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仰げば尊し  作者: 孤鶴
1.我が師の恩
29/43

1-28

リドアが襲われ、ルシアスが怪我を負ったという話はあっという間に広がり、先日顔見知りになった諸侯達がひっきりなしに見舞いに来る。これでは養生にならないのではないかとか思うほどだ。

見舞いの客がひとしきり落ち着いたころには、ルシアスが怪我を負って5日程経っていた。


秋が日に日に深まっていく。

腹部の打傷による痣も消え、肩の傷も塞がって動かすのに少し傷む程度にまで回復した。ルシアスの魔力が多い事も幸いしたのだろう。


ルシアスは定位置となったソファで寛ぎながら、現状を整理する。

1つ目、赤錆病の対策。

一連の騒ぎの最中も、農地改革は着々と進み、小麦を刈り取った後に整地が始まる。ここからが本当の勝負となる。経済面でも決着がついたので、当初の目標は達成したと思ってよいだろう。

2つ目、リドア母娘と『コウモリ』の排除。

内容は兎も角として、このウーベル領内からは排除することができた。ルシアスにとっては、ベスペルとテリオという頼もしい仲間を得ることができて、大変よい結果となった。

3つ目、アウルムの母ララの身辺調査。

思いがけず、ドビオ本人と対面することになったが、その複雑な背景を把握することができた。アウルムはドビオの息子ではない。しかし、公に出来る資料がないのが現状だ。アウルムにも、今回の話はするつもりはない。


大義名分は果たせたのだが、アウルムが一番欲しい情報は得られていない。


ふと、先日アピスから聞いた豆の話を思い出す。

模様のある豆同士を掛け合わせると、模様のあるもののみの株と、模様のあるものと無いものが3対1で出てくる株があるのだそうだ。模様なしのものと模様なしのものからは、模様なししか出てこない。これを、サスに当てはめてみる。

サスの両親は二人とも白くない、模様ありだ。

その子であるサスは白い、模様なしだ。

サスの両親は模様ありと模様なしが出てくる株ということになる。ということは、サスの両親より上の何処かに模様なし、つまり白い人がいれば、この法則は成り立つ。

では、証明するにはどうするか。サスの母は亡くなっている。父はよく分からない。知りようがない。


行き止まりだ。


ルシアスは、テリオを呼ぶ。


「少し息抜きに付き合ってくれないか?考えが行き詰まってしまった。」

「殿下はいつも考えてるね。俺は無理だなぁ。で、何考えてたの?」

「サスの事だ。」

「あぁ、あの白い人?あの人、ラルス村の人なの?」

「ラルス村?ラルス村とは?」

「え?ラルス村は王都とウーベルの間くらいにある村だよ。あの村には、昔から白い人が多いんだ。でも、白い人は日に当たるのが苦手だろ?だから、ラルス村の人は頭からすっぽり外套をいつも被ってるんだ。面白い村だよ。」


こんなに近くに手がかりがあったとは。

やはり、情報を集めることはとても大切だと実感する。


「テリオ、その村の家系を知ることが出来るものを手に入れることはできるだろうか?白い人がどのような家に生まれてくるのか知りたいのだよ。」

「わかった。そんなに時間はかからないと思うよ。」

テリオは嬉しそうに答える。

「何故そんなに嬉しそうなのだ?」

「そりゃそうだよ。まともな仕事だもん。」

そう言うと、テリオはひらりとバルコニーから消えていった。複雑な心境で、ルシアスはその背中を見送った。


テリオの『そんなに時間はかからない』は本当だった。午前中に話をして、夕暮れ時にはもう戻ってきたのだ。丁度、ウーベル領を去る前に開かれる晩餐の相談を、ロイ、サス、ジェニとしている時だった。


「殿下、わかったよ。」

テリオが軽やかに応接室に滑り込む。

「その口の利き方はどうにかなりませんか?不適切です。」

サスが答える。

「なんだよ。サスの為に行ってきたんだぞ。もっと言い方ってあるんじゃないの?」

テリオの方が上手のようだ。

「随分と早かったな。ありがとう、テリオ。何かわかったか?」

ルシアスが労いながら尋ねる。

「うん。村の近くの教会の資料を見てきたよ。白い人って、ばらばらに生まれるんだね。白い人は白い人からしか生まれないと思ってた。」

「やはりそうか。資料を見せてもらえるかな?」

 

テリオの書き留めたものを整理しながら、家系図に起こしていく。予想通りだ。白くない人から時々白い人が生まれる。そして、たどっていくと、白い人の上や更に上の代にやはり白い人がいるのだ。豆と同じだ。模様なしは隠れていて、時折、姿を現す。模様ありと模様なしでは、模様ありの特性が勝るのだろう。


ルシアスは、豆の話とラルス村の話を説明する。


「つまり、サスの上の代の何処かにサスと同じように白い人がいたんだ。君の母上は潔白だろうな。」

ルシアスがそう伝えると、サスは噛みしめるように答えた。

「そうでしたか。母はやはり嘘をついていなかった。よかった、よかったです。」

「サス、よかったね。」

ベスペルがいつの間にか混ざっていた。


なんとなく皆が幸せに感じる一時であった。



が、ルシアスが欲しい情報はまだ手にはいらない。


今回の旅を通して、ルシアスは情報がいかに大切かということを身に染みて感じていた。そこで、思い切って情報を募集することにしてみる。


「皆、聞いてくれ。

私は今、アウルム殿下と父王の繋がりを探している。二人が親子であるという証明となるものだ。どんなに些細な事や物でも構わない。もし見つけたら、私に知らせてほしい。」


その場にいた者達が、各々頷く。皆が頼もしく見える。

今までロイと二人で、時々ウィリもいたが、乗り越えてきた。しかし、今は目の前に助けてくれる仲間がいるのだ。嬉しさと安心感と不思議な充足感を味わいながら、ルシアスは一人感慨にふけった。

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