が早い程度から目に見えぬ速さで移動する程度まであるということです。多くの者は、共鳴と同様、気がついておりませんがの。分からぬ程度の僅かな魔力では仕方のないことでしょうな。
殿下が心の中で思い描いているその者達も、代々その力を引き継いできた一族でしょう。まぁ、自身が不利になるのに能力をわざわざひけらかす者もおりますまい?」
「やはりそうでしたか。魔力の弱い多くのものが、皆自分と同じであると思い込んでいるから、尚の事、この能力は表に出てこないというわけですね。」
「左様。注意深いものは気が付くということです。殿下がお気づきになられて何よりですな。」
そう言って、先生はフォ、フォ、フォと笑っている。何度も言うが、この人は好々爺ではない。今日はこの役が楽しいのだろう。
「先生。もう一つお伺いしたいことがあるのです。」
「まだありますか。貪欲に知識を求める姿勢は嫌いではありませぬぞ。」
ご機嫌な様子だ。
「魔力を使って心体的に強化することができるのであれば、精神的な強化もできるのではないでしょうか?つまりは、他者の精神に何らかの影響を与えるということです。」
ルシアスには、一瞬だけ、フサフサの眉の奥にある先生の瞳がキラリと光ったように見えた。
「さて、それはどうでしょうなぁ。それができるのであれば、随分と色んな事ができますな。」
先生が、怖い、怖いとぼける。何かを知っているようだが、この様子では教えてくれまい。やっと課題をこなしたのに、また課題ができてしまったようだ。
村の宿のトロトロチーズのかかったひき肉とマッシュポテトをサスが喜んだのは良かったが、がっかりな結果と新しい課題を伴って、ルシアスはウーベルへ戻ることになった。




