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仰げば尊し  作者: 孤鶴
15/25

1-14

翌朝、ルシアスとロイは村長に今回の礼を述べ、次回はリンブス領主を訪れる言付けを託して村を後にした。サスの待つ一行と早々に合流し、ウーベル地方の首都スピカを目指した。首都に近づくと、少しずつ歓迎も大げさになっていった。二日後の昼過ぎにスピカに到着した。


大きな領地を治める有力公爵家であり、かつては国であった名残であろうか、その邸宅は館というより城である。ルシアス一行は、丁寧に迎えられた。


ルシアス一行が一息ついた後、内輪での歓迎の晩餐が開かれた。今日は顔合わせのようなもので、それぞれの自己紹介が始まる。

ウーベル領主は、その名をフルーメル・ウーベルと言う。アウルムの母の年の離れた弟だ。その妻も同席する。子はまだいないそうだ。年齢的にはアウルムと同じ頃の30代だろうか。とても落ち着きのある、好感の持てる二人だ。今回の赤錆の被害対策、収穫量が減ることによる減税対策案や保存穀物の解放についてなど、ウーベル地域の民を思う考えを聞くことができた。とても領民思いの良い領主のようだ。明日以降、良い協力関係で活動できそうだ。


と、ここまでは良かった、ここまでは。


この先が良くなかった。


次に紹介されたのは、アウルムの母とフルーメルの間の姉、その夫と娘であった。姉はスクア、その娘はリドアと名乗った。夫は終始ほぼ無言で頷くのみの人物のようだ。彼女らは、兎に角よく喋る。王都での流行はどうだとか、自分はこんなものを持っているだとか。ルシアスには、つまらない内容だった。そして、何気ない仕草から、自分より下位のものを見下し、服従させることに喜びを感じる人々のようであると思われた。同じような環境で育っても、一人一人違うのは不思議だ。何がそうさせるのだろうかと、ルシアスは考えながら彼女たちのお喋りを聞き流す。


そして、更に良くないことが聞こえてきた。


領主フルーメルには子がないため、今現在リドアが次期領主の予定らしい。この家族の態度は、唯一の次期領主候補という強みから来ているのかもしれない。


この国は一神教ではない。神は万物に宿り、八百万の神がいる。そのため結婚は神との契約ではなく、一夫一婦制ではない。故に、正室の子が優先されるものの、正室も側室もその子に継承権を持つ。ルシアスが王子であるのもそれが所以である。


だから、アウルムの母とフルーメルの間の姉が側室の子であっても、それ以外に継ぐものがいなければ、次期公爵家当主の可能性があるのだ。


ルシアスがフルーメル夫妻と穏やかに会話を楽しんでいても、スクアリドア親子が会話に割り込んで、自分の話を振る。貴族の中にもこのような無礼な者がたまにいるが、王族を前にしてここまで厚顔無恥な者はいなかったのではないかと思いながら、ルシアスは万能笑顔で適当に流した。晩餐の終盤には、この母娘に疲れたのか、旅の疲れが出たのか、ルシアスは早く部屋に戻りたい一心だった。


晩餐が終了し、自室へ戻る。

「あの一族、どう感じた?」

疲れた体をソファに沈めるように座りながら、ルシアスが向かいに座るロイに尋ねる。ロイも公爵家次男として、晩餐に参加していた。

「正直、フルーメル殿が気の毒だと思った。あそこまで、なんというか、振り回すような人間がいると気が休まらないのではないかと思うよ。」

「同感だ。話を聞いているだけで体力が削られるようだったよ。それに、あの母娘、私に流し目を送っていたぞ。頻繁に。」

「私も気がついていたよ。あれはかなり露骨だったな。あの娘、あわよくば王子に取り入って正室の座を獲得しようと思ってるのかもしれないな。母親の目的はわからないが。ただ単に、君がお気に入りなのかもな、流石ルシアス王子。」

ロイがからかう。

「あまり嬉しくないな。」

ルシアスがげんなりした顔で答える。

「滞在期間中は、できるだけあの母娘と離れて過ごそう。余計な疲れはためたくない。」

「同感だ。しかし、あの母娘、ルシアスのことを何一つ聞かなかったな。取り入りたければ、少しは情報を得ようとするものではないのか?」

ロイもソファに背を預け、力を抜きながら会話を続ける。疲れたのだろう。

「彼女たちには、きっとどうでもよいことなんだろう。とりあえず、なんでも種を撒いておく主義なんじゃないか。」

「そうか?そんな策略家には見えなかったが。案外、食えない奴だったらそれはそれで面白いがな。」

二人で気だるげに笑い合う。

「まぁ、今日はこれで一段落だな。明日から本格的に被害の確認と対策を練らないといけない。ここで成果を出さねば。」

「そうだな。スピカに到着するまでこの土地を見てきたが、やはりウーベル領は広大だな。この地域の被害はフェリシア王国に甚大な飢饉をもたらす可能性がある。早めに手を打たないといけない。考えなしにここへ来たわけではないとは思うが、我々は農業に関しては素人だ。何か策があるのか?」

ロイが気になっていた事をルシアスに問う。

「本当のことを言うと、出発当時は何も策を思いついていなかった。」

ロイが驚き、呆れる。

「現地を見て考えようと思っていたんだ。」

「相変わらず行き当たりばったりだな。本当に、よく今まで死なずに生きてきたな。」

ため息交じりにロイが言う。

「いや、最後まで聞いてくれ。ここに来るまでの間にある策を思いついたんだ。まだ確信がないから、ロイやサスにも少し動いてもらわないといけないかもしれないが。」

「ほう、面白そうだな。どんな話だ?」

「それは明日以降に説明する。今日はなんだかとても疲れたよ。」

「確かにそうだな。頭が働かなさそうだ。明日にしよう。」

そんな事を言いながら、それぞれの自室で就寝する。


ルシアスは、目を閉じて明日の予定をおさらいしようと思ったのだが、おさらいする間もなく意識を手放した。



部屋に差し込む緩やかな朝日の明るさに、ルシアスは目を覚ました。朝のまどろみの中、気怠い体を横に向ける。

「おはよう、美しい人。」 

慣れた手つきで、いつものように隣に横たわる人の髪を手ですきながら声をかける。この数年、ルシアスが唯一鍛え上げた条件反射だ。朝目覚めた時に隣に誰かいると、条件反射で一連の動作をしてしまう。そうである、花街仕込みの朝の迎え方だ。

ぼんやりした頭で、今日は何処にいるのだろうと考える。だんだん頭が冴えてくる。


ー誰だー


自分は今ウーベル領主の城に滞在しているはずだ。そして、昨日はロイと話した後、気絶するように眠りについたはずだ。この状況が起きるきっかけがどこにもない。何が起きたのかと、未だすっきりしない頭でルシアスが考えていると、隣の人が寝返りを打ってこちらを向く。



リドアだ。

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