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ルシアスはロイと共に城に戻った。
応接室のバルコニーに出て、夜風に当たる。本格的な秋に向かう風は少しひんやりとして心地良い。酔いを覚ましながら今日の事を思い出し、思考に耽る。ロイが隣に立ち、聞いてくる。
「あの男、何者だ?あの仕草にはどんな意味があるんだ?」
ルシアスは思考をやめて答える。
「あぁ、あれはステラの騎士の挨拶だ。」
「あの男、ステラ国の騎士だったのか。だから、逞しい体つきだったんだな。でも、ルシアスが驚く程のことじゃないだろう?」
ルシアスは微笑む。
「あの挨拶は特別なものなのだ。」
「特別?」
「そうだ。あれはステラ家の者に対して行う近衛にのみに許された挨拶だ。あの者は、私がステラの者だと気がついていたのだな。そして、彼自身、ステラ家の誰かを護衛していたのだろう。何故私ことが分かったのだろうな。頭の回転が速そうだったし、目印でも付いていたかな。」
「近衛か。今の私と同じ立場だったということだな。それはそうと、『コウモリ』はこの花のブローチに気がついたかな?」
「どうだろうな。しかし、何故私たちに接触したいのかがわからない。」
「もしかしたら、後ろの黒幕が私達を引き込みたいのかな。」
「いや、違うだろう。『コウモリ』は、あの場所に燃えかすを残して、私に自分の存在を気づかせた。あの母娘にも気が付かれないように接触して来たということは、『コウモリ』自身が私達と何かしらの接触をしたいということだろう。では、何故私達なのか、そこが分からないんだ。」
「そうだなぁ。なんだろう。私達は『コウモリ』の存在すら知らなかったしなぁ。彼らにとって、ここにいる人間になくて、私達にあるものが理由か?」
「なくて、あるものか。」
二人とも夜空を眺めながら、無言になる。
暫くしてロイが突然話し出す。
「星が降ってるみたいだな。」
流れ星が二つ同時に流れたからだ。
「その台詞は、この地域では気をつけないといけないらしいぞ。」
「どういうことだ?」
「先日ステラの村で聞いたのだが、この辺りでは『星が降る』という言葉は『愛してる』という意味があるらしい。星詠みの国らしいな。実に情緒的だ。」
「それは大変だ。気をつけないといけないな。人間関係が複雑になりそうだ。」
二人で空を見上げながら笑い合う。
「関係だ。」
突然、ルシアスがポツリと呟く。ロイが笑顔と疑問の混ざった顔で、ルシアスを見る。
「何の関係だ?」
ルシアスが楽しげに答える。
「私達と『コウモリ』の関係だ。」
「だから、何も関係なんてないぞ。」
「そうだ。何の関係もない。それが彼らには必要だったんだ。」
ロイが考えながら話し出す。
「なるほど。彼らの黒幕はそれなりの地位で広い繋がりを持っているということだな。彼らは何かしらの行動を起こしたいが、彼らだけではそれを達成することができない。しかし、この辺の人間では黒幕に裏をかかれてしまう可能性がある。そこに、今まで何も活動をしていなかった第12王子が突然現れた。その黒幕とはまだ繋がっていない、もしくは繋がらない関係であると踏んだ。だから、燃えかすを残して反応をみた、ということか。燃えかすに気が付かないようなら使い物にならないし、気がつくなら使えるかもしれないと。」
「恐らくそうだろう。ウーベルに入ってから私達の行動は監視されているはずだ。もしかしたら、もっと前から監視されていたのかもしれないな。」
「でも、私達が黒幕と繋がっていないなんて保証はないだろ?今だって演技してるのかもしれない。彼らにとって、危険が高すぎる。」
「そうだ。その危険性を天秤にかけても、動かねばならない理由があるのだろう。恐らく、彼らには時間がない。」
「ということは、彼らは私達を何かに巻き込むつもりだな。」
「いかにも。だから、私達のこの考えが正しければ、近いうちに次の何があるかもしれないな。」
ルシアスの言葉が終わると同時に、バルコニーの硬い床にカツンと軽い何かが落ちる音がする。
そちらを振り向くと、バルコニーの柵と窓の間の角に何か黒い塊が見える。
ルシアスは微笑みながら話しかける。
「はじめまして、『コウモリ』殿。」
黒い塊がゆらりと揺れた瞬間、それは膨らむように大きくなり、ふわりと消えてしまった。
「なんだ?」
ロイが剣の柄に手を置いたまま呟く。
「さて、私にも分からない。折角、格好よく挨拶出来たと思ったのに残念だ。」
「いや、そういう問題ではないだろう?私には上からもう一人降りてきて、連れて行ったように見えたのだが、ルシアスはどう見えた?」
「残念ながら、私の眼はロイほど瞬間を捉えられなかったな。膨らんで消えたようにしか見えなかった。」
「そうか。あの行動の理由はわからないが、接触しようとしたところをみると、私達の読みは大方正解というところかな。」
そう言いながら、ロイは床に落ちたものを拾った。
「どんぐりだ。変わった形だな。初めてみたよ。」
そのどんぐりは細長い形で、ルシアスも初めて見るものだった。
「明日、このどんぐりのこともアピスに聞いてみよう。聞き終わるのに半日はかかるかもしれないな。」
今日は長い1日だった。そして、明日も長い1日になりそうだ。




